民法時効

前回(id:kokekokko:20090511:p1)のつづき。相続法が終了したので、6月までの月曜日は、隔週で「時効」・「物権」と「家族法」とを扱うことにします。
今回は時効(民法第1編第7章)。

1 時効

1 取得時効
・時効: 一定の事実状態が永続する場合に、それが真実の権利関係と一致するか否かを問わず、そのまま権利状態として認める制度。
・取得時効: 時の経過により権利を取得する制度。

(所有権の取得時効)
第162条 二十年間、所有の意思をもって、平穏に、かつ、公然と他人の物を占有した者は、その所有権を取得する。
2 十年間、所有の意思をもって、平穏に、かつ、公然と他人の物を占有した者は、その占有の開始の時に、善意であり、かつ、過失がなかったときは、その所有権を取得する。

・占有開始時に善意無過失であれば、その後悪意に転じても、10年間の占有で取得時効は完成する。
 
・占有を引き継いだ者は、自身の占有期間だけを主張してもよいし、前主の占有期間を合算して主張してもよい。相続の場合も同様。
・ただし、前主の占有期間を合算する場合は、前主が悪意ならば、それを引き継ぐ。
・逆に、前主が善意ならば、承継した者は悪意であっても、10年間の取得時効を主張できる(判例)。

(占有の承継)
第187条  占有者の承継人は、その選択に従い、自己の占有のみを主張し、又は自己の占有に前の占有者の占有を併せて主張することができる。
2  前の占有者の占有を併せて主張する場合には、その瑕疵をも承継する。

・所有の意思とは、権利の性質から客観的に判断して所有権の行使と認められることをいい、その有無は、(1)占有取得の原因(権原)または(2)占有に関する事情により、外形的客観的に決定される(判例)。
 
・所有権の取得時効の対象は、他人の物。
・土地については、一筆の土地の一部について取得時効することができる。
・土地が二重譲渡され、第二譲受人が登記した場合、第一譲受人はその土地を取得時効できる(判)。当該不動産は、自己の物だが、登記している第二譲受人との関係では他人の物である(対抗できないから)から。
 
2 消滅時効
消滅時効:時の経過により権利を失う制度。
・代表的な対象は、債権。また、地上権や地役権も対象。
・しかし、所有権や物権的請求権は、消滅時効にかからない。
 
・債権は、10年間の放置で消滅する。

(債権等の消滅時効
第167条 債権は、十年間行使しないときは、消滅する。
2  債権又は所有権以外の財産権は、二十年間行使しないときは、消滅する。
(三年の短期消滅時効
第170条 次に掲げる債権は、三年間行使しないときは、消滅する。
 1  医師、助産師又は薬剤師の診療、助産又は調剤に関する債権
(二年の短期消滅時効
第173条  次に掲げる債権は、二年間行使しないときは、消滅する。
 1  生産者、卸売商人又は小売商人が売却した産物又は商品の代価に係る債権
(一年の短期消滅時効
第174条  次に掲げる債権は、一年間行使しないときは、消滅する。
 1  月又はこれより短い時期によって定めた使用人の給料に係る債権
【170条以後は1号のみ】
 
(判決で確定した権利の消滅時効
第174条の2  確定判決によって確定した権利については、十年より短い時効期間の定めがあるものであっても、その時効期間は、十年とする。裁判上の和解、調停その他確定判決と同一の効力を有するものによって確定した権利についても、同様とする。
2  前項の規定は、確定の時に弁済期の到来していない債権については、適用しない。

 
3 消滅時効の起算点
・起算点: 権利を行使することができる時
・債権行使の法律上の障害((1)期限の未到来、(2)条件の未成就)がなくなり、債権を実現できるようになった時。

消滅時効の進行等)
第166条  消滅時効は、権利を行使することができる時から進行する。
2  前項の規定は、始期付権利又は停止条件付権利の目的物を占有する第三者のために、その占有の開始の時から取得時効が進行することを妨げない。ただし、権利者は、その時効を中断するため、いつでも占有者の承認を求めることができる。

 
・期限付きの債権: 期限の到来により、消滅時効は進行開始。
・期限の定めのない債権: 債権発生と同時に、消滅時効は進行開始。
・消費貸借では、債権発生時ではなく相当な期間の経過後に時効進行開始。
債務不履行に基づく損害賠償請求権: 本来の債務を履行し得るときから(判例)。
  賠償請求権は、履行請求権の拡張ないし内容変更であり、履行請求権と同一の内容を有するから。
・契約解除による原状回復請求権: 解除の時から(判例)。 回復請求権は、解除によって発生するから。
・夫婦の一方が他方に対して有する債権: 婚姻解消の時ではなく、権利を行使できる時から。
 
4 時効の中断
・中断: 時効が完成するために必要な一定の事実状態の継続が、破られること。
・中断すると、時効は振り出しに戻る。
・中断事由の終了後に、新たな時効が進行する。
 
・中断事由: (1)請求、(2)差押え・仮差押え・仮処分、(3)承認
 
・裁判上の請求: 訴えの提起で、時効中断の効果が発生する。
・裁判の確定で、新たな時効の進行が開始する。

(裁判上の請求)
第149条  裁判上の請求は、訴えの却下又は取下げの場合には、時効の中断の効力を生じない。

 
・催告: 裁判外での履行の請求。時効を中断しない。
・催告後6か月以内に、裁判上の請求・差押えなどをすれば、時効を中断できる。
 
・承認: 時効の利益を受ける者が、権利の存在を認めること。 例)支払猶予の申込み、利息支払
・権利の存在を事実として認める行為なので、行為能力・代理権などの権限は不要。
・管理能力・権限があればよい。

(承認)
第156条  時効の中断の効力を生ずべき承認をするには、相手方の権利についての処分につき行為能力又は権限があることを要しない。

被保佐人の承認で、時効は中断する。
・未成年者・成年被後見人は、管理能力もなく、単独の承認は時効を中断しない。
 
5 時効の停止
・停止:時効の進行が一時中断する制度
・時効完成間際に中断を困難にする事情が存在した場合に、事情消滅ののち6か月(または2週間)経過するまでは、時効を完成させない。中断できなかった者を保護する。

(未成年者又は成年被後見人と時効の停止)
第158条  時効の期間の満了前六箇月以内の間に未成年者又は成年被後見人法定代理人がないときは、その未成年者若しくは成年被後見人が行為能力者となった時又は法定代理人が就職した時から六箇月を経過するまでの間は、その未成年者又は成年被後見人に対して、時効は、完成しない。
2  未成年者又は成年被後見人がその財産を管理する父、母又は後見人に対して権利を有するときは、その未成年者若しくは成年被後見人が行為能力者となった時又は後任の法定代理人が就職した時から六箇月を経過するまでの間は、その権利について、時効は、完成しない。
 
(夫婦間の権利の時効の停止)
第159条  夫婦の一方が他の一方に対して有する権利については、婚姻の解消の時から六箇月を経過するまでの間は、時効は、完成しない。
 
(相続財産に関する時効の停止)
第160条  相続財産に関しては、相続人が確定した時、管理人が選任された時又は破産手続開始の決定があった時から六箇月を経過するまでの間は、時効は、完成しない。
 
(天災等による時効の停止)
第161条  時効の期間の満了の時に当たり、天災その他避けることのできない事変のため時効を中断することができないときは、その障害が消滅した時から二週間を経過するまでの間は、時効は、完成しない。

 
6 時効の援用
・援用: 利益を受ける者が、その利益を受けるという意思を表示すること
・時効の効果は、援用をした者にのみ発生し、援用の効果は、当該援用者にのみ及ぶ。
・時効の効果は、援用によってはじめて確定的に生じる(判例
 
・援用権者: 援用によって直接利益を受ける者(判) 例)保証人、抵当不動産の第三取得者
・連帯保証人は、債務者が時効援用しなくても主たる債務の援用権があるので、付随して保証債務の消滅も主張できる。
 
7 時効の利益の放棄
・時効完成前: 時効の利益を放棄することはできない
・時効完成後: 時効の利益を放棄することができる

・時効の利益を放棄すると、援用権を失う。
・利益放棄の効果は、放棄した者にのみ生じる。
・時効の利益放棄後には、再び新たな時効の進行が開始し、その新たな時効が完成すると、それを援用できる(判例
 
8 債権の自認行為
・自認行為: (1)債務の一部を弁済すること、(2)弁済の猶予を求めること、等の行為。
・時効の完成を知らずに行っても、自認行為となる。
・自認行為を行うと、相手方は、時効を援用することがないとの期待を抱くのが通常なので、自認行為ののちに時効を援用することは、信義則上許されない(判例)。
・自認行為の後には、新たな時効が進行する(判例)。
  
9 時効の効力
・時効の効力は、起算日にさかのぼる。
・所有権の取得時効が援用されると、起算日から所有権を持っていたことになり、時効期間中の果実は、時効取得者に帰属する。
・債権の消滅時効が援用されると、起算日から債権は消滅していたことになり、利息債権も消滅していたことになる。