民法総則

前回の続き。
【5】代理
(1)代理
代理人のした意思表示の効果を、直接本人に帰属させる制度。
代理人には、意思能力が必要。使者には意思表示は不要。
代理人には、行為能力は不要。未成年者や成年被後見人も、代理人になれる。ただし、本人と代理人との代理権授与契約は、制限行為能力を理由に取り消すことができる。
*任意代理は、本人の信任による代理。法定代理は、法の規定による代理。
(2)代理権
代理人による意思表示の効果を、本人に帰属させるための権能。
*任意代理では、本人が代理権を付与する。
*法定代理では、家庭裁判所の選任や、法の規定により当然に代理権が発生する。
代理人が、代理権の範囲内で自分や第三者のために代理権を濫用した場合、有効。ただし相手方が善意・無過失である必要がある(93条の類推)
(3)顕名
顕名は、本人のためにする意思(代理意思)を表示すること。
顕名のない意思表示は、代理人のためにする意思表示とみなされる。
*ただし、相手方の悪意または過失がある場合は、本人に効果が帰属する。
(4)代理行為
*代理行為の瑕疵や善意・悪意、過失の有無などは、意思表示を行った代理人について判断される。
*特定の法律行為を本人の指図に従って行った場合には、本人について善意・悪意や過失の有無を判断される。
(5)詐欺
*相手方が代理人に対して詐欺を行った場合には、取消権は本人が持つ。
代理人が相手方に詐欺を行った場合には、「代理行為の瑕疵」となり、本人の善意・悪意を問わず相手方は取り消すことができる。
(6)自己契約・双方代理
*自己契約は、当事者が相手方の代理人となる代理。
*双方代理は、一方の代理人が他方の代理人でもある代理。
*自己契約・双方代理は、無権代理とされ、本人の追認によって有効となる。
*ただし、債務の履行及び本人があらかじめ許諾した行為については、許される。
(7)復代理
代理人がさらに本人の代理人(復代理人)を選任すること。
*復代理権授与は、代理人と復代理人との間でされる。
*復代理人は、本人のためにすることを示して行為する。
(8)復代理人の選任
任意代理人は、本人の許諾を得た場合、または、やむを得ない場合に限って、復代理人を選任できる。
法定代理人は、いつでも、復代理人を選任できる。
(9)復代理人の行為についての代理人の責任
任意代理人は、復代理人の行為について、選任・監督についてのみ責任を負う。
*本人の指名に従って復代理人を選任したときは、責任を負わない。ただし、その者が不適任又は不誠実であることを知りながら本人への通知や解任を怠った場合には、責任を負う。
法定代理人は、復代理人の行為について、責任を負う。ただし、やむを得ない事由による選任の場合には、選任・監督についてのみ責任を負う。
(10)復代理人代理人
*復代理人の権限は、代理人の代理権を基礎とするため、代理権が消滅すると復代理人の権限も消滅する。
*復代理権の範囲は、代理人の代理権の範囲内に限る。
 
【6】無権代理
(1)無権代理
*代理権がないのに代理行為をしたり、代理権の範囲外の行為をしたりすること。
無権代理の効果は、本人には帰属しない。
*相手方のない単独行為は、つねに無効である。
*相手方のある行為は、本人の追認で有効となりうる。
(2)追認
*追認は、本人が一方的に行うことができる(単独行為)。
*相手方に主張するには、相手方に対して行うか、相手方がその事実を知る必要がある。
*追認には遡及効があり、追認によってはじめから有効なものとなる。
*本人が、追認とみなされうる行為を行っても、追認擬制はされない。
(3)相手方
無権代理の相手方には、催告権がある。確答がない場合には、追認拒絶とみなされる。
*善意の相手方には、取消権もある。本人の追認までならば、取り消すことができる。
*取り消すと、本人の追認もできなくなり、無権代理人の責任追及もできなくなる。
(4)無権代理人の責任
*代理権がなかったことについて善意無過失の相手方は、無権代理人の責任を追及することができる(117条)。
*相手方は、無権代理人に対して、本来の履行の請求と損害賠償請求のいずれかができる。
*損害賠償は、履行利益の賠償を請求できる。
無権代理人が制限行為能力者であった場合には、無権代理人の責任を追及することができない。
(5)無権代理人が本人を相続
無権代理人が本人を相続した場合、本人が自ら行為をしたのと同じとなり、効果は当然に本人に帰属する。
*第三者が、無権代理人を相続した後で、本人を相続した場合にも、同様。
*ただし、本人が相続開始前に追認拒絶していたときは、効果が帰属しない。
無権代理人が本人を他の相続人とともに共同相続した場合、本人の追認権は共同相続人全員に相続されるために、当然に有効となるわけではない。
無権代理人の相続分についても、当然に有効にはならない。
*追認は、相続人の全員が共同して行う必要がある。
(6)本人が無権代理人を相続
*本人が無権代理人を相続した場合、追認拒絶することができる。
*ただし、無権代理人の責任は免れることができない。
(7)表見代理
無権代理につき、本人にも帰責性がある場合に、相手方を保護して、代理の効果を本人に帰属させる。
*相手方の善意・無過失が必要。
表見代理無権代理であるから、相手方は表見代理を主張せずに、117条の無権代理人の責任を追及することもできる。
(8)表見代理の種類
*代理権授与の表示: 本人が代理権を与えたことを表示した場合、その代理権の範囲内で無権代理人が代理行為を行えば、表見代理が成立する。
*権限外の行為: 基本代理権がある者が、それを超えて代理行為をした場合、表見代理が成立する。
*代理権消滅後: かつて代理権を持っていた者が、その範囲内で代理行為を行った場合、表見代理が成立する。