民事訴訟法・総則

前回(id:kokekokko:20090508#p1)のつづき。
以前(id:kokekokko:20090410:p1)書いた内容を補足して、やや詳細にしてみます。隔週金曜日に書きます。

1 管轄

第1編 総則
 第2章 裁判所
  第1節 管轄(第4条―第22条)
1 管轄の種類
・管轄: 裁判所間の裁判権の分掌に関する定め。「訴えの提起をどこの裁判所で行うべきなのか」という問題。
・管轄権: 裁判所が裁判権を行使できる権限の範囲。

(職権証拠調べ)
第14条  裁判所は、管轄に関する事項について、職権で証拠調べをすることができる。
(管轄の標準時)
第15条  裁判所の管轄は、訴えの提起の時を標準として定める。

管轄権の問題については職権主義が採用される。これは、民事訴訟の原則である「当事者主義」「当事者の主張による裁判官拘束」に対する例外である。
また、訴えの提起の後で被告が住所を変更しても、裁判所の管轄権はかわらない。
 
2 土地管轄
・土地管轄: 「一定の区域の事件をどの裁判所の管轄とするか」についての定め。(1)普通裁判籍、(2)特別裁判籍、などの種類がある。
 
2−1.普通裁判籍

(普通裁判籍による管轄)
第4条1項 訴えは、被告の普通裁判籍の所在地を管轄する裁判所の管轄に属する。

原則は、被告の普通裁判籍の所在地を管轄する裁判所の管轄である。(被告の保護)
普通裁判籍は、住所地である。法人は、その主たる事務所・営業所。住所がない場合などでは、居所である。
  
2 特別裁判籍
・特別裁判籍: 事件の類型ごとに、普通裁判籍と異なる裁判籍も、競合的に認められる場合がある。
不法行為による損害賠償請求権の場合、被告の住所地による管轄だと被告に有利になるので、(1)不法行為があった地(5条9号)(損害発生地を含む)、(2)原告の住所地=財産権上の義務履行地(金銭債権は持参債務である)も、特別裁判籍として認められる。

(財産権上の訴え等についての管轄)【一部】
第5条  次の各号に掲げる訴えは、それぞれ当該各号に定める地を管轄する裁判所に提起することができる。
 1  財産権上の訴え 義務履行地
 2  手形又は小切手による金銭の支払の請求を目的とする訴え 手形又は小切手の支払地
 4  日本国内に住所(法人にあっては、事務所又は営業所。以下この号において同じ。)がない者又は住所が知れない者に対する財産権上の訴え 請求若しくはその担保の目的又は差し押さえることができる被告の財産の所在地
 5  事務所又は営業所を有する者に対する訴えでその事務所又は営業所における業務に関するもの 当該事務所又は営業所の所在地
 9  不法行為に関する訴え 不法行為があった地
 12  不動産に関する訴え 不動産の所在地
 13  登記又は登録に関する訴え 登記又は登録をすべき地
 14  相続権若しくは遺留分に関する訴え又は遺贈その他死亡によって効力を生ずべき行為に関する訴え 相続開始の時における被相続人の普通裁判籍の所在地

2号(手形・小切手)は1号と同趣旨。
4号(住所がない者・知れない者)では人の住所地のかわりに物の住所地を考える。
5号(事務所・営業所)では、本店ではなく当該支店の所在地でもよいとする。
12号(不動産)は、売買代金・賃料についての訴訟ではなく、物権的請求権などによる請求。13号(登記)も含めて、不動産に関する例外は重要。
14号(相続)は、被相続人が被告である場合以外でも裁判籍が認められる。
 
3 事物管轄
事物管轄: 第一審における地裁と簡裁の分担についての規定。
訴額が140万円を超えない場合には、簡易裁判所の管轄となる。

裁判所法第33条(裁判権) 簡易裁判所は、次の事項について第一審の裁判権を有する。
 1 訴訟の目的の価額が百四十万円を超えない請求(行政事件訴訟に係る請求を除く。)
 2 罰金以下の刑に当たる罪、選択刑として罰金が定められている罪又は刑法第186条、第252条若しくは第256条の罪に係る訴訟
2 簡易裁判所は、禁錮以上の刑を科することができない。【但書略】
3 簡易裁判所は、前項の制限を超える刑を科するのを相当と認めるときは、訴訟法の定めるところにより事件を地方裁判所に移さなければならない。

 
4 専属管轄
専属管轄: 一定の条件の場合に、特定の裁判所にのみ管轄を認めること。当事者の合意などでは変更できない。
専属管轄に違反した裁判は、控訴・上告理由となる。ただし、再審事由ではない。
 
5 合意管轄
合意管轄: 当事者が合意によって管轄を定めるもの。
合意管轄ができる要件は、(1)第一審に関するものであること、(2)一定の法律関係に基づく訴え、(3)書面によること、(4)裁判所が特定されていること。
専属管轄の規定があれば、合意管轄はできない。

(管轄の合意)
第11条  当事者は、第一審に限り、合意により管轄裁判所を定めることができる。
2 前項の合意は、一定の法律関係に基づく訴えに関し、かつ、書面でしなければ、その効力を生じない。
3 第1項の合意がその内容を記録した電磁的記録(電子的方式、磁気的方式その他人の知覚によっては認識することができない方式で作られる記録であって、電子計算機による情報処理の用に供されるものをいう。以下同じ。)によってされたときは、その合意は、書面によってされたものとみなして、前項の規定を適用する。

事物管轄(地裁・簡裁)についても合意できる。
「一定の法律関係」に基づく訴えに関するものでなければならない。当該契約に関する争訟というように特定する必要がある。また、書面でする必要がある。
合意管轄は契約書に規定されることが多いが、当該契約を解除しても合意管轄は遡って無効になることはない。
合意管轄のうち専属的合意管轄(「訴えの提起は〜地裁にのみ」)は、普通裁判籍・特別裁判籍を排除して、合意管轄の裁判所のみに専属する。
 
なお、専属管轄の違反のみが、控訴理由となる。専属的合意管轄の違反は、控訴理由とならない。

(第一審の管轄違いの主張の制限)
第299条1項  控訴審においては、当事者は、第一審裁判所が管轄権を有しないことを主張することができない。ただし、専属管轄(当事者が第11条の規定により合意で定めたものを除く。)については、この限りでない。

 
6 応訴管轄
管轄と異なる裁判所に訴えを提起された被告は、管轄違いの抗弁を提出することができる。
応訴管轄: 被告が、管轄違いの抗弁を提出しないで応訴(裁判に対応すること)すれば、その裁判所に管轄権が生じる。
「本案について弁論をし、又は弁論準備手続において申述をしたとき」に、応訴管轄が発生する。訴え却下の申立ては、本案についての弁論にあたらない。

(応訴管轄)
第12条  被告が第一審裁判所において管轄違いの抗弁を提出しないで本案について弁論をし、又は弁論準備手続において申述をしたときは、その裁判所は、管轄権を有する。

なお、専属的合意管轄については応訴管轄が生じるが、専属管轄については、応訴管轄は生じない。

(専属管轄の場合の適用除外等)
第13条1項  第4条第1項、第5条、第6第2項、第6条の2、第7条及び前二条の規定は、訴えについて法令に専属管轄の定めがある場合には、適用しない。

 
7 特許権等に関する訴え
特許権等に関する訴えでは、東日本は東京地裁、西日本は大阪地裁が専属管轄となる。裁判所に専門的知識が要求されるから。
控訴審の高裁は、東京高裁が専属管轄となる。
簡易裁判所が管轄する事件については、普通裁判籍・特別裁判籍の簡易裁判所にも訴えを提起できるし、東京・大阪地裁にも訴えを提起できる。

特許権等に関する訴え等の管轄)
第6条  特許権実用新案権、回路配置利用権又はプログラムの著作物についての著作者の権利に関する訴え(以下「特許権等に関する訴え」という。)について、前二条の規定によれば次の各号に掲げる裁判所が管轄権を有すべき場合には、その訴えは、それぞれ当該各号に定める裁判所の管轄に専属する。
 1  東京高等裁判所名古屋高等裁判所仙台高等裁判所又は札幌高等裁判所の管轄区域内に所在する地方裁判所 東京地方裁判所
 2  大阪高等裁判所、広島高等裁判所、福岡高等裁判所又は高松高等裁判所の管轄区域内に所在する地方裁判所 大阪地方裁判所
2  特許権等に関する訴えについて、前二条の規定により前項各号に掲げる裁判所の管轄区域内に所在する簡易裁判所が管轄権を有する場合には、それぞれ当該各号に定める裁判所にも、その訴えを提起することができる。
3  第1項第2号に定める裁判所が第一審としてした特許権等に関する訴えについての終局判決に対する控訴は、東京高等裁判所の管轄に専属する。ただし、第20条の2第1項の規定により移送された訴訟に係る訴えについての終局判決に対する控訴については、この限りでない。

意匠権等の場合には、「専属」ではなく任意となり、普通裁判籍・特別裁判籍でもよいし、東京・大阪地裁にも訴えを提起できる。

意匠権等に関する訴えの管轄)
第6条の2  意匠権、商標権、著作者の権利(プログラムの著作物についての著作者の権利を除く。)、出版権、著作隣接権若しくは育成者権に関する訴え又は不正競争(不正競争防止法(平成5年法律第47号)第2条第1項に規定する不正競争をいう。)による営業上の利益の侵害に係る訴えについて、第4条又は第5条の規定により次の各号に掲げる裁判所が管轄権を有する場合には、それぞれ当該各号に定める裁判所にも、その訴えを提起することができる。
1  前条第1項第1号に掲げる裁判所(東京地方裁判所を除く。) 東京地方裁判所
2  前条第1項第2号に掲げる裁判所(大阪地方裁判所を除く。) 大阪地方裁判所

 
特許権等の訴えは、専属管轄であるが、応訴管轄が発生する(例外)。

(専属管轄の場合の適用除外等)
第13条2項  特許権等に関する訴えについて、第7条又は前二条の規定によれば第6条第1項各号に定める裁判所が管轄権を有すべき場合には、前項の規定にかかわらず、第7条又は前二条の規定により、その裁判所は、管轄権を有する。

特許権等の訴えは、専属管轄であるが、管轄違反は控訴理由とはならない(例外)。

(第一審の管轄違いの主張の制限)
第299条2項 前項の第一審裁判所が第6条第1項各号に定める裁判所である場合において、当該訴訟が同項の規定により他の裁判所の専属管轄に属するときは、前項ただし書の規定は、適用しない。

 
8 併合請求・共同訴訟
併合請求(請求が複数): 1つの訴えで数個の請求をする場合には、それらのうちの1つの請求について存在する管轄の裁判所に、全部の請求を訴えることができる。

(併合請求における管轄)
第7条  一の訴えで数個の請求をする場合には、第4条から前条まで(第6条第3項を除く。)の規定により一の請求について管轄権を有する裁判所にその訴えを提起することができる。ただし、数人からの又は数人に対する訴えについては、第38条前段に定める場合に限る。

 
共同訴訟(原告・被告が複数): 原告が数人を訴えるときは、「権利又は義務が数人について共通であるとき」または「同一の原因に基づくとき」に、数人のうちの1人について存在する管轄の裁判所に、全員の請求を訴えることができる。

(共同訴訟の要件) 【前段のみ】
第38条  訴訟の目的である権利又は義務が数人について共通であるとき、又は同一の事実上及び法律上の原因に基づくときは、その数人は、共同訴訟人として訴え、又は訴えられることができる。