メモ・刑法各論

前回(id:kokekokko:20110701#p1)のつづき。

1 個人的法益

≪1≫暴行・傷害
・暴行罪: 人の身体に対する、有形力の行使(ex耳元で大きな音を出す)。体に命中する必要はない(ex人に向けられた投石や、棒を振り回すことは、それ自体が暴行)。
・傷害罪: 人の生理的機能を障害する行為。また、暴行罪の結果的加重犯も、傷害罪となる。∴暴行行為から引き起こされた傷害結果については、傷害の故意がなくとも傷害罪成立。
傷害致死罪: 傷害罪の結果的加重犯。∴暴行罪の結果的加重犯でもある。

    結果 結果 結果  
    有形力 傷害 死亡  
認識 有形力 暴行 傷害(※) 傷害致死 暴行の結果的加重犯は、傷害。
認識 傷害 暴行(※) 傷害 傷害致死 傷害罪には未遂がない。軽い罪の限度で重なる。
認識 死亡 殺人未遂 殺人未遂 殺人 未遂成立のためには要件(実行の着手)が必要。

 
≪2≫逮捕・監禁
・保護法益は、身体活動の自由。
・継続犯。=犯罪が既遂となった後も、違法の状態が継続する。(cf殺人罪(侵害犯)は、既遂になった時点で違法状態終了。) ゆえに既遂の後も、共犯が成立し、また正当防衛可能。
・逮捕罪は、直接的に身体を拘束すること。
・監禁罪は、一定場所からの移動を著しく困難にする(または不可能にする)こと(ex入浴中の女性の着替えを隠す=監禁罪)。被害者が現実に脱出できなかったという必要はなく、「脱出可能性を奪う」だけで監禁罪は成立する。被害者が監禁を認識している必要はない(ex監禁中に被害者が睡眠していても監禁罪成立。)
 
≪3≫脅迫・強要
・脅迫罪: 「相手または親族の」「生命・身体・自由・名誉・財産」への、害悪の告知。現実に被害者が畏怖する必要がなく、人が畏怖するに足りる害悪の告知があれば、脅迫罪は成立。
・害悪は、犯罪行為でなくてもよい。ex正当な理由がないのに「告訴する」と脅す場合→告訴自体は犯罪ではないが、脅迫罪成立。
強要罪: 「相手または親族の」「生命・身体・自由・名誉・財産」への害悪の告知によって脅し、または暴行を用いて、(1)人に義務のないことを行わせ、または(2)権利の行使を妨害すること。cf金銭を要求すれば、恐喝罪が成立する。
強要罪の暴行は、暴行罪よりも広く、「人に向けられた有形力の行使」で足りる。←身体に向けられていなくてもよい。
 
≪4≫住居侵入・不退去
・保護法益は、住居の権利(他人の立入の決定)。住居権者のうち一人の権利を侵害すれば、犯罪として足りる(ex夫の不在中に妻の同意を得て、姦淫目的で夫婦の住居に立ちいる行為は、夫の住居権を侵害している)
・継続犯。また、不退去罪は真正不作為犯。
 
≪5≫名誉毀損・侮辱
名誉毀損罪: 「公然と」「事実を摘示」して、人の名誉を毀損すること。事実の有無にかかわらず、名誉毀損罪が成立する。
・保護法益は、外部的名誉(人の客観的・社会的評価)。親告罪
・公然性は、不特定または多数の人が知ることができる状態、をいう。現実に不特定・多数の者が、発言等を知る必要がない。
・死者への名誉毀損は、虚偽の事実を摘示した場合のみ、犯罪成立。
・公共の利害に関する特例: (1)公共の利害にかかる事実であること、かつ(2)公益目的でされた行為は、(3)真実である証明がされたときは、罰しない。
・(1)犯罪行為についての事実は、公共の利害にかかる事実とみなす(ex犯罪報道)。(2)公務員・議員に関する事実は、公益目的の要件は不要。
・(3)真実性の証明は、被告人側が挙証責任を負う。証明があった場合は、正当な行為であったとして、違法阻却される(違法阻却説)。

  「真実性」の性質 「真実の摘示」による名誉毀損とは 真実であると誤信して行為した場合
説1 構成要件要素 名誉毀損に該当しない 事実の錯誤となり、犯罪不成立
説2 違法阻却事由 正当な行為である 違法性阻却事由の錯誤。相当な事由があれば犯罪不成立
説3 処罰阻却事由 犯罪成立だが処罰されない 犯罪成立

・侮辱罪: 事実を摘示せずとも、公然と人を侮辱すること。親告罪
・法定刑は、拘留または科料。→教唆犯・幇助犯は処罰されない。
 
≪6≫信用毀損・業務妨害
・信用毀損罪: 保護法益は、人の経済的な評価。支払能力に関する信用だけでなく、「経済的な側面における人の社会的な評価」「商品の品質に対する社会的信頼」を保護する、とされる。
業務妨害罪: (1)威力、または(2)偽計によって、業務を妨害すること。現実に業務が妨害されたという結果は、要求されない。
・業務は、社会生活上の地位に基づく行為。業務には、危険性は要求されない(cf業務上過失致死傷罪)。また、営利性も要求されず(ex無報酬業務)、適法性も要求されない(ex無許可営業)。
・公務であっても、権力的公務(ex警察、消防)以外のものには、業務妨害罪が成立する。