メモ・刑法総論

前回(id:kokekokko:20110624#p1)のつづき。

3 違法性

≪5≫正当防衛
・正当防衛が認められると、違法性が阻却され(犯罪成立要件のひとつである「違法性」が欠けることになる)、犯罪不成立となる。正当防衛成立の要件は、「急迫不正の侵害」「自己または他人の権利を防衛するため」「やむをえない」行為。
・急迫:法益侵害が現に存在しているか、差し迫っていること。
・不正:相手方の侵害行為が、不正である(違法である)こと。ただし、相手方が、犯罪成立要件のうちの「責任」を有している必要はない。∴責任無能力者からの侵害行為に対して、正当防衛できる。なお、相手方の侵害行為が不正でないときは、緊急避難の問題となる。
・相手方の侵害に対して、積極的に相手に加害行為をする意思をもって反撃に出た場合には、急迫性がないとされ、正当防衛は成立しない。
・やむをえない:正当防衛成立のためには、防衛行為が、「必要性」(権利防衛のために必要な行為であること)と「相当性」(法益の均衡を著しく損なわないこと)が要求される。ただ、必要性については、「防衛行為が、侵害防止のための唯一の方法」であるという程度までは必要とされておらず、また、相当性については、法益の均衡を要求されてはいない。→正当防衛では、相手方の侵害が不正であるため、必要性要件・相当性要件ともに緩和されている。また、相当性判断は、結果の大小によって比較されるわけではなく、侵害行為と反撃行為との比較でなされる。
・行為者が、急迫不正の侵害があると誤解して行った防衛行為を、誤想防衛という。判例は、誤想防衛については、正当防衛は成立しない(実際には急迫不正の侵害はなかったから)が、故意がないので過失犯の問題であるとする。
・行為者が、正当防衛として許容される防衛の程度を超えて行った防衛行為を、過剰防衛という。36条2項により、任意的減免。つまり、正当防衛は成立せず、違法性阻却はされない。
 
≪6≫緊急避難
・緊急避難は、現在の危機を避けるためにやむをえず他人の権利を侵害する行為である。認められると、犯罪不成立となる。成立要件は、「自己又は他人の生命、身体、自由、財産に対する危難を避けるため」「やむを得ずした行為」「生じた害が、避けようとした害の程度を超えなかった場合」。
・相手方は、不正の侵害に出たわけではないので、行為者の緊急避難成立(犯罪不成立)の要件は、正当防衛よりも厳しい。
・やむを得ず:補充性の原則。ex逃げることもできたというケースでは、緊急避難は成立しない。
・生じた害が、避けようとした害の程度を超えない:法益均衡の原則。程度を超えてしまった場合は、過剰防衛(37条1項ただし書)となり、任意的減免。
・業務上特別の義務がある者には、緊急避難は適用されない。ex警察官、消防士。
 
≪7≫正当行為
・正当行為は、違法性が阻却される。法令行為(ex警察官の逮捕行為)と正当業務行為(ex医師の手術行為)がある。
 
≪8≫被害者の承諾
・被害者が、自己の法益侵害に対して承諾を与えていた場合に、違法性が阻却される。要件は、「承諾により侵害できる法益」「承諾が有効であること」「承諾が行為時に存在」「行為者が承諾を認識していること」「承諾が相当と認められること」。
・侵害できる法益: 被害者が処分できる法益に限る。 ex傷害罪
・承諾が相当: 違法目的のための承諾は、違法性を阻却しない。 ex保険金詐欺のための自動車事故
・承諾が行為時に存在: 推定的承諾でも、承諾が有効となる場合がある。
・財産犯などでは、被害者の同意があれば、犯罪構成要件に該当しない。(違法性阻却の手前の段階) ex窃盗罪での「窃取」にあたらない。住居侵入罪での「侵入」にあたらない。
 

4 責任・故意・過失

≪9≫責任
・責任は、非難可能性(違法行為を行った者を罰することが必要か)の問題であり、行為者の自由意思の有無と、適法行為の可能性から判断される。つまり、「適法な行為を行うことができたのに、行為者の意思で、あえて違法行為を行った」というのが、責任の本質である。責任が阻却される(犯罪不成立)要素として、(1)責任能力、(2)刑事未成年、(3)期待可能性、がある。
・(1)責任能力: 心神喪失者の行為は、罰しない。心神耗弱者の行為は、必要的減軽心神喪失は、「是非善悪を弁別する能力」または「弁別に従って行動する能力」が欠ける場合であり、心神耗弱は、それが著しく低い場合である。
・(2)刑事未成年: 14歳に満たない者の行為は、罰しない。
・(3)期待可能性: 適法行為をする自由がない行為者は、責任が阻却される。刑法の条文にはない要素なので、超法規的責任阻却事由といわれる。
・原因において自由な行為: 「自らを責任無能力の状態にしてから、犯罪を行う場合」に、責任を認める理論。刑法を形式的に適用すると、責任無能力の状態にしようとする(原因行為)時点ではまだ犯罪は始まっておらず、また、犯罪行為の時点では責任能力はない。なので、「行為と責任の同時存在の原則」に従えば、いずれの時点でも罪に問うことができなくなる。これを解決する説として、(1)行為者は、責任無能力になった自分を利用して犯罪をする者である、とする考え方(間接正犯類似説)、(2)原因行為から犯罪行為までの一連の行為のうち、一部に責任能力があれば責任があるとする考え方、がある。
 
≪10≫故意
・故意は、行為者が犯罪事実を認識しながら行為に出ること。故意がないと(つまり事実を認識しないと)故意犯は成立しない。故意は、未必のものでも足りる。(未必の故意=結果発生の可能性を認識して容認していること)
・錯誤は、行為者の認識した内容と現実の内容とが一致しなかった場合。「具体的事実の錯誤」、「抽象的事実の錯誤」、「違法性の錯誤」、がある。
・具体的事実の錯誤: 現実の内容と認識した内容が、同じ構成要件の中で一致しない場合。exAを殺害しようとして隣のBを殺害した場合(「殺人罪」という同一構成要件内)。判例は、同一構成要件内の符合があれば(「殺人」という内容が一致していれば)、故意を認める(法定的符合説)。
・抽象的事実の錯誤: 現実の内容と認識した内容が、異なる構成要件にまたがって一致しない場合。ex器物Aを損壊しようとして隣の人Bを死亡させた場合(「器物損壊罪」と「殺人罪・過失致死罪」という構成要件にまたがっている)。判例は、両者が重なる範囲があればその範囲で軽い罪の成立を認める。ex遺失物横領罪と窃盗罪は、「他人の財物(保護法益)を取得(行為態様)する」という点で重なる。
・違法性の錯誤: 禁止されていること(違法であること)を知らずに行為した場合。判例は、「禁止されていること」は故意の内容ではないので、違法性の錯誤は故意を阻却しない。
 
≪11≫過失
・過失は、犯罪内容を認識しなかったが不注意によって犯罪結果を起こすものであり、刑法では過失処罰の規定があって初めて、過失犯が成立する(38条1項)。「予見可能性」と「結果回避義務」が必要であるとされる。
・重過失: 注意義務違反の程度が大きい過失。
・業務上過失: 通常人よりも重い業務上の注意義務が求められる場合の過失犯。「社会生活上の地位」に基づいて「反復継続する意思」で行われる「人の生命身体に危害を加えるおそれのある」ものとされる。
・信頼の原則: 相手方や関与者も適切な行為をとるであろうと信頼して行為者が行為に出た場合、その相手方・関与者が不適切な行為に出た場合でも、信頼が相当である場合には過失責任に問われない、とする考え方。
・結果的加重犯: 基本犯+加重結果の2つの部分要素からなる犯罪。ex傷害致死罪(傷害+死亡結果)。 基本犯の部分は故意が必要だが、加重結果の部分には故意は不要(判例は、過失も不要とする)。