民事訴訟法・総則

前回(id:kokekokko:20090424#p1)のつづき。

3 当事者能力・訴訟能力

1 当事者能力
当事者能力: 判決名宛人(原告・被告)となる権利・地位。
民法上の権利能力者に加え、法人でない社団又は財団で代表者又は管理人の定めがあるものは、当事者となることができる。
 
2 訴訟能力
訴訟能力: 訴訟行為を行う権利・地位。

(未成年者及び成年被後見人の訴訟能力)
第31条  未成年者及び成年被後見人は、法定代理人によらなければ、訴訟行為をすることができない。ただし、未成年者が独立して法律行為をすることができる場合は、この限りでない。

法定代理人の「同意を得て」行うのではなく、法定代理人に「よって」行う。
成人擬制されている場合は、但書に従い、訴訟能力を有する。
 
訴訟能力・法定代理権を欠く訴訟行為は、無効となる。裁判所は、訴えを却下する前に、期間を定めてその補正を命じる。
訴訟能力を有する(に至った)者が追認した場合は、行為の時にさかのぼってその効力を生ずる。

(訴訟能力等を欠く場合の措置等)
第34条1項  訴訟能力、法定代理権又は訴訟行為をするのに必要な授権を欠くときは、裁判所は、期間を定めて、その補正を命じなければならない。この場合において、遅滞のため損害を生ずるおそれがあるときは、裁判所は、一時訴訟行為をさせることができる。
2項 訴訟能力、法定代理権又は訴訟行為をするのに必要な授権を欠く者がした訴訟行為は、これらを有するに至った当事者又は法定代理人の追認により、行為の時にさかのぼってその効力を生ずる。
 
(法定代理の規定の準用)
第59条  第34条第1項及び第2項並びに第36条第1項の規定は、訴訟代理について準用する。

 
特別代理人: 訴えたい相手に訴訟能力がなく、法定代理人も存在しない場合は、原告は、裁判長に「被告の特別代理人の選任」を申し立てることができる。

(特別代理人
第35条1項 法定代理人がない場合又は法定代理人が代理権を行うことができない場合において、未成年者又は成年被後見人に対し訴訟行為をしようとする者は、遅滞のため損害を受けるおそれがあることを疎明して、受訴裁判所の裁判長に特別代理人の選任を申し立てることができる。
2項  裁判所は、いつでも特別代理人を改任することができる。

法人の代表者、法人でない社団又は財団の代表者・管理者についても同様。
 
被保佐人、被補助人は、応訴に関して訴訟能力を有する。
一方、訴訟の開始・終了に関しては、保佐人・補助人の同意が必要。この同意(特別の授権)が必要な訴訟行為は、(1) 訴え・上告の取下げ、(2)和解、(3)請求の放棄又は認諾、(4)訴訟脱退、(5) 手形訴訟の異議の取下げ。
 

4 訴訟上の代理権

1 代理権
代理権: (1)法定代理権と(2)訴訟代理権(委任による任意代理)がある。
代理権は、書面で証明しなければならない。この書面が私文書であるときは、裁判所は、公証人等の認証を受けることを訴訟代理人に命ずることができる。
代理権の消滅は、本人又は代理人から相手方に通知しなければ、効力を生じない。 よって、弁護士の解任は、相手方に通知すべきことになる。
 
2 訴訟代理権
訴訟代理人は、弁護士に限られる。
簡易裁判所では、裁判所の許可で、弁護士以外の者を訴訟代理人にすることができる。この許可は、いつでも取り消せる。許可取消しに対して、不服申立てはできない。

(訴訟代理人の資格)
第54条  法令により裁判上の行為をすることができる代理人のほか、弁護士でなければ訴訟代理人となることができない。ただし、簡易裁判所においては、その許可を得て、弁護士でない者を訴訟代理人とすることができる。
2  前項の許可は、いつでも取り消すことができる。

 
弁護士による訴訟代理権は、制限することができない。包括委任となり、弁済の受領等も行える。
一方、訴訟の開始・終了に関しては、訴訟委任のほかに特別の委任が必要となる。この委任(特別の授権)が必要な訴訟行為は、(1)反訴の提起、(2) 訴えの取下げ、(3)和解、(4)請求の放棄又は認諾、(5)訴訟脱退、(6)控訴、上告又はこれらの取下げ、(7) 手形訴訟の異議の取下げ(その取下げについての同意)。
また、(8)復代理人の選任も、特別の授権が必要となる。
 
訴訟代理人が数人あるときは、各自当事者を代理する。 各自の法律行為の効果は、本人に帰属する。
当事者がこれと異なる定めをしても、効力を生じない。 代表権限の制限はできない。
 

(当事者による更正)
第57条  訴訟代理人の事実に関する陳述は、当事者が直ちに取り消し、又は更正したときは、その効力を生じない。

訴訟代理人の「法律に関する陳述」は、当事者が取消し・更正することができない。
弁護士の陳述の後、その期日の終了までであれば、更正は認められる。
 
訴訟代理権は、当事者の死亡によって消滅しない。訴訟代理人は、相続人を代理する。
「破産者のために訴訟の当事者となる破産管財人」の訴訟代理人の代理権は、当事者(破産管財人)の死亡等によって消滅しない。

(訴訟代理権の不消滅)
第58条  訴訟代理権は、次に掲げる事由によっては、消滅しない。
 1  当事者の死亡又は訴訟能力の喪失
 2  当事者である法人の合併による消滅
 3  当事者である受託者の信託に関する任務の終了
 4  法定代理人の死亡、訴訟能力の喪失又は代理権の消滅若しくは変更
2  一定の資格を有する者で自己の名で他人のために訴訟の当事者となるものの訴訟代理人の代理権は、当事者の死亡その他の事由による資格の喪失によっては、消滅しない。
3  前項の規定は、選定当事者が死亡その他の事由により資格を喪失した場合について準用する。

 
3 補佐人
補佐人: 専門家や障害介護人など、当事者・訴訟代理人を補助する者。
裁判所は、補佐人に関する許可をいつでも取り消すことができる。

(補佐人)
第60条  当事者又は訴訟代理人は、裁判所の許可を得て、補佐人とともに出頭することができる。
2  前項の許可は、いつでも取り消すことができる。
3  補佐人の陳述は、当事者又は訴訟代理人が直ちに取り消し、又は更正しないときは、当事者又は訴訟代理人が自らしたものとみなす。

 

5 訴訟手続の中断

訴訟手続の中断: 当事者に「訴訟を行う者が交代する事由」が発生した場合、訴訟手続は、中断する。
たとえば当事者が死亡した場合、相続人が、訴訟の原因となる債権債務を相続し、訴訟を受け継ぐところまで確定するまでは、訴訟手続は中断される。
 
受継: 訴訟手続を受け継ぐ者。中断の原因により法定される。

 原因となる者  中断原因  受け継ぐ者
当事者 死亡 相続人、相続財産管理人など
当事者 法人の合併による消滅 合併による新設法人、存続する法人
当事者 訴訟能力の喪失 訴訟能力を有するに至った当事者
法定代理人 死亡・代理権消滅 法定代理人
当事者 受託者の信託任務の終了 新たな受託者
当事者 破産管財人 同一の資格を有する者
選定当事者 全員の死亡その他の事由による資格の喪失 選定者の全員又は新たな選定当事者

 
ただし、訴訟代理人がある間は、訴訟手続は中断しない。この場合は、58条の「訴訟代理権の不消滅」に該当し、訴訟代理人の訴訟代理権が存在するために、訴訟を行うことができる。
 
受継は、受け継ぐ者又は相手方の、書面による申立てによって行う。受継の申立てがあったときは、裁判所は相手方に通知する。