メモ・刑法総論

前回(id:kokekokko:20110710#p1)のつづき。

6 共犯

≪14≫共犯
・共犯とは、2人以上の者が共同する犯罪。自ら犯罪を行う者を正犯、2人以上の正犯が共同する共犯を共同正犯といい、また、正犯以外の関与者を狭義の共犯といい、教唆犯と幇助犯(従犯)がある。
・必要的共犯: 構成要件上、複数の者の関与が予定されている共犯。このうち、(1)対向犯は、性質上、1人では成立しない犯罪についての共犯。ex贈収賄。(2)多衆犯は、多数の存在が構成要件となっている犯罪。ex騒乱罪
・間接正犯: 他人を道具として利用して犯罪を実現する正犯。ex幼児に命令して窃盗させる者。ここで「他人」は、是非弁別の能力を欠く者(10歳未満、高度の精神病者など)や、故意がない(事情を知らない)者をいう。
・正犯が犯罪を実行していないときは、正犯に対する共犯は、成立しない。これを共犯の従属性という。
・正犯の要素(構成要件該当・違法・責任)が共犯にも及ぶことを、要素従属性という。要素従属性についての通説によれば、正犯が「構成要件に該当して違法な行為」を行えば、共犯が成立する(制限従属性説、「違法は連帯して、責任は個別に」)。ex共同正犯の一人に正当防衛が成立すれば他の者も違法阻却される。一方、別の説によれば、正犯が「構成要件該当・違法・有責な行為」を行えば、共犯が成立する(極端従属性説)。
・自首: 犯人がわからない時点で犯人が名乗り出ること。任意的減軽(cf犯人がわかっている時点で名乗り出れば「出頭」であり、自首ではない)。共犯の一人についての自首の効果は、他の共犯に及ばない。
 
≪15≫共同正犯
・一部実行全部責任: 共同正犯は、実行行為の一部を実行するだけでも、犯罪の全部について責任を負う。ex共同して「相手を殴った」者と「財布を盗んだ」者は、いずれも強盗罪の共同正犯(暴行と窃盗、ではない)。
・共同正犯の成立には、共同実行の意思が必要。共同意思がない場合には、同時犯(自己の行為から生じた結果についてのみ責任を負う)にとどまる。
・結果と共同正犯: (1)基本犯についての共同実行の意思があれば、加重結果についても共同正犯となる。(2)結合犯(強盗=窃盗+暴行・脅迫、のように、複数の犯罪が結びついて成立する犯罪)については、部分についての共同実行の意思しかなければ、結合犯の共同正犯とはならない。ex「暴行を共謀したところ、知らない場で一名が財物窃取した」場合には、残りの者は暴行罪の共同正犯にとどまる。→共犯の一人の意図した範囲を超えて他の者が犯罪を行った場合には、錯誤の処理に従い、法定的符合説をとりつつ、異なる構成要件にまたがる場合には重なる範囲で軽い罪の成立を認める。
・共同正犯のうち、(1)実行行為を一部でも行っているものを実行共同正犯といい、(2)実行行為を行っていないものを共謀共同正犯という。
・予備罪の共同正犯: 共同正犯の成立のためには、共同して犯罪を「実行」する必要があるが、正犯が実行行為を行う必要はない。よって、共謀共同正犯は共同正犯とされ、また、予備罪の共同正犯も、共同正犯となる(予備行為を実行すればよい)。
 
≪16≫教唆犯・幇助犯
・人を教唆して犯罪を実行させたものを、教唆犯といい、正犯の刑を科する(61条)。
・他人に犯罪を決意させるのが教唆犯の成立要件だから、すでに犯罪決意している者に対しての教唆はできない(従犯の問題)。
・教唆者を教唆することを間接教唆といい、間接教唆者を教唆することを再間接教唆という。いずれも、教唆犯として処罰される。
・共犯の従属性: 被教唆者が実行に着手していないときは、教唆者について教唆犯は成立しない。また、被教唆者の犯罪が未遂におわったときは、教唆者も未遂犯となる。
・要素従属性: 教唆犯と間接正犯の関係について問題となる。制限従属性説からは、責任を欠く者を教唆した場合には教唆犯となる。極端従属性説からは、責任を欠く者を教唆した場合には間接正犯となる。
・正犯を幇助したものを、幇助犯(従犯)といい、正犯の刑から必要的減軽する(62・63条)。
・片面的従犯: 幇助の事実を、正犯が知らなかった場合。従犯が成立する。cf片面的共同正犯は成立せず(共同実行の意思がない)、片面的教唆も成立しない(正犯の犯罪決意とはみなせない)。
 
≪17≫共犯と身分
・身分犯: 特殊な身分がある者のみが行うことができる犯罪。ex収賄罪は公務員のみが行える。また、横領罪は他人の財物の占有者のみが行える。
・共犯と身分: 身分犯に、身分がないものが参加(加功)した場合。
・真正身分犯(構成身分犯): 非身分者が、身分者の犯罪に加功した場合、非身分者も身分者の共犯となる。ex公務員でない者
・不真正身分犯(加減身分犯): 非身分者と身分者とで、刑の重さに違いがある場合には、非身分者には、身分者の刑ではない通常の刑を科する。ex常習者でない賭博者
・業務上横領罪: 「業務者」と「占有者」という2つの身分から構成される。業務者でない者が業務上横領に加功した場合には、罪名は真正身分犯のものとなり(業務上横領罪)、科刑は不真正身分犯のものとなる(単純横領罪の範囲で科刑)。
 

7 刑罰

≪18≫罪数
・犯罪の個数は、行為の数や、結果の数で決定される。とくに、侵害された法益の数が重要になる(各論で扱う)。
・単純一罪: 1個の行為で1つの犯罪を実現した場合。一罪。
・包括一罪: 複数の行為が、1つの犯罪と評価される場合。(1)実質的な法益侵害が1つと評価される場合(ex放火による複数家屋の延焼、複数人へのわいせつ物の販売)、(2)一つの構成要件が他の構成要件を評価しつくしている場合(ex殺人とその際の被害者の着衣への器物損壊)、など。
・科刑上一罪: 実質的には複数の犯罪が成立している(数罪)が、刑を科す手続上一罪として扱う場合。(1)観念的競合と、(2)牽連犯とがある。その最も重い刑によって処断される。
・(1)観念的競合: 1個の行為とみなせる行為で、複数の犯罪の構成要件に該当する場合。ex1回の暴行で複数名が負傷。また、公務執行妨害と傷害。
・(2)牽連犯: ある犯罪の手段または結果としての行為が、他の犯罪を構成する場合。ex窃盗目的の住居侵入。
併合罪: 同一の者が犯した、確定判決を経ない複数の罪。同時の審判をすることができる(ex2名に対する殺人)。懲役・禁錮では、最も重い刑の1.5倍(ただし30年以内)。
・科刑上一罪とならない例: (1)保険金詐欺目的の放火と詐欺(放火は、「通常は」詐欺の目的とはならない)、(2)犯跡を隠蔽するための新たな犯罪(別罪を構成する)、(3)恐喝目的の監禁と恐喝(監禁は別罪を構成)、(4)殺人と死体遺棄
・不可罰的事後行為: 状態犯では、侵害行為の後の別行為は、侵害行為への刑罰によって評価されている、と考えられている。ex窃盗の後の財物処分は、窃盗罪によって評価されているので、別罪を構成しない。
 
≪19≫刑の減免
・犯罪が成立する場合も、刑を軽くすることがある。分類方法は、必ず(「必要的」)かそうでないか(「任意的」)、軽くする(「減軽」)か刑を免じるか(「免除」)その両方が可能(「減免」)か。
・必要的免除: 犯罪は成立しているが、刑を科さない。 ex親族相盗
・必要的減免: ex中止未遂
・必要的減軽: ex幇助、心神耗弱
・任意的免除: ex殺人予備
・任意的減免: ex過剰防衛
・任意的減軽: ex自首、法律の錯誤、情状酌量
・加重・減軽の順序は、1累犯加重、2法律上の減軽(上例で情状酌量以外)、3併合罪加重、4酌量減軽
・自首: 犯人がわからない時点で犯人が名乗り出ること。 cf犯人がわかっている時点で名乗り出れば「出頭」であり、自首ではない。
・首服: 親告罪(被害者の申告によって刑事訴訟が開始される犯罪(ex名誉毀損、器物損壊)の犯人が、自己の犯罪の事実を告訴権者(被害者など)に名乗り告げて、その告訴にゆだねること。自首と同じ効果。
 
≪20≫累犯(再犯)
・確定判決を経た犯罪(前犯)に対してさらに罪(後犯)を犯した場合、要件を具備していれば刑が加重される(処断刑の上限が広がる)。
・加重要件: (1)前犯は懲役刑であり、(2)前犯の執行を終わった日(又はその執行の免除を得た日)から5年以内に後犯を犯し、(3)後犯が有期懲役、であるとき。cf(1)前犯が禁錮、(2)前犯の執行前、執行中、執行猶予中、仮釈放中の場合には、加重要件をみたさない。
・執行の免除を得た日: 執行猶予の期間が経過して執行免除となった場合や、仮釈放中に満期となり刑を免除された場合。
・刑は、懲役の長期の2倍以下(ただし30年以内)。
・累犯加重は、処断刑の上限が広がるだけであるから、必ずしも「加重しなければならない」ものではない。
 
≪21≫没収
・没収は、犯罪に関係のある者の所有物を、国庫に帰属させる刑罰。付加刑であり、ほかの刑(主刑)と併せて科す。
・任意的没収の対象物は、(1)犯罪組成物件: 犯罪を組成する物(ex偽造文書行使での偽造文書)、(2)犯罪供用物件: 犯罪行為に供する物(ex殺人罪の凶器)、(3)犯罪生成物件・犯罪取得物件・犯罪報酬物件: 犯罪行為によって生じた・取得した・報酬として得た物(ex文書偽造罪での偽造文書、賭博罪で得た金品、盗品)、(4)対価物件: (3)の対価として得た物(ex盗品の売却利益)。
・任意的没収の要件は、対象物が現存し、犯人以外のものに属していないこと(所有権・用益物権担保物権ともに犯人以外に属していないこと)である。ただし、共犯者の物や、犯人以外の者であっても事情を知って取得した物は、没収できる。
・主物の没収では、従物も没収できる。
・拘留・科料のみにあたる罪(刑法典では、侮辱罪)では、犯罪組成物件のほかは、特別な規定がなければ、没収できない。
 
≪22≫刑の執行猶予
・刑の執行猶予は、判決により言い渡された刑の内容を猶予する制度である。執行猶予の期間内に取消事由に該当しなかった場合には、刑の執行力は失われる。
・初回の執行猶予の条件: (1)前に禁錮以上の刑に処せられたことがない、または、前の刑の執行を終わった日(又はその免除を得た日)から5年以内に禁錮以上の刑に処せられたことがない者。(2)宣告刑は、3年以下の懲役もしくは禁錮又は50万円以下の罰金。(3)情状があること。
・再度の執行猶予の条件: (1)前に禁錮以上の刑に処せられ、執行猶予された者。(2)宣告刑は、1年以下の懲役又は禁錮。(3)情状に特に酌量すべきものがあること。なお、「再度の執行猶予」では、保護観察に付せられる。
・必要的取消事由: 猶予の期間内に更に罪を犯して禁錮以上の刑に処せられ、または、猶予の言渡し前に犯した他の罪について禁錮以上の刑に処せられ、それらの刑について執行猶予の言渡しがないとき、など。
・裁量的取消事由: (1)猶予の期間内に更に罪を犯し、罰金に処せられたとき、または(2)保護観察に付せられた者が遵守すべき事項を遵守せず、その情状が重いとき、など。