（資料）責任に関する条文・審議（その4・現行刑法〜第二次大戦-4-）
前回（6/11）のつづきです。初回は6/7。
改正刑法予備草案発表の直後に発足した刑法並監獄法改正調査委員会が、昭和6年（1931年）に改正刑法仮案の総則部分を公表しました。
泉二新熊と牧野英一が中心となった草案であるとされています。
刑法並監獄法改正調査委員会総会決議及留保条項
第九条
罪ヲ犯ス意ナキ行為ハ之ヲ罰セス但シ法令ニ特別ノ規定アル場合ハ此ノ限ニ在ラス
罪ト為ルヘキ事実ヲ知ラスシテ犯シタル者ハ故意アリト為スコトヲ得ス
第十条
罪本重カルヘクシテ犯ストキ知ラサル者ハ其ノ重キニ従テ処断スルコトヲ得ス
第十一条
法律ヲ知ラサルヲ以テ故意ナシト為スコトヲ得ス但シ情状ニ因リ其ノ刑ヲ減軽又ハ免除スルコトヲ得
法律ヲ知ラサル場合ニ於テ自己ノ行為カ法律上許サレタルモノト信シタルコトニ付相当ノ理由アルトキハ其ノ刑ヲ免除ス
第十四条
心神ノ障碍ニ因リ事理ヲ弁別スル能カナキ者又ハ事理ノ弁別ニ従テ行為ヲ為スノ能カナキ者ノ行為ハ之ヲ罰セス能力減弱シタル者ノ行為ハ其ノ刑ヲ減軽ス
第十五条
いんあ者ノ行為ハ之ヲ罰セス又ハ其ノ刑ヲ減軽ス
第十六条
十四歳ニ満タサル者ノ行為ハ之ヲ罰セス
第百二十六条
保安処分ハ左ノ四種トシ裁判所之ヲ言渡ス
一 監護処分
二 矯正処分
三 労作処分
四 予防処分
第百二十七条
禁錮以上ノ刑ニ該ル罪ヲ犯シタル者心神障碍者又ハいんあ者ナル場合ニ於テ公安上必要アリト認ムルトキハ監護処分ニ付スル旨ノ言渡ヲ為スコトヲ得
前項ノ監護処分ハ刑ノ言渡ヲ受ケタル者ニ対シテハ其ノ刑ノ執行終了後引続キ之ヲ執行ス但シ事情ニ因リ刑ノ執行ニ先チ又ハ其ノ執行ヲ停止シテ監護処分ノ執行ヲ為スコトヲ得
第百二十八条
監護処分ニ付セラレタル者ハ監護所ニ収容シ治療其ノ他監護ノ為必要ナル処置ヲ為スヘシ
第百二十九条
監護処分ニ付セラレタル者収容後其ノ必要ナキニ至リタルトキハ行政官庁ノ処分ヲ以テ退所セシムヘシ
前項ノ処分ヲ為スニハ刑務委員会ノ議ヲ経ヘシ
第百三十条
監護処分ノ期間ハ五年トス特ニ必要アルトキハ裁判所ハ之ヲ更新スルコトヲ得
第百三十一条
刑ノ言渡ト共ニ監護処分ニ付セラレタル者ニ対シ仮釈放ノ処分ヲ為シタルトキハ其ノ仮釈放中監護処分ハ之ヲ執行セス
第百三十二条
刑ノ執行ニ依リ監護処分ノ執行必要ナキニ至リタルトキハ裁判所ハ監護処分ノ執行ヲ免除スルコトヲ得
監護処分ノ執行ニ依リ刑ノ執行必要ナキニ至リタルトキハ裁判所ハ刑ノ執行ヲ免除スルコトヲ得
第百三十三条
飲酒又ハ麻酔剤使用ノ習癖アル者ニ対シ酪酊又ハ麻酔ノ状態ニ於テ罪ヲ犯シ其ノ習癖ヲ矯正スル必要アリト認ムルトキハ矯正処分ニ付スル旨ノ言渡ヲ為スコトヲ得
矯正処分ノ期間ハ二年トス
第百二十七条第二項ノ規定ハ刑ノ言渡ヲ受ケタル者二対スル矯正処分ニ之ヲ準用ス
第百三十四条
矯正処分ニ付セラレタル者ハ矯正所ニ収容シ矯正ノ目的ヲ達スル為必要ナル処置ヲ為スヘシ
第百三十五条
第百二十九条、第百三十一条及第百三十二条ノ規定ハ矯正処分ニ之ヲ準用ス
第百三十六条
浮浪又ハ労働嫌忌ニ因リ常習トシテ罪ヲ犯シタル者ニ対シ刑ノ言渡ヲ為ス場合ニ於テハ其ノ裁判ト共ニ労作処分ニ付スル旨ノ言渡ヲ為スコトヲ得
労作処分ノ期間ハ三年トス
第百三十七条
労作処分ニ付セラレタル者ハ労作所ニ収容シ勤勉ニシテ紀律アル習慣ヲ馴致スル為必要ナル作業ニ就カシムヘシ
労作所ノ長ハ労作処分ニ付セラレタル者ヲシテ労作所外ニ滞在シ官設、公設又ハ私設ノ工場、農場其ノ他ノ作業場ニ於テ就業セシムルコトヲ得
第百三十八条
第百二十九条、第百三十一条及第百三十二条ノ規定ハ労作処分ニ之ヲ準用ス
第百三十九条
懲役ノ執行ノ終了ニ因リ釈放セラルヘキ者釈放後ニ於テ更ニ放火、殺人又ハ強盗ヲ為ス虞アルコト顕著ナルトキハ裁判所ハ予防処分ニ付スル旨ヲ命スルコトヲ得
第百四十条
予防処分ニ付セラレタル者ハ予防所ニ収容シ改悛セシムル為必要ナル処置ヲ為スヘシ
第百四十一条
予防処分ノ期間ハ二年トス特ニ必要アルトキハ裁判所ハ之ヲ更新スルコトヲ得
第百四十二条
予防処分ハ刑ノ執行終了後引続キ之ヲ執行ス
第百二十九条ノ規定ハ予防処分ニ之ヲ準用ス
第百四十三条
保安処分ノ言渡確定シタル後執行ヲ為サスシテ三年ヲ経過シタルトキハ裁判所ノ許可ヲ得ルニ非サレハ之ヲ執行スルコトヲ得ス
懲役、禁錮、拘留又ハ滞納留置ノ執行中ニ係ル期間ハ之ヲ前項ノ期間ニ算入セス
その後仮案は、昭和15年に総則部分と各則部分とを合わせた未定稿として公表されましたが、戦時体制のために廃止されました。
ところで、改正刑法仮案には公式理由書は附せられていませんが、久礼田益喜による注釈が公表されているので記載してみます。
刑法並監獄法改正調査委員会総会決議及留保事項(刑法総則及各則未定稿)
右改正刑法仮案ノ骨子ハ改正綱領ニ基キ日本ノ淳風美俗ヲ維持スルト共ニ社会防衛ヲ目的トシテ防犯対策ヲ講ズルニ在リ。現行刑法ガ主トシテ個人主義的ナルニ対シテ本案ハ稍国家主義ヲモ加味シ、又所謂客観主義ト主観主義トヲ折衷セルト同時ニ罪刑法定主義ニ則スルモ、所謂精神解釈ノ余地ナキニアラス。最モ注意スベキハ本案ガ所謂刑事政策的見地ヨリ刑罰ト保安処分トノ実質上ノ区別ヲ認メザル結果、犯罪ハ所謂客観的要件ノミヨリ成立シテ違法行為ト同義トナリ、所謂主観的要件タル責任ハ処罰ノ前提タルニスギザルニ至レルコトナリ。刑罰ニ於テハ新ニ資格喪失、資格停止、居住制度及譴責ヲ認ムルト共ニ不定期刑ノ制度ヲ認メ、更ニ監護処分、矯正処分、労作処分並予防処分ナル四種ノ保安処分ヲ認メタリ
〔註〕刑法ノ実体ハ犯罪、刑罰並ニ両者間ノ関係ヲ規定スルニ在リ。而シテ犯罪ハ行為ノ形式ニ於ケル構成要件ノ充足ニシテ違法ト責任トヲ其ノ実質トシ、刑罰ハ斯カル違法ニ応報シ、斯カル責任ヲ贖フモノナリト観ルヲ従来ノ通説トス。サレバ原則トシテ違法ハ客観的ニ、責任ハ主観的ニ観念セラレ、違法ニ於ケル反規範性ガ刑罰ニ於ケル応報ノ原因トナリ、責任ニ於ケル反道義性ガ刑罰ニ於ケル贖罪ヲ基礎ヅケ、以テ社会的規範ヲ道義的ニ維持スルヲ刑法ノ本領トナセリ
而シテ日本刑法ノ本質モ亦之ヲ逸脱スルヲ得ザルベク、唯日本国並ニ日本人ノ特色ニ顧慮シ、犯罪並ニ刑罰ニ於ケル違法即チ規範的方面ハ、皇国国体ノ本義ニ則ルベク、ソレ等ニ於ケル責任即チ道義的方面ハ、皇運扶翼ノ大道ニ依ルベキモノトスルヲ日本人一般ノ常識ナリトス。然ルニ近代欧米諸国ノ刑法ハ唯物思想ト社会功利主義トニ則リ犯罪ヲ以テ単純ナル社会事象ナリト観、刑罰ヲ以テ之ト闘争スル社会施設タルニスギズトナシタル為、犯罪ニ於ケル責任並ニ刑罰ニ於ケル贖罪ハ全然無視セラレ、刑罰ハ形式的ニノミ保安処分ト区別セラレ実質上ハ之ト同様ニ単ナル社会防衛手段ト化スルニ至レリ
本案モ亦外観上ハ斯カル近代刑法ノ一ニ属スルガ如シト雖、斯クノ如キ精神的堕落ハ日本ノ国体ト皇道トノ断ジテ之ヲ許サザルハ何人ト雖之ヲ認ムルトコロナルヲ以テ、本案ヲ解釈スルニ当リテハ此ノ間ノ調和ヲ計ルヲ以テ大眼目トナサザルベカラズ。則チ本案ニ於ケル犯罪ニ第一義的ノモノト第二義的ノモノトアリ、第一義的犯罪ハ違法ト責任トヨリ成立シ、之ニ科スルニ道義的刑罰ヲ以テシ、第二義犯罪ハ違法ノミヨリ成立シ之ニ科スルニ適当ナル保安処分ヲ以テスルモノト解スヘシ、従ツテ例ヘバ第九条、第十四条乃至第十六条ニ於ケル「罰セズ」ハ、第一義的犯罪ニツキテハ不成立ヲ意味シ、第二義的犯罪ニツキテハ「刑罰ヲ科セズ」ヲ意味ス
然レドモ物心ハ本来一如ニシテ皇国ノ道ハ世界ノ知識ニ通ズ。サレバ刑罰ノ執行ニ於テモ其ノ政策的効果ヲ忽ニスルコトナク、保安処分ノ執行ニアリテモ其ノ道義的要素ヲ無視セザルコトヲ要ス
第一編 総則
第二章 犯罪
〔註〕 本案ニ於ケル犯罪ニ広狭二義アリ狭義ニ於ケル犯罪ハ違法ト責任トヨリ構成セラレ、広義ニ於ケル犯罪ハ違法ノミヨリ成立ス
違法トハ形式的ニハ法規違反ナレドモ実質的ニハ法規全体ニ顕現セル皇道（忠孝仁義乃至淳風美俗）ニ違反スルコトナリ。実質的違法ヲ以テ法益侵害又ハ公序良俗違反トナス者アレドモ、之主トシテ近世初頭以来欧米ニ台頭セル権利本位ノ個人自由主義思想ニ基キ又ハ之ヲ修正シタルニスギザルモノニシテ、以テ将来ニ於ケル皇国日本ノ刑法ヲ指導スベキ理念タルニ適セズ。責任ノ本質ハ道義的タルベク社会的タルベカラズ。所謂規範的責任モ亦具体的道義責任ノ意ニ解スベシ本法モ亦罪刑法定主義ニ則レルモノニシテ、ソノ規定スル犯罪ハ構成要件充足ノ理論ヲ離レテ之ヲ概念スベカラズ。サレバ違法ト責任トヨリ構成セラルル犯罪コソ第一義的犯罪ニシテ、之ニ対シテハ国体ニ基ク全体的規範ヨリスル客観的贖罪トノ合体セル刑罰ガ科セラルベキモノナリ
広義ノ犯罪ハ狭義ノ犯罪ヨリ道義性ヲ除去シタルモノニシテ違法ノミヨリ成立シ責任ヲ要素トナサズ。従ツテ之ニ対シテハ刑罰ヲ科スルヲ得ズシテ単ニ社会防衛的見地ヨリ適当ナル保安処分ニ付スル旨ノ言渡ヲ為スコトヲ得ルニ止ル（第一二七、一三三、一三六条参照）
然レドモ所謂保安処分ト雖皇国ニアリテハ皇道精神ニ依拠シテノミ其ノ実績ヲ完フシ得ベキモノナレバ、保安処分等ニ関スル若干ノ法条ニ倚リテ皇国刑法全体ヲ恰モソヴィエト流ノ道義上無色ニシテ何等ノ精神ナキ社会防衛刑法ナルガ如ク解スルハ当ラズ
要スルニ皇道ニ依リテ無窮ニ発展スル皇国ニアリテハ、刑法モ亦天業恢弘ノ一翼トシテ国体道義ニ奉仕スベキモノナレバ、斯カル道義観念ヨリ導カルル狭義ノ犯罪ヲ以テ第一義的ノモノトシ外観上恰モ道義ヨリ遊離セルガ如キ広義ノ犯罪ハ之ヲ第二義的視スルト同時ニ、斯カル犯罪ニ対スル科学的政策ニ対シテモ亦皇国ノ施説トシテ本来有スベキ道義ノ栄光ヲ被ラシメ、以テソノ第一義的向上ニ発ムベキモノトス
本章ハ唯ニ其ノ形式ニ於テノミナラズ、其ノ実質ニ於テモ亦現行法第七章ニ照応シ、其ノ表題ガ単ニ「犯罪」ナルニ拘ラズ其ノ実ハ主トシテ違法乃至責任ノ阻却ニ因ル「犯罪ノ不成立又ハ刑ノ減免」ヲ規定スルニ過キズ。而シテ法文ノ字句ヨリスレバ違法ノ阻却セラルル場合ニハ「罪ト為ラズ」トシ（第九、一四乃至一六条）、責任ノ阻却セラルル場合ニハ「之ヲ罰セズ」トシタル（第一七乃至二〇条）ガ為、恰モ犯罪ハ違法ノミヨリ成立スル単ナル反社会的現象ニシテ、之ニ対シテハ其ノ防衛方法トシテ刑罰又ハ保安処分ヲ科スベク、ソノ中刑罰ハ責任ヲ前提トシ各種ノ保安処分ニハソレゾレ相当ノ条件ヲ前提トスル（即チ刑罰モ保安処分モソノ実質ハ「犯罪ニ対スル防衛方法」ナル点ニ於テ同様ニシテ唯斯カル防衛方法トシテノ前提ヲ異ニスル意味ニ於テ形式的ニ区別セラルルニスギズ）ガ如ク解セラレザルニアラズト雖斯カル解釈ガ皇国刑法トシテ許スベカラザルコトハ既ニ屡縷述シタルガ如クナルヲ以テ、吾人ハ皇国刑法ガ皇国独自ノ道義ヲ基礎トナスベキ自明ノ大道ヨリ見テ、所謂「之ヲ罰セズ」ヲ「第一義的犯罪ガ成立セザルガ故ニ之ニ対シテハ刑罰ヲ科セズ」ノ意ニ解シ、所謂「第一義的犯罪並ニ第二義的犯罪共ニ成立セズ」ノ意ニ解セムトス
詳言スレバ第九条、第十四乃至十六条ニ二所謂「之ヲ罰セズ」ハ第一義的（狭義）ノ犯罪ニツキテハ「不成立」ヲ意味シ（従ツテ刑罰ヲ科セザルハ当然ナリ）、第二義的（広義ノ）犯罪ニツキテハ「刑謂ヲ科セズ」ヲ意味シ、第十七乃至二十条ニ所謂「罪トナラズ」ハ両義ノ犯罪ニ通ジテ「不成立」ヲ意味スルモノト解スベシ（上述「刑法」ニ関スル註参照）
抑叙上ノ如キ複雑ナル結果ヲ生ジタルハソノ原因ノ一半ヲ本章ガ「犯罪」ナル新題ヲ掲ゲナガラモ、ソノ実「犯罪ノ不成立及ビ刑ノ減免」ナル自由主義刑法的規定ヲ設ケタルニ帰スルコトヲ得ルト同時ニ、他ノ一半ハ本法ガ単純ナル「社会防衛法」タラムトスルノ底意ヲ消極的規定形式ヲ執リナガラモ題名ヲ積極化スルコトニ依リテ遂ゲムトシタル不鮮明ナル態度ニ求ムルコトヲ得ルガ如シ。若シ本法ノ真意ガ其処ニ存スルトスレバ、須ク本章ノ題名下ニ犯罪ノ純社会事象的意義ト刑罰ノ純防衛政策ナル所以ヲ明ニスルト同時ニ刑罰ト保安処分トノ一般的関係ヲモ明ニスルノ堂々タル態度ニ出ヅベク消極的且不鮮明ナル規定ニ積極的題名ノミヲ附シ、之ヲ「保安処分」ナル他章ト関連セシメテハジメテ本法ガ実ハ純粋ナル社会防衛法ナルコトヲ悟ラシムルガ如キハ少クトモ自信アル態度ト称スベカラズ、吾人トシテハ本章ノ題名下ニアリテハ上来述ブルガ如キ犯罪並ニ刑罰ノ道義的意義トソノ政策的保安処分等ニ対スル関係トガ積極的ニ明示セラレムコトヲ願望シテ止マザル次第ナリ
第九条 罪ヲ犯ス意ナキ行為ハ之ヲ罰セス但シ法令ニ特別ノ規定アル場合ハ此ノ限ニ在ラス〔註〕 本条ハ元来第一義的犯罪ニ於ケル「意思責任」ニ関スル規定ナリ
（一）責任トハ構成要件ニ於ケル違法ヲ主観化シタルモノニシテ第一義的犯罪ノ実体ハ寧ロ責任ニ在リト謂フモ過言ニアラズ。責任ノ本質ニツキテハ、客観主義ニ於ケル道義的責任論ニアリテハ道徳的ニ（一般的ニ意思ノ自由ヲ認ム）、主観主義ニ於ケル社会的責任論ニアリテハ社会的ニ（一般的ニ意思ノ自由ヲ認メズ、即チ決定論ヲ執ル）、折衷的立場合ニ於ケル規範的責任論ニアリテハ規範的ニ（具体的場合ニツキ意思ノ自由ノ有無ヲ検討ス）之ヲ観察シタリト雖、此等ハ執レモ責任ヲ個人主義的ニ解スルモノナレバ皇国ノ国体ニ適セズ
日本ニ於テハ本来一君万民ノ国体ノマニマニ民ハ君ニ尽シ君ハ民ヲ慈ミ、君民一体トナリテ皇国ノ道ヲ行スルモノナレバ日本臣民タルモノハ常ニ皇運ヲ挟翼シ奉ルベキ全体的責務ヲ有ス。故ニ斯カル全体的意思ガ具体的ニ自由ナル際ニ行為者ニ刑事責任ヲ生ズルモノニシテ、此ノ点ヨリ謂ハバ責任ノ本質ハ皇国民タルノ責務ヲ尽サザルノ心組ニ在リト謂フベシ（皇民的責任論）斯クノ如クニシテ責任ノ本質ハ元来意欲的ノモノナリト雖、具体的場合ニ於テ行為者ト行為トヲ結合スル「意思責任」ハ之ヲ独立シテ考フルトキハ必ズシモ意欲的ナルコトヲ要セズ
意思責任ノ本質乃至犯意ト過失トノ区別ニ関シテ意志主義ト認識主義トアリト雖、本法ハ意思責任ノ叙上ノ如キ役割ヨリ見テ認識主義ヲ採用セルモノト解スベシ（第十条参照）
（二）本条ニ所謂「罪ヲ犯ス意」即チ犯意トハ、罪トナルベキ事実ヲ知リナガラ敢テソノ挙ニ出デムトスル心境ヲ指称スルモノト解スルヲ相当トス。此ノ点ニ犯意ニ於ケル所謂「認容」ヲ存ス。本条本文ノ意ハ斯カル心境ニ基カザル行為ハ第一義的犯罪タリ得ズ、又第二義的犯罪ニツキテハソノ成立アルモ之ニ刑罰ヲ科シ得ズトノ義ナリ。所謂行為ハ元来犯罪ノ地盤タルベキモノニシテ意思ニ基ク身体ノ動静ヲ謂フ
（三）【過失犯に関する＝省略】
（注釈つづく）
