メモ・刑法各論

前回(id:kokekokko:20110703#p1)のつづき。

2 社会的法益

≪7≫放火
・社会的法益に対する罪: 社会(公共)の生命・身体・財産への罪。
・一方で、個人の財産に対する罪の側面もある。→他人の建造物への放火は、自己所有の建造物への放火と比べて、罪が重い。
・放火罪の分類基準は、(1)現住建造物か非現住建造物か、(2)自己所有か他人所有か。
・現住建造物放火(108条): (1)現に人が住居に使用している、または、(2)現に人がいる、建造物・電車などへの焼損。
・非現住建造物放火: (1)現に人が住居に使用せず、かつ、(2)現に人がいない、建造物・電車などへの焼損。他人所有の物に対する放火(109条1項)と、自己所有の物に対する放火(109条2項)に分かれる。
・自己所有の建造物への放火: 刑は、他人所有のものと比べると軽い。ただし、自己所有の建造物でも、(1)差押えを受け、(2)物権を負担し(ex抵当権の設定)、(3)賃貸し、(4)保険に付す、のいずれかの場合には、他人所有物とみなす。
・危険犯: 現実の法益侵害が犯罪成立要件として要求されていない犯罪を、危険犯という。なお、これに対して、現実の法益侵害が要求される犯罪が、侵害犯である。ex殺人罪法益は、人の生命)、窃盗罪(法益は、他人の財産)。危険犯は、具体的危険犯と抽象的危険犯に分類される。危険の現実的・具体的発生が要求されている犯罪が、具体的危険犯であり、それが要求されていない犯罪が、抽象的危険犯である。
・放火罪では、現住建造物放火罪・他人所有非現住建造物放火罪が抽象的危険犯である。放火行為の時点で既遂に達し、また、危険発生の認識がなくても故意犯が成立する(∵危険発生は構成要件要素ではないので、故意の対象とならない)。なお、これらの場合について、未遂を罰する。
・一方、自己所有非現住建造物放火罪・建造物等以外放火罪(110条)は、公共の危険を生じさせることが犯罪成立要件となっていて、具体的危険犯である。なお、具体的な危険発生の認識は不要(∵危険発生の認識(=延焼可能性)があれば、現住建造物放火罪・他人所有非現住建造物放火罪の未遂と評価されるから)。
・実行の着手: 媒介物(新聞紙・導火線など)への点火の時点。また、時限発火装置の設置時点。
・既遂時期: 媒介物から目的物に燃え移り、目的物が独立して燃焼した時点。ex建物の天井板30センチ四方を焼損した時点。
・延焼罪: (1)自己所有非現住建造物から、現住建造物または他人所有非現住建造物へ延焼、または、(2)自己所有建造物等以外から、現住建造物・他人所有非現住建造物または他人所有建造物等以外へ延焼。
・延焼の認識は、犯罪成立要件としては不要(∵延焼の認識があれば、重い罪が成立するから)。
 
≪8≫文書偽造
・社会的法益に対する罪: 文書に対する社会(公共)の信用への罪。分類基準は、(1)公文書か私文書か、(2)偽造か虚偽文書作成か、である。
・文書は、物体上に記載された、権利義務などを表示するもの。ex借用証書、印鑑証明書、運転免許証。
・行使の目的をもっての偽造が、処罰の対象となる。→目的犯。ある目的を持っての行為が処罰対象となる犯罪。
・文書偽造罪において中心となる偽造は、有形偽造(作成名義を偽るもの)である。ex名義人でない者が作る公文書。
・有形偽造では、内容の真実性の有無にかかわらず、偽造が成立する。
・無形偽造(虚偽文書作成): 作成名義を偽ってはいないが、その文書の内容が偽りである文書偽造。
・偽造は、文書の作出だけでなく、文書の本質的部分の改変も含まれる。ex契約書の代金の改ざん
・偽造・変造した文書を行使した場合、2つの犯罪が成立し、科刑上一罪(牽連犯)となる。
公文書偽造罪(155条): 公文書は、公務員が職務上作成すべき文書。内容が私法関係のものであっても、公文書に該当する。
・虚偽公文書作成罪(156条): 公務員が、内容虚偽の公文書を作成すること。身分犯。また、無形偽造の処罰。
・公務員ではない者(私人)が、虚偽の情報を申請して、公務員に虚偽公文書を作成させた場合には、当該私人には虚偽公文書作成罪の間接正犯は成立しない(∵身分がないから)。この場合、作成された文書が公正証書・住民票・登記簿などである場合には、公正証書原本不実記載罪(157条)が成立する。
私文書偽造罪(159条): 私文書は、(1)権利義務に関する文書ex領収書、または、(2)事実証明に関する文書ex履歴書。
・虚偽診断書等作成罪(156条): 虚偽私文書作成(内容虚偽の私文書を作ること)は、「医師が公務所に提出すべき診断書」などに限って、処罰対象となる。cf医師が公務員である場合には、虚偽公文書作成罪となる。  
 
≪9≫通貨偽造
・分類基準は、(1)通貨か有価証券か、(2)偽造・変造か行使・交付か。
・偽造: 行使の目的が、犯罪成立のために必要。目的犯。
・有価証券: 財産上の権利が表示されていて、権利行使のためにその券が必要であるもの。ex株券、手形、乗車券、商品券。
・行使: 通貨の場合は、流通に置くこと。証券の場合は、流通に限らず、真正なものとして使用すること。ex見せ手形(資力があることを示すために手形を見せること)
・行使罪は、相手方に手渡した時点で、既遂に達する(貨幣の信用に対する危険が発生しているから)。なお、事情を知る者に手渡す行為は、交付罪となる。
・詐欺罪との関係: 偽造有価証券行使の場合は、詐欺罪が別に成立して、牽連犯。偽造通貨行使の場合は、詐欺罪は別に成立しない。(∵偽造通貨行使罪は詐欺行為をすでに評価していると考えられるから)
・準備罪: 通貨偽造の目的で、器械または原料を準備すること。