（資料）責任に関する条文・審議（その11・現行刑法〜第二次大戦-10-）

前回（7/5）のつづきです。初回は6/7。
治安維持法改正に関する国会議事録です。

治安維持法改正法律案
第六十五回帝国議会両院本会議及委員会議事速記録要綱（内務省警保局）
　
第五章予防拘禁
第一節　立法ノ趣旨
○小山司法大臣（衆委二3.1）
「思想犯人ハ申上グル迄モナク矯激ナル主義ヲ信奉シテ居ルノデアリマスガ、其主義ハ同時ニ手段ト組織トヲ伴ヒマシテ、是等ノモノガ結合化サレテ居ルノデアリマスカラ其主義ヲ抛棄セサル限リ、更ニ同質ノ罪ヲ犯スノ虞ガアルモノト言ハネバナリマセヌ、随テ之ヲ治安維持法実施以来ノ行刑ノ実績ニ徴シテ見マシテモ、同法違反ノ犯罪者ニシテ往々其抱懐セル矯激ナル思想ヲ抛棄致シマセズシテ刑ノ執行ヲ受ケ終リ其儘釈放セラレマシタ者ガ釈放後直チニ再ビ罪ヲ犯シテ起訴セラレマシタ事例ガアリマス、現在受刑中ノ者ニ付テ調査シテ見マシテモ、改悛ヲ期待スルコトヲ得ナイ者ガアルノデアリマス、斯ノ如ク思想犯人ノ特殊性ヲ考慮ニ置イテ考ヘテ見マスルト、思想犯人ニ対シマシテハ刑罰制度ノ外ニ之ヲ補足スル制度トシテ、保安処分ヲ認ムルコトガ極メテ必要デアリマシテ、現在ノ如ク何等改悛ノ情ナキ者ヲ刑期満了ト同時ニ其儘釈放セシメマスコトハ治安維持ノ為メ甚ダ危険デアルバカリデナク本人ニ於キマシテモ却テ改悛ノ機会ヲ失フコトニナリマスルカラ思想犯人ノ矯正ト犯罪ノ予防ノ目的ヲ以テ保安処分トシテ新ニ予防拘禁制度ヲ設クルコトヲ必要ト致シマス」
第二節　予防拘禁ノ客体
○木村刑事局長（衆委七1.4)
「絶対ニ転向シナイト云フ部類ニ入ツテ居ル者ノミガ此予防拘禁ノ目標トナツテ居ルノデアリマセヌ、ドウ云フ風ノ観察デサウ云フ結論ニ達シタカト申シマスルト先ヅ第一ニ其人ノ共産主義ヲ信ズル信念ガ殆ンド宗教的ニナツテ、如何ナル理論ヲ以テモ、其自己ノ信念ヲ変更シナイト云フコトヲ主張致シマスルシ、而モ其主張ト云フモノガ其人ノ従来行ツタ共産主義運動ニ於ケル経歴ヨリ見テ尤デアルト監獄官吏ガ確信致シマシタ場合ニ、其闘争ノ経歴、共産主義ニ対スル本人ノ信念ノ表白、サウシテ自ラ将来モ出タ後ニ死ヌマデ此事ヲヤルト云フヤウナ表明ヲ綜合致シマシテ、到底監獄ヲ出ルマデニ改心シナイデアラウト云フヤウナ人間ヲ非転向者、即チ予防拘禁ノ目的トナル非転向者ト見テ居ルノデアリマス」
○小山司法大臣（貴委四30.3）
「一昨年ノ十一月末日頃ノ現在デ受刑者中ノ五百二名ノ者ニ付キマシテ調査イタシマスルト、改悛シタコトヲ期待スルコトヲ得ザル者ガ百二十七名ホド刑務所ニ居ル者ニアルノデアリマス、丁度ソレハ二割七分ホドデゴザイマス、斯ウ云フ者ヲ刑期満了ニナリマシタカラト云ツテ片ツ端カラ出シテ行キマシテハ、又共産主義ノ細胞ヲ各方面ニ作ラセル虞ガアリマス、ソコデ予防拘禁ト云フコトヲ設ケタノデアリマス、ソレハ英吉利ノ犯罪予防法、主トシテ常習犯罪者ニ対スル拘禁ヲスル方法ニ倣ツタノデアリマス」
第三節　予防拘禁ノ性質
小山司法大臣（貴委五17.3)
「性質ヲ申シマスト是ハ保安処分ニ属スルノデアリマス、只今刑法改正ノ予備草案デ保安処分ト云フモノヲ認メテ居リマスガ、其保安処分トシテ刑法草案デ認メテ居リマスハ四ツアリマシテ、第四ガ予防処分、是ハ此第四ノ中ニ入ル予防拘禁デアリマス、性質カラ申シマスト是ハ保安処分ニ属スルノデアリマス、而シテ裁判ノ方カラ申シマスレバ特殊ノ裁判デアリマス、特殊ノ裁判ト申上ゲマシタノハ、是ハ普通ノ刑ノ言渡トハ違フノデアリマシテ、言渡後ノ保安処分ヲ為スガ為ニ、特別ノ手続ニ依ツテ為ス所ノ決定デアリマスカラ、ソレデ特殊ノ裁判ト申上ゲタノデアリマス」
第四節　「予防拘禁」削除論
○貴族院希望決議
「予防拘禁制度ノ精神ニ関シテハ深ク賛成スル所ナルモ本案ノ規定ハ幾多審議スヘキモノアリト認ムルヲ以テ政府ハ速カニ適切ナル立案ヲ為シ更メテ提案セラレムコトヲ望ム」
○鵜沢総明氏(貴委六1.4)
「此制度ガ如何ニモ新ナル試ミデアリ、又他ノ関係ニ於キマシテ、即チ憲法ノ条章ナリ裁判ノ信用ナリ政治及道義上等ノ本義ニ照シマシテ、斯ノ如キ制度ヲ樹ツル場合ニハ、各般ノ影響ヲ十分ニ調査イタシマシテ万違算ナキコトヲ期スルコトガ必要デアラウ」
○松谷与二郎氏提出修正案
「治安維持法改正法律案中左ノ通修正ス
「第五章予防拘禁」ヲ削ル」

イギリスにおける予防拘禁、あるいは改正刑法草案（ここでは仮案総則）における予防処分を参照していることが明言されています。