民法総則

前回の続き。
【7】時効
(1)取得時効
*時効は、一定の事実状態を、権利として認める制度。
*20年間、所有の意思を持って、平穏に、かつ公然と他人の物を占有すると、所有権の取得時効が完成する。
*所有の意思は、客観的に所有権の行使と認められるものをいう。所有の意思の有無は、占有取得の原因または占有に関する事情により、外形的・客観的に決定される。
*土地の一部も、時効取得できる。
*不動産の二重譲渡の第一譲受人も、時効取得できる。第二譲受人には所有を対抗できず、他人の物に該当するため。
(2)占有と善意・悪意
*占有開始時に善意であれば、10年間の占有で取得時効が完成する。途中で悪意に転じてもよい。
*占有を承継したときは、自身の占有期間だけを主張してもよいし、前主の占有期間をあわせて主張してもよい。
*前主の悪意・善意は、承継する。
(3)消滅時効
*債権だけでなく、物権である地上権や地役権なども、消滅時効にかかる。
*10年間、権利を行使しなければ、債権は消滅する。
*一部の債権は、短期消滅時効にかかる。ただし、これらの債権も、時効中断後新たに進行する消滅時効の期間は、10年。
(4)消滅時効の起算点
消滅時効は、権利を行使することができる時から、進行する。
*権利を行使することができる時は、期限到来や条件成就など。
*期限の定めのない債権は、債権発生と同時に、消滅時効が進行する。
*ただし、消費貸借などでは、相当な期間を経過した後に消滅時効が進行する。
債務不履行に基づく損害賠償請求権は、本来の債務を履行し得る時から、時効が進行する。本来の履行請求権と同一性を有するから。
*契約解除に基づく原状回復請求権は、解除の時から、時効が進行する。解除によって新たに発生する債権だから。
*夫婦の一方が他方に対して有する債権は、権利行使できる時から進行する。婚姻解消のときからではない。
(5)時効の中断
*時効完成のための事実状態が破られ、時効計算がふりだしに戻ること。
*中断事由が終了すると、また新たな時効が進行する。
*法定中断事由は、以下。
 +請求
 +差押え、仮差押えまたは仮処分
 +承認
(6)請求
*裁判上の請求(訴えの提起)など。
*中断の効果は、判決の確定まで続く。判決の確定の時点で、新たな時効進行が開始する。
*ただし、訴えが却下されたり、取り下げられたりした場合には、中断の効果は生じない。
*催告は、裁判外での履行の請求。
*催告後6か月以内に、裁判上の請求をすれば、時効を中断できる。
(7)承認
*時効の利益を受ける者が、権利の存在を認める行為。
*利息の支払、支払猶予の申込みなど。
*承認は、権利の存在を認める事実行為。行為能力や代理権などの処分能力・処分権限は不要であり、管理能力・管理権限があればよい。
被保佐人の承認によって、時効は中断する。ただし、未成年者・成年被後見人が単独で承認しても、時効は中断しない。
(8)時効の停止
*時効の進行の一時中断。
*時効完成の間際に、中断を困難にする事情が生じた場合に、その事情が消滅するまでは時効は完成しない。
*時効完成の6か月以内に、未成年者・成年被後見人法定代理人がいない場合には、その者が行為能力者となるか法定代理人が就いた時から6か月が経過するまでは、時効は完成しない。
(9)時効の援用
*時効の効果は、援用した者にのみ及ぶ。
*援用権者は、時効の完成によって直接利益を受ける者。保証人・物上保証人・抵当不動産の第三取得者など。
*連帯保証人は、主債務の時効消滅を、主債務者が援用しなくても援用できる。
(10)時効の利益の放棄
*時効完成前には、時効の利益を放棄できない。
*時効完成後に、時効の完成を知りつつ利益を放棄することはできる。
*時効の利益の放棄の効果は、放棄をした者にのみ生じる。
*時効の利益の放棄後には、新たな時効の進行が開始し、その時効が完成すると、再度援用権が生じる。
*時効の完成を知らなかったとしても、債務を承認したときには、時効を援用することはできない。
(11)時効の効力
*時効の効力は、起算日にさかのぼる。
*時効期間中に生じた果実は、時効取得者に帰属する。
*元本債権が時効消滅すると、利息債権も消滅していたことになる。