（資料）責任に関する条文・審議（その6・現行刑法〜第二次大戦-6-）
前回（6/18）のつづきです。初回は6/7。
改正刑法仮案の注釈のつづき。
第十五章 保安処分
〔註〕 「保安処分」トハ社会的秩序ノ破壊ニ対スル危険ヲ防止スルヲ目的トスル手段ヲ謂フ。刑罰ヲ以テ単ニ犯罪ヲ予防スル為ノミノ手段ナリトシ、又保安処分ハ犯罪事実ヲ原因トシテノミ行フベキモノトスレバ、刑罰卜保安処分トノ間ニ性質上ノ差違ヲ認ムルコトヲ得ザルベシト雖、日本刑法ニ於テハ刑罰ハ日本的道義ニ基ク応報ト贖罪トヲ以テ其ノ本質ト為スベキモノナルノミナラズ、保安処分ハ本来犯罪事実ノ発生無クトモ其ノ危険アレバ即チ之ヲ行フベキ性質ノモノ（保護処分（少年法第四条）及ビ予防処分(本案第百三十九条））ナレバ、両者ノ間ニ本質上ノ差違ヲ認ムベキモノナルコトハ既ニ屡述ベタルガ如シ（之ニ関連シテ改正仮案ノ認ムル犯罪ニ広狭二義アルコト等ニ付前叙「犯罪」並ニ「刑」ニ関スル註ヲ参照スベシ）。尤モ本案ガ犯罪物件ノ没収並ニ少年保護処分等ヲ保安処分ヨリ区別シ、又犯罪ヲ原因トセザル保安処分ヲ認メザル（第百二十六条註参照。尤モ此ノ事ハ予防処分（第百三十九条）ニ付テハ半当ラズ）ノミナラズ、刑ノ執行ト保安処分ノ執行トノ代位ヲ認ムル（第百二十七条第二項但書後段、第百三十二条、第百三十五条、第百三十八条）等ノ諸点ヨリ立論シテ保安処分ト刑トノ本質上ノ区別ヲ否定セムトスル説ナキニアラズト雖、此ノ説ノ根拠トスルトコロハ概ネ法規ノ形式的方面ニ属シ、之ガ変改モ亦形式上容易ニ之ヲ行ヒ得ルノミナラズ、斯カル諸規定アリト雖、叙上ノ如ク刑ト保安処分トヲ本質上区別スルニ付何等形式的ノ妨トナルベキモノニアラザレバ、日本刑法トシテハ其ノ根本原理タル国体観念並ニ皇運挟翼ノ臣道ニ顧ミテ、刑罰ノ日本道義的本質ヲ発揮セシムルニ努ムベキモノナルノミナラズ、寧ロ此ノ精神ヲ保安処分ニマデ拡充シテ其ノ日本的実践ヲ挙ゲシメ、以テ教学一如ノ範ヲ示スベキモノトス。斯クシテ本案ハ、罪ヲ犯シタルモ刑罰ヲ科スベカラザル者（例ヘバ本案第十四条ニ所謂能力減弱シタル者又ハ同第十五条ニ依リ刑ヲ減軽セラルルいんあ者)及ビ保護処分ヲ為スベカラザル者ニ対シ保安処分ヲ施スコトトシ、之ニ監護処分、矯正処分、労作処分及ビ予防処分ノ四種ヲ認メタリ。蓋シ改正綱領二十一ノ趣旨ニ従フナリ百二十六条 保安処分ハ左ノ四種トシ裁判所之ヲ言渡ス
一 監護処分
二 矯正処分
三 労作処分
四 予防処分〔註〕 本案ハ保安処分ノ種類ヲ定ム。本案ノ認ムル保安処分ハ孰レモ犯罪ヲ原因トスルモノ（尤モ予防処分（本案第百三十九条）ニ付テハ此ノ事ハ半当ラズ）ニシテ刑事処分ト密接ノ関係ヲ有スルヲ以テ、本条ハ之ヲ裁判所ニ於テ言渡スベキ旨規定セリ
第百二十七条 禁錮以上ノ刑ニ該ル罪ヲ犯シタル者心神障碍者又ハいんあ者ナル場合ニ於テ公安上必要アリト認ムルトキハ監護処分ニ付スル旨ノ言渡ヲ為スコトヲ得
前項ノ監護処分ハ刑ノ言渡ヲ受ケタル者ニ対シテハ其ノ刑ノ執行終了後引続キ之ヲ執行ス但シ事情ニ因リ刑ノ執行ニ先チ又ハ其ノ執行ヲ停止シテ監護処分ノ執行ヲ為スコトヲ得〔註〕 本條第一項ハ禁錮以上ノ刑ニ該ル罪ヲ犯シタル者ニ対シ裁判所ガ監護処分ヲ言渡スコトヲ得ル為ノ条件（公安上必要アリト認ムルトキ）ヲ規定ス。心神障碍者及ビいんあ者ニツキテハ本案第十四条及ビ第十五条ノ註ヲ参照スベシ
同第二項本文ハ刑ノ言渡ヲ受ケタル者（本案第十四条ニ所謂能力減弱シタル者及ビ同第十五条ニ依リ刑ヲ減軽セラレタルいんあ者）ニ対スル監護処分ヲ執行スベキ時期ヲ定メ、同但書ハ其ノ例外ノ場合ヲ定ム。右例外ノ場合ノ一トシテ「刑ノ執行ヲ停止シテ監護処分ノ執行ヲ為シ得ルコト」ヲ認メタルハ、其ノ意畢竟監護処分ノ執行ヲシテ刑ノ執行ニ代位セシムルニ外ナラズ第百二十八条 監護処分ニ付セラレタル者ハ監護所ニ収容シ治療其ノ他監護ノ為必要ナル処置ヲ為スヘシ
〔註〕本条ハ監護処分ノ実質的内容ヲ規定セリ
第百二十九条 監護処分ニ付セラレタル者収容後其ノ必要ナキニ至リタルトキハ行政官庁ノ処分ヲ以テ退所セシムヘシ
〔註〕本条ハ監護処分ニ付セラレタル者ヲ行政官庁ノ処分ヲ以テ退所セシムルニ付テノ条件（収容後其ノ必要ナキニ至リタルトキ）ヲ規定セリ
第百三十条 監護処分ノ期間ハ五年トス特ニ必要アルトキハ裁判所ハ之ヲ更新スルコトヲ得
〔註〕本条ハ監護処分ノ期間並ニ裁判所ガ特別ノ必要ニ依リ之ヲ更新シ得ル旨ヲ規定セリ
第百三十一条 刑ノ言渡ト共ニ監護処分ニ付セラレタル者ニ対シ仮釈放ノ処分ヲ為シタルトキハ其ノ仮釈放中監護処分ハ之ヲ執行セス
〔註〕本條ハ刑ノ言渡ト共ニ監護処分ニ付セラレタル者（本案第百二十七条第二項註参照）ニ対シ仮釈放ノ処分ヲ為シタル場合ニハ、其ノ仮釈放中監護処分ヲ執行セザル旨ヲ規定ス。蓋シ仮釈放制度ノ趣旨ニ従フナリ
第百三十二条 刑ノ執行ニ依リ監護処分ノ執行必要ナキニ至リタルトキハ裁判所ハ監護処分ノ執行ヲ免除スルコトヲ得
監護処分ノ執行ニ依リ刑ノ執行必要ナキニ至リタルトキハ裁判所ハ刑ノ執行ヲ免除スルコトヲ得〔註〕本条第一項ハ刑ノ執行ニ依リ監護処分ノ執行ヲ必要トセザルニ至レル場合ニハ裁判所ハ監護処分ノ執行ヲ免除スルコトヲ得ル旨規定ス
同第二項ハ監護処分ノ執行ニ依リ刑ノ執行ヲ必要トセザルニ至レル場合ニハ裁判所ハ刑ノ執行ヲ免除スルコトヲ得ル旨規定ス
本条ノ趣旨ハ畢竟刑ノ執行ト監護処分ノ執行トノ相互的代位ヲ認ムルニ外ナラズ第百三十三条 飲酒又ハ麻酔剤使用ノ習癖アル者ニ対シ酪酊又ハ麻酔ノ状態ニ於テ罪ヲ犯シ其ノ習癖ヲ矯正スル必要アリト認ムルトキハ矯正処分ニ付スル旨ノ言渡ヲ為スコトヲ得
矯正処分ノ期間ハ二年トス
第百二十七条第二項ノ規定ハ刑ノ言渡ヲ受ケタル者二対スル矯正処分ニ之ヲ準用ス〔註〕本条第一項ハ飲酒又ハ麻酔剤使用ノ習癖アリテ酪酊又ハ麻酔ノ状態ニ於テ罪ヲ犯シタル者ニ対シ、裁判所ガ監護処分ヲ言渡スコトヲ得ル為ノ条件（其ノ習癖ヲ矯正スル必要アリト留認ムルトキ）ヲ規定ス同第二項ハ矯正処分ノ期間ヲ規定ス
同第三項ハ刑ノ言渡ヲ受ケタル者ニ対スル矯正処分ヲ執行スベキ時期ニ関シ第百二十七条第二項ノ規定ヲ準用スベキ旨ヲ規定ス。蓋シ矯正処分ニ付セラルル者ガ通常ノ又ハ減軽セラレタル（例ヘバ第十四条ニ所謂能カ減弱シタル者トシテ）刑ノ言渡ヲ受クル場合ニ於テ、刑ノ執行ト矯正処分ノ執行トノ相互関係ヲ特ニ斟酌スルナリ。詳細ハ第百二十七条第二項ノ註ヲ参照スベシ第百三十四条 矯正処分ニ付セラレタル者ハ矯正所ニ収容シ矯正ノ目的ヲ達スル為必要ナル処置ヲ為スヘシ
〔註〕本条ハ矯正処分ノ実質的内容ヲ規定セリ
第百三十五条 第百二十九条、第百三十一条及第百三十二条ノ規定ハ矯正処分ニ之ヲ準用ス
〔註〕本条矯正処分ニ付セラレタル者ニ対スル退所処分、仮釈放処分並ニ刑ノ執行ト矯正処分ノ執行トノ相互的代位ニ関シ、第百二十九条、第百三十一条並ニ第百三十二条ノ規定ヲ準用スベキ旨ヲ規定ス。詳細ハ当該法条ノ各註ヲ参照スベシ
第百三十六条 浮浪又ハ労働嫌忌ニ因リ常習トシテ罪ヲ犯シタル者ニ対シ刑ノ言渡ヲ為ス場合ニ於テハ其ノ裁判ト共ニ労作処分ニ付スル旨ノ言渡ヲ為スコトヲ得
労作処分ノ期間ハ三年トス〔註〕本条第一項ハ浮浪又ハ労働嫌忌ニ因リ常習トシテ罪ヲ犯シタル者ニ対シ刑ヲ言渡ス場合ニ於テ、裁判所ガ其ノ裁判ト共ニ労作処分ヲ言渡スコトヲ得ル旨ヲ規定ス。蓋シ改正綱領二十一ニ則ルノ外、同十七ノ趣旨ヲ拡充シタルモノナルベシ
同第二項ハ労作処分ノ期間ヲ規定ス第百三十七条 労作処分ニ付セラレタル者ハ労作所ニ収容シ勤勉ニシテ紀律アル習慣ヲ馴致スル為必要ナル作業ニ就カシムヘシ
労作所ノ長ハ労作処分ニ付セラレタル者ヲシテ労作所外ニ滞在シ官設、公設又ハ私設ノ工場、農場其ノ他ノ作業場ニ於テ就業セシムルコトヲ得〔註〕本条第一項ハ労作処分ノ実質的内容ヲ規定セリ
同第二項ハ労作所ノ長ガ労作処分ニ付セラレタル者ヲシテ労作所外ニ滞在シ、一定ノ作業場ニ於テ就業セシムルコトヲ得ル旨ヲ規定ス第百三十八条 第百二十九条、第百三十一条及第百三十二条ノ規定ハ労作処分ニ之ヲ準用ス
〔註〕本条ハ労作処分ニ付セラレタル者二対スル退所処分、仮釈放処分並ニ刑ノ執行ト労作処分ノ執行トノ相互的代位ニ関シ、第百二十九条、第百三十一条並ニ第百三十二条ノ規定ヲ準用スベキ旨ヲ規定ス。詳細ハ当該法条ノ各註ヲ参照スベシ
（注釈つづく）
