譲渡制限

株式の譲渡制限について、いろいろ気になったこと。
日刊新聞紙の発行を目的とする株式会社の株式の譲渡の制限等に関する法律(昭和26年法律第212号)(制定時は別名)では、「その株式会社の事業に関係のある者」に限るという株式譲渡制限が可能である、とします。もちろん、社会の公器たる新聞社の公益性からの要請なのですが、いくつか気になった点。

(登記)
第4条  第1条の株式会社の設立の登記にあつては、同条の定款の規定をも登記しなければならない。

「設立の登記」とあります。これには変更の登記は含まれるのでしょうか。商業登記と比較すると少しおおざっぱな規定なのでなんともいえませんが、譲渡制限がなかった新聞社が定款を変更して譲渡制限を規定した場合には、変更の登記によることになります。この点は立法時点ですでに指摘されており、法務府民事局課長の答弁があります。

第10回国会 参議院法務委員会第23号(昭和26年5月31日)
○説明員(長谷川信蔵君) 大体この商法百八十八条の設立の登記という場合は、社債の登記、それらのいろいろまあありますが、そういつた登記と同様な意味において、設立の登記という一つの種類というふうに考えております。従つてこの設立の登記の登記する事項は列記されてございますがその列記されておる事項は設立の登記として登記される事項であつて一つの総括的に考えておるのであります。従つて例えば存立時期或いは解散の事由というようなものを設立当初規定しなかつた、定款に規定しなかつた、従つて登記もなかつたのでありまして、その後定款を変更いたしましてそういつた事項を規定したという場合に、登記の申請は変更の登記、設立の登記の変更の登記というふうに観念しておるわけであります。従つて実は今度の法案は頂載しておらんのでありまして、ただ今見た程度でありますが、設立の登記についてはこれこれの事項をも登記しなければならないといたしますれば、設立の登記の登記事項が又一つ殖えたというふうに観念されるのではないかと私はそのように考えております。なお立法例といたしましては、保険業法十三条それから十五条でありまするが、十五条に登記設立の場合の登記事項を殖やした規定がございますが、その場合におきましては変更の登記の株式会社の当該規定の準用等は全然省いております。従つてこの立法的にも私が観念しているようなことを裏付けられておるのではないかと私はそのように考えるわけであります。

「今はじめて法案を見た」と発言しているところからして少々怪しいのですが、変更の場合にも「設立の登記」になる、と主張しています。

○説明員(長谷川信蔵君) 【前略】先ほど例に挙げました保険業法の第十五条の表現をいたしますと、「会社ハ第十三条及商法第百八十八条第二項ニ掲グル事項ヲ登記スルコトヲ要ス」というふうな表現をいたしておりますが、表現の仕方は違つておりますけれども、やはり同じふうに読めるのではないかと考えるわけであります。大体この設立の登記と言つております場合には先ほども申上げましたように一括的に考えております。たまたま或る登記事項が設立の際なかつたとしましても、その具体的手続を申上げますと、その裏を空白、斜線を施して空白にしております。そうしてその後新たに生じたという場合は変更の登記というふうに処理しておるわけであります。まあこの四条の規定そのものから「設立の登記にあつては」という表現でいいかどうかという問題になりますと、これは立法技術の問題でありますが、私はやはり設立の登記を先ほど申しますように一括的に考えておりまして、その設立の登記とされておる百八十八条第二項に掲げる事頃にこの事項が一項加わつたのだというふうな解釈は十分とれるのではないか、このように考えるわけであります。
○伊藤修君 だから設立する場合において全部登記すれば問題ないのですが、そうでなくて、すでに設立された後においてその設立登記のときに登記しなくちやならん事項が後に定款によつて定められた場合において、いわゆる設立の登記というだけの表現で変更登記までも賄えるかというのです。実際問題としてはいわゆるそういう場合においては設立の登記事項の変更登記申請、こういうことを言わなくちやならんのじやないのですか。ただ漫然設立の登記だけの文字だけでそういう点まで賄えるかどうか。
○説明員(長谷川信蔵君) 先ほども例に挙げましたように、現在すでに現行会社法におきましては、譲渡制限の規定があるのでありまして、これは設立の際必らずしも譲渡制限をしないで、設立の登記をし、成立した後に定款変更によりまして、譲渡制限の規定を入れたという場合におきましても、やはりその変更の登記、その変更の登記というのは、やはり観念的には設立の登記の変更になるというふうに考えまして、現実にそのように手続も処理いたしております。それと同様に考えられるのであります。
○伊藤修君 これは修正してその点を明らかにすれば一番私は国民に対して親切だと思うのですが、いわゆるこういう簡潔な文字ではいわゆる設立の基本登記のように見えるのです。あなたの今の御説明を伺つておつてもいわゆる設立登記の変更登記、こういうふうな表現を用いていらつしやるのですが、そこまで表現をしないというと、新設の場合の登記のみを指しておつて、後の変更登記を含まないがごとく解釈ざれるのですね、その点を本条の解釈としてはその点変更登記をも含むのだということをはつきり後の人の解釈のために速記に写して頂きたいと思います。
○説明員(長谷川信蔵君) この設立の登記事項にこの一項が加わつたのだ、こう四条が読める、こう考えます。従つてその他の変更があつた場合は、商法第百八十八条、第三項で準用いたします合名会社に関する規定であるとか、六十七条の規定がここへ適用される。設立の登記の一つの登記事項だというふうに四条を解釈しております。従つてその余の変更等につきましては、商法の規定がすべて適用されるのだとこのように考えるわけであります。

ただ現在では、「取締役会の承認を要する」旨の譲渡制限は会社法商業登記法ですることになるので、譲渡制限がなかった新聞社が「事業に関係のある者に限り、かつ、取締役会の承認を要する」とする変更をした場合に、商業登記法でいう「変更の登記」とは別途に何かをすることになるのか、という疑問は残ります。
 
また、

(株式の譲渡制限等)
第1条  一定の題号を用い時事に関する事項を掲載する日刊新聞紙の発行を目的とする株式会社にあつては、定款をもつて、株式の譲受人を、その株式会社の事業に関係のある者に限ることができる。この場合には、株主が株式会社の事業に関係のない者であることとなつたときは、その株式を株式会社の事業に関係のある者に譲渡しなければならない旨をあわせて定めることができる。

の後段部分が強い規定でして、たとえば従業員の退職などにより、株主が強制的に譲渡させられる状況ができるのですが、その場合に価額はどのように決定されるのでしょうか。会社法施行の際にこの点の手当てもできたはずなのですが、どうもよくわかりません。調べてみると、「この場合の価額決定について、法になんらの規定もないことは、立法の手落ちというべきであろう」(『注釈会社法(3)株式』87ページ)とされていました。
もともと存続に疑義がある(商法改正により、本法成立当時と比較して効力が弱くなっている点や、その一方で、数あるマスメディアのうち新聞社のみを特別扱いする必要性が薄い点、また実際には取締役会にて譲渡先を指定すれば現行法と同じ効力が得られる点、など)法なので、あまり深く取りあげられていないようなのです。