メモ・刑法各論

前回(id:kokekokko:20110707#p1)のつづき。

3 国家的法益

≪10≫公務執行妨害
・保護法益は、公務。公務員の身体ではない。ゆえに、勤務時間外の公務員に暴行を加えても、公務執行妨害罪は成立しない(暴行罪成立)。
・公務は、権力的業務(ex警察官)のほかに、非権力的業務(ex地方議会議員)がは、あり、いずれについても公務執行妨害罪は成立する。
・公務は、適法なものでなければならない(公務の適法性)。公務員の軽微な違法は、刑法上適法とされることがある。職務の適法性は、行為の時点で判断される(ex現行犯逮捕が後の裁判で誤認逮捕であるとされたとしても、逮捕当時に警察官に加えた暴行は公務執行妨害となる)。
・行為は、暴行または脅迫(cf暴行・脅迫によらない妨害行為は、業務妨害罪の問題となる)。暴行は、人に向けられた有形力行使である。身体に向けられている必要はない(→強要罪と同様。暴行罪よりも広い)。また、実際に職務が妨害されなくても、成立する。
 
≪11≫犯人蔵匿・証拠隠滅
・保護法益は、国家の刑事司法作用。
・犯人蔵匿: 「罰金以上の刑に当たる罪を犯した」犯人または「拘禁中に逃走した」者をかくまうこと。
・証拠隠滅: 他人の刑事事件の証拠を、偽造・変造すること。
・親族相盗例: 犯人・逃走者の親族による犯罪は、任意的免除。cf窃盗等の親族相盗例は、必要的免除。
・犯人自身の行為は、犯罪とはならない。ただし、犯人が他人を教唆して蔵匿・証拠隠滅をさせれば、教唆犯が成立する。
・実際に刑事司法作用に影響がなくても、成立する。
 
≪12≫偽証
・保護法益は、国家の審判作用。身分犯。
偽証罪: 法廷(民事・刑事いずれも)で、証人が、虚偽の陳述をすること(cf原告・被告などの当事者の虚偽陳述は、処罰されない)。
・「虚偽」について、(1)主観説(判例・通説)は、「自己の記憶」に反する証言をすることが虚偽であるとし、(2)客観説は、「客観的な事実」に反する証言をすることが虚偽であるとする。
・主観説からは、「記憶」と「証言内容」の不一致によって偽証が成立する。
・客観説からは、「客観的な事実」と「証言内容」の不一致によって偽証が成立する(→これは証人の主観面とは無関係。)。ただし、「客観的な事実についての認識」と「証言内容」が一致している場合には、偽証罪の故意がない。
・偶然の合致: 嘘を証言したが、偶然にも真実に合致していた場合。:主観説=偽証成立。客観説=偽証不成立(証言内容と「客観的事実」は合致している)
・記憶違い: 記憶に反する事実を、事実に反しないと思いながら証言した場合。:主観説=偽証成立。客観説=偽証不成立(故意がない) ex証人Aが、事件の犯人をBだと記憶していたが、その記憶は「記憶違い」であろうと考えた場合。cf主観説からは、記憶に反する証言をした段階で、偽証成立。
 
≪13≫虚偽告訴
虚偽告訴罪: 人に刑事又は懲戒の処分を受けさせる目的で、虚偽の告訴をすること。
・保護法益は国家の審判作用。ゆえに、告訴される者の承諾があっても、犯罪は成立する。
・「客観的な事実」と「告訴内容」の不一致によって虚偽告訴が成立する。ただし、「客観的な事実についての認識」と「告訴内容」が一致している場合には、虚偽告訴罪の故意がない。→偽証罪での客観説に対応している。
 
≪14≫賄賂
・保護法益は、(1)公務員の職務の不可買収性、および(2)公務員の職務の公正。
・単純収賄罪: 公務員が、その職務に関し、(1)賄賂を収受し、または、(2)その要求・約束をすること。
・受託収賄罪:収賄の際に、「一定の具体的職務行為についての依頼」(請託)を受ける場合。
・賄賂を受けた公務員が、実際に不正な職務をしなかったとしても、収賄罪は成立する。→「不可買収性」への侵害。
・「職務に関し」は、一般的・抽象的な職務権限があれば足りる。
・賄賂は、金品のほかにも、無形のものでもよい。ex情交
・事前収賄罪:公務員になろうとする者が、公務員になる前に、請託を受けて、賄賂の収受・その要求などをすること。公務員にならなかった場合には、成立しない。
・加重収賄罪:単純収賄罪・受託収賄罪・事前収賄罪に該当する者が、職務上不正な行為をしたときは、重く罰する。→「公務員の職務の公正」への侵害。
・事後収賄罪:公務員であった者が、「在職中に、請託を受けて、不正な行為を行った」ことについて、退職後に賄賂の収受・その要求などをすること。