民法相続法

前回(id:kokekokko:20090504:p1)のつづき。

2 遺言

1 遺言
・遺言: 死後の法律関係を定める、意思の表示。
・遺言の内容: 民法では、認知・相続分の指定・遺贈・遺産分割の指定などについて、遺言を認めている。有効な遺言は、これらに限られる。
・遺言能力者: 遺言は意思表示だから、意思能力が必要。しかし、通常の取引行為ではないから、制限行為能力者でも遺言能力はある。
・遺言年齢: 15歳に達した者。
・遺言能力の時期: 遺言能力は、遺言をする時に有していることが必要。
成年被後見人の遺言: 成年被後見人は、事理を弁識する能力を一時回復した時において遺言をすることができる。医師2人以上の立会いが必要。
 
2 遺言の方式
・遺言の方式: 遺言は、民法に定める方式に従わなければならない。要式行為であり、方式に従わなければ無効となる。
・「普通の方式」: (1)自筆証書遺言、(2)公正証書遺言、(3)秘密証書遺言。
 
・自筆証書遺言: 遺言者が、全文を自書し、押印する。変更する場合は、変更の旨を付記して署名押印する。

(自筆証書遺言)
第968条  自筆証書によって遺言をするには、遺言者が、その全文、日付及び氏名を自書し、これに印を押さなければならない。
2  自筆証書中の加除その他の変更は、遺言者が、その場所を指示し、これを変更した旨を付記して特にこれに署名し、かつ、その変更の場所に印を押さなければ、その効力を生じない。

・日付として年月しか記載のない自筆証書遺言は、無効(判例)。
・日付として「吉日」と記載した場合も、無効(判例)。特定の日付を表示する必要がある。
・数枚(数葉)にわたる遺言は、契印がなくても、それが1通の遺言書として作成されたものであることが確認できれば、有効(判例)。
 
公正証書遺言: 証人2人以上の立会いがあり、遺言者が遺言の趣旨を公証人に口授して作成する。
・未成年者・推定相続人・受遺者などは、証人となることができない。
 
・秘密証書遺言: 遺言者が、その証書に署名押印し、証書を封じ、証書に用いた印章をもって封印して作成する。
・公証人1人と証人2人以上の立会が必要。
・秘密証書遺言の方式に欠けても、自筆証書遺言に定める方式を具備しているときは、自筆証書遺言としてその効力を有する。
 
・共同遺言の禁止: 遺言は、2人以上の者が同一の証書ですることができない。
 
3 遺言の効力
・遺言は、遺言者の死亡の時から、効力を生ずる。
・遺言は、意思表示だから、錯誤による無効や詐欺・強迫による取消しが主張できる。
 
・撤回: 遺言者は、いつでも、遺言の方式に従って、その遺言の全部又は一部を撤回することができる。
・撤回は、遺言を行った方式と同じ方式で行う必要はない。
 例)公正証書遺言を自筆証書で撤回できる。
・遺言を撤回する権利は、放棄することができない。
・複数の遺言につき、前の遺言が後の遺言と抵触するときは、抵触部分については、後の遺言で前の遺言を撤回したものとみなす。
・遺言者が故意に遺言書を破棄したときは、破棄部分については、遺言を撤回したものとみなす。
 
・撤回された遺言は、その撤回の行為が、撤回されても、元の遺言の効力は回復しない。
・撤回行為を、詐欺・強迫によって取消した場合は、元の遺言の効力が回復する。
 
4 遺言の執行
・遺言書の検認: 公正証書遺言以外の場合、遺言書の保管者・発見者は、これを家庭裁判所に提出して、その検認を請求しなければならない。
・検認: 遺言書の形式・真偽を調査する。内容の真否・有効性の判断は行わない。
 
・遺言執行者: 遺言書の内容を実現するために必要な行為を行う者。
・遺言者は、遺言で、遺言執行者を指定できる。また、遺言執行者の指定を、第三者に委託することもできる。
・遺言執行者がないときは、家庭裁判所は、利害関係人の請求によって、遺言執行者を選任することができる。
・遺言執行者は、(1)やむを得ない事由があるとき、(2)遺言で許されているとき、でなければ、第三者にその任務を行わせることができない。
・未成年者・破産者は、遺言執行者となることができない。
 
5 遺贈
・遺贈: 遺言による、遺産の全部または一部の贈与。
・(1)包括遺贈、(2)特定遺贈の2種類がある。
・包括遺贈: 遺産の全部または一定の割合の贈与。
・包括受遺者は、相続人と同一の権利義務を有する。遺産分割協議に参加できる。
・特定遺贈: 特定の遺産の贈与。
 
・遺贈は、遺贈者(遺言者)の死亡の時に、効力を発生する。
・遺言者の死亡以前に受遺者が死亡したときは、その効力を生じない。
・遺贈は特定の人に対してなされるものであるので、受遺者の相続人は承継することができない。
・胎児は、遺贈に関して既に生まれているものとみなされるので、遺贈者(遺言者)の死亡の時に出生している必要はない。
 
・特定遺贈の放棄: 特定遺贈の受遺者は、遺言者の死亡後、いつでも、遺贈の放棄をすることができる。
・遺贈の放棄の効力は、遺言者の死亡の時にさかのぼる。
・包括遺贈の放棄: 包括遺贈の受遺者は、自己のために遺贈があったことを知った時から3か月以内に、遺贈の承認または放棄をしなければならない。相続と同様。
 

3 遺留分

1 遺留分
遺留分: 一定の相続人に、必ず残さなければならない相続分。
・(1)配偶者、(2)直系尊属、(3)直系卑属、に遺留分が認められる。兄弟姉妹には、遺留分は認められない。
法定相続分の2分の1が、遺留分となる。直系尊属のみが相続人である場合は、法定相続分の3分の1。

遺留分の帰属及びその割合)
第1028条  兄弟姉妹以外の相続人は、遺留分として、次の各号に掲げる区分に応じてそれぞれ当該各号に定める割合に相当する額を受ける。
 1  直系尊属のみが相続人である場合 被相続人の財産の三分の一
 2  前号に掲げる場合以外の場合 被相続人の財産の二分の一

・代襲者は、遺留分も代襲する。
 
遺留分は、放棄することができる。 相続開始前の遺留分放棄は、家庭裁判所の許可が必要。
・共同相続人の一人が遺留分放棄をしても、他の各共同相続人の遺留分には影響を及ぼさない。
遺留分を放棄すると、遺留分減殺請求権を失う。相続人の地位を失うわけではない。
 
2 遺留分減殺請求
・遺贈・贈与によって遺留分が侵害されるときには、遺留分権利者は、遺留分保全するのに必要な限度で、減殺を請求することができる。
・減殺は、まず遺贈について行い、その後、贈与について行う。
・価額弁償: 遺贈・贈与の目的物(不動産など)を遺留分減殺により返還しなければならない場合、受遺者・受贈者は、目的物の価額を遺留分権利者に弁償することで、返還の義務を免れることができる。
・価額弁償の額は、その訴訟の事実審での口頭弁論終結時の価額を基準として算定する(判例)。
 
遺留分減殺請求権は、受遺者・受贈者に対して意思表示すればよい。裁判上の行使は不要(判例)。
・減殺請求がなされると、遺贈は、遺留分を侵害する限度で失効する(判例)。