メモ・刑法総論

前回(id:kokekokko:20110709#p1)のつづき。あとまわしにしていた総論にもどります。

5 未遂

≪12≫未遂犯
・未遂犯は、「実行に着手して」「遂げなかった」場合に成立する。未遂を処罰する規定がある場合のみ、成立する。任意的減軽
・実行行為を開始したが終了しなかった未遂(着手未遂)と、実行行為が終了したが結果が発生しなかった未遂(実行未遂)とに区別される。
・実行の着手は、法益侵害の具体的危険性が生じた時点で認められる。構成要件該当行為だけでなく、これに密接する行為も、開始すると実行の着手とされる。
・窃盗罪では、実行の着手時期は「他人の占有を侵害する行為を開始した時点」。また、既遂時期は「他人の占有を排して自己または第三者の占有に移した時点」。
判例は、スリがポケットの外側に手を触れた時点や、他人の住居に侵入してさらに金品を物色するためにタンスに近づく時点で、窃盗罪の実行の着手を認める。また、財物強取目的で暴行強迫を開始した時点で、強盗罪の実行の着手を認める。
・また、判例は、毒薬が受取人に到達した時点で、殺人罪の実行の着手を認める。
・未遂のうち、結果発生が絶対的に不可能だった場合には、未遂犯は成立しない(不能犯)。判例は、「拳銃の弾がなかった」「毒薬が致死量に達していなかった」「財物がなかった」などでは、不能犯とはしない(未遂犯を成立させる)。
 
≪13≫中止未遂
・未遂犯のうち、実行に着手した者が自己の意思によりこれを中止したために犯罪が既遂に達しなかった場合を、中止未遂(中止犯)という。必要的減免。中止未遂とそれ以外の未遂(障害未遂)との区別は、自己の意思による中止かどうかにある。cf邪魔が入ったからやめた、などは中止未遂不成立。
・中止行為によって結果発生を防げばその時点で中止未遂が成立し、その後に他の原因で結果を発生しても、中止未遂の成立は妨げられない。
・着手未遂の場合は、自己の意思で行為をやめれば中止犯は成立する。しかし、実行未遂の場合には、結果発生を自ら阻止(中止行為)してはじめて、中止犯が成立する。
・中止未遂の成立のためには、「自己の意思で中止した」という要件が必要である。cf結果発生が不可能だったのでやめた場合には、中止未遂不成立。
・中止未遂の効果(必要的減免)は、中止した犯罪と併合罪・科刑上一罪の関係にある別罪には及ばない。
・共同正犯の一人に中止未遂が成立するためには、その者が中止するだけでは足りず、他の行為者の行為を阻止する(着手未遂の場合)か、共犯者の行為からの結果を阻止する(実行未遂の場合)必要がある。
・中止未遂がなぜ減免されるのかについては、「行為者が結果発生の危険性を減少させた」という違法減少説と、「中止行為によって行為者の非難可能性が減少する」という責任減少説とがある。