（資料）責任に関する条文・審議（その13・現行刑法〜第二次大戦-12-）
前回（7/8）のつづきです。初回は6/7。
朝鮮思想犯予防拘禁令に関する勅令です。
朝鮮総督府予防拘禁所官制（昭和16年勅令第166号）
昭和16年3月4日公布/昭和16年3月10日施行
第一条 朝鮮総督府予防拘禁所ハ朝鮮総督ノ管理ニ属ス
第二条 予防拘禁所ニ左ノ職員ヲ置ク
所長
教導官 専任三人 奏任
教導官補 専任八人 判任
書記・通訳生 専任六人 判任
第三条 所長ハ教導官ヲ以テ之ニ充ツ朝鮮総督ノ指揮監督ヲ承ケ予防拘禁所ノ事務ヲ掌理シ部下ノ職員ヲ指揮監督ス
所長事故アルトキハ上席ノ教導官其ノ職務ヲ代理ス
第四条 教導官ハ所長タル者ヲ除クノ外所長ノ命ヲ承ケ予防拘禁所ノ事務ヲ掌ル
第五条 教導官補ハ上官ノ指揮ヲ承ケ予防拘禁所ノ事務ニ従事ス
第六条 書記ハ上官ノ指揮ヲ承ケ庶務ニ従事ス
第七条 通訳生ハ上官ノ指揮ヲ承ケ翻訳及通訳ニ従事ス
第八条 第二条ニ掲グル職員ノ外予防拘禁所ニ教導ヲ置ク判任官ノ待遇トス
教導ノ定員、職務及懲戒ニ関スル規程ハ朝鮮総督之ヲ定ム
第九条 予防拘禁所ノ名称及位置ハ朝鮮総督之ヲ定ム
附則
本令ハ昭和十六年三月十日ヨリ之ヲ施行ス
朝鮮総督府予防拘禁委員会官制（昭和16年勅令第167号）
昭和16年3月4日公布/昭和16年3月10日施行
第一条 朝鮮総督府予防拘禁委員会ハ朝鮮総督ノ監督ニ属シ朝鮮思想犯予防拘禁令第二条、第十七条、第二十条及第二十一条ノ規定ニ依リ其ノ権限ニ属セシメタル事項ヲ審議ス
第二条 各委員会ハ会長一人及委員六人ヲ以テ之ヲ組織ス
各委員会ニ予備委員四人ヲ置ク
第三条 会長、委員及予備委員ハ朝鮮総督府司法部内高等官及学識経験アル者ノ中ヨリ朝鮮総督之ヲ命ズ
第四条 会長、委員及予備委員ノ任期ハ三年トス
第五条 会長ハ会務ヲ総理ス
会長事故アルトキハ其ノ指名スル委員其ノ職務ヲ代理ス
第六条 委員中事故アルトキ又ハ欠員アルトキハ会長ハ予備委員ノ中ヨリ代理ヲ命ズ
第七条 委員会ハ会長及委員ヲ併セ五人以上出席スルニ非ザレバ会議ヲ開クコトヲ得ズ
委員会ノ議事ハ過半数ニ依リ之ヲ決ス可否同数ナルトキハ会長之ヲ決ス
第八条 委員ハ其ノ職務ヲ執行スル為必要アルトキハ監獄ノ長又ハ予防拘禁所長ノ同意ヲ得テ官吏ノ立会ナクシテ在監者又ハ収容者ト面談ヲ為スコトヲ得
第九条 各委員会ニ書記ヲ置ク朝鮮総督之ヲ命ズ
書記ハ会長ノ指揮ヲ承ケ庶務ニ従事ス
第十条 本令ニ規定スルモノノ外委員会ニ関シ必要ナル事項ハ朝鮮総督之ヲ定ム
附則
本令ハ昭和十六年三月十日ヨリ之ヲ施行ス
朝鮮思想犯予防拘禁令ノ実施ニ関スル件（昭和16年3月10日法刑乙第2ノ48号法務局長通牒）
昭和十六年二月十二日公布セラレタル朝鮮思想犯予防拘禁令ハ本日ヨリ施行セラルルコトト為リタル処本令ハ左記制定理由記載ノ如ク現下国際情勢ノ緊迫化ニ伴ヒ動モスレバ悪化ノ傾向看取セラルル半島思想情勢ニ対処シ治安維持法、朝鮮思想犯保護観察令ノ運用ト相俟チ半島ニ於ケル反国家的思想ノ殲滅ヲ期シ以テ銃後治安ノ確保ヲ図ラントスルモノニシテ本令ノ目的達成ハ当面セル帝国ノ大陸国策完遂上不可欠ノ要件ト謂フヘシ、然レドモ他面其ノ人権ニ及ホス影響亦洵ニ甚大ナルモノアルヲ以テ之カ運用ニ際リテハ本令並ニ関係法令ノ講究研鑽ヲ累ヌルハ勿論左記事項ニ留意シ其ノ適切妥当ヲ期セラレ度尚本令ニ依ル事件ハ左記ニ依リ取扱フコトト致度ニ付御了知相成度シ
記
第一、本令制定ノ理由
思想犯人ハ矯激ナル主義ヲ信奉シ而モ其ノ主義タルヤ社会的実践活動ヲ目標トシ同時ニ手段ト組織トヲ伴ヒ之等ノモノカ結合セラルルモノナルヲ以テ其ノ主義ヲ抛棄セサル限リ更ニ同質ノ罪ヲ犯スノ虞アルモノト謂ハサルヘカラス殊ニ半島ニ於ケル思想犯人ハ其ノ意識程度低キ者ト雖モ極メテ実行力ニ富ミ著シキ凶暴性ヲ有シ且其ノ殆ト全部カ偏狭固陋ナル民族主義意識ヲ抱懐スルヲ以テ内地ニ於ケル思想犯人ニ比シ思想ノ転向極メテ困難ナルモノアリ而モ其ノ抱懐スル矯激ナル思想ヲ抛棄セサル所謂非転向者ヲ刑期満了ト同時ニ其ノ儘釈放シ或ハ保護観察制度ニ依ルモ思想善導ノ効果ヲ期待シ得ザル頑強不逞ノ非転向前科者ヲ現下ノ社会ニ放任シ置クトキハ彼等ヲシテ再ヒ思想運動ニ走ラシメ不遅ノ分子ト結ンテ共産主義其ノ他ノ反国家的思想ヲ流布セシムルノ結果ヲ招来スルハ洵ニ明カニシテ銃後治安ノ確保上甚タ危険ナルノミナラス彼等ニ於テモ亦改悛ノ好機ヲ失フモノト謂ハサルヘカラス殊ニ我カ半島ハ地理上大陸及蘇連ト接壌シ共産主義思想侵入ノ防遏上並ニ国防上特ニ重要ナル地位ニ在リ且我カ帝国ノ大陸前進兵站基地タル特殊ノ使命ヲ加重セラレツツアル情勢ニ鑑ミ内鮮一体ノ深化徹底ヲ図リ半島人ヲシテ悉ク日本精神ヲ体得昂揚セシメ半島ニ於ケル思想ノ純化統一ヲ期スルハ実ニ刻下喫緊ノ急務ナリ然ルニ現下半島ノ思想情勢ヲ観ルニ日支事変勃発以来銃後ノ愛国運助澎湃トシテ全半島ニ張リ一般ニハ民衆ノ思想著シク好転シツツアリト雖モ共産主義其ノ他ノ反国家的思想ヲ抱懐スル不逞徒輩ノ策動ハ依然トシテ其ノ跡ヲ絶タサルノミナラス事変ノ長期化ト国際情勢ノ緊迫ニ伴ヒ漸次悪化ノ傾向ヲ看取シ得ラレ今後ノ推移ハ瞬時モちゅうあん【偸安】ヲ許ササルモノアリ、且行刑当局並ニ保保護観察所必死ノ努カニモ拘ラス思想犯受刑者及前科者ニシテ今仍其ノ思想ヲ清算セサル者相当多数ニ上リ憂慮スヘキ実情ニ在リ今ニシテ斯種不逞凶悪ナル分子ノ根滅ヲ図ルニ非サレハ半島ノ特殊地位ニ基ク重大任務ヲ完遂シ高度国防国家体制ノ迅速ナル確立ヲ期スルニ付尠カラサル支障ヲ来ス虞アリ叙上ノ情勢ニ鑑ミ思想犯罪ノ鎮圧ト予防ノ実効トヲ確保センカ為未タ詭激思想ヲ抛棄セス再犯ノ虞顕著ナル非転向者ヲ社会ヨリ隔離シ彼等ヲシテ蠢動ノ余地ナカラシメ銃後治安ノ完璧ヲ期スルト共ニ是等非転向者ヲ教化善導シテ其ノ思想ノ改善矯正ヲ図リ忠良ナル皇国臣民トシテ社会ニ復帰セシムルコトヲ目的トシテ本令ヲ制定シタル次第ナリ
第二、本令実施ニ当リ留意スベキ事項【別紙は省略】
本令ハ叙上ノ理由ニ因リ制定セラレタルモノナルモ本命ノ実施ニ因リ人権ニ影響スル所極メテ甚大ナルモノアルヲ以テ之カ運用ニ際リテハ特ニ人権ノ尊重ニ意ヲ用ヒいやしく【苟】モ保護観察ニ依リ其ノ思想ノ転向ヲ期待シ得ラルル者又ハ治安維持法ノ再犯ヲ防止シ得ル見込アル者等ニ対シ濫ニ予防拘禁ノ請求ヲ為シ或ハ予防拘禁ニ付スル決定ヲ為スカ如キコトナキ様慎重ナル考慮ヲ払ヒ以テ之カ実施ニ際シ惹起セラルルコトアルヘキ一般社会人心ノ不安動揺ヲ防止スルニ努ムルト共ニいやしく【苟】モ再犯ノ虞顕著ナル非転向者ニ対シテハ予防拘禁制度創設ノ趣旨ニ鑑ミ万其ノ処置ヲ誤ラサル様留意セラレ度シ面シテ此ノ際刑務所長又ハ保護観察所長ニ於テ本令施行規則第一条ノ規定ニ依ル通知ヲナスニ際リテハ思想犯受刑者及保護観察対象者ノ思想動向ヲ更ニ改メテ仔細ニ査察スヘク猶保護観察所長ニ在リテハ保護観察ニ依ルモ到底其ノ改悛ヲ期待シ得スシテ再犯ノ虞顕著ナリト認メラルル者ニ付之カ通知ヲ為スコトトシ本命ノ実施ニ因リ徒ニ受刑者又ハ対象者ヲシテ不安恐怖ノ念ヲ抱カシメ或ハ自暴自棄ニ陥ラシメサル様格段ノ留意相成度シ
第三、本令ニ依ル事件取扱ニ関スル事項
一、予防拘禁事件ヲ担任スル裁判長及検事ハ成ルヘク思想事件ヲ担任スル判事及検事中ヨリ之ヲ指定スルコト
二、朝鮮思想犯予防拘禁令施行規則（以下規則ト称ス）第一条ノ通知ハ左記ニ依ルコト
（1）規則第一条第一項ノ刑務所長ノ検事ニ対スル通知ハ本人ノ釈放前少クトモ一月前ニ之ヲ為シ若シ一月前ニ通知スル暇ナキトキハ同項ニ定ムル事由ノ生シタル後直ニ之ヲ為スコト
（2）規則第一条第二項ノ保護観察所長ノ検事ニ対スル通知ハ検事及裁判所ノ取調ノ便宜ヲ考慮シ成ルヘク本人ノ現在地ヲ管轄スル地方法院ノ検事ニ之ヲ為スコト
（3）規則第一条ノ通知ハ刑務所長ニ在リテハ別紙様式第一号、保護観察所長ニ在リテハ別紙様式第二号ニ依ルコト
三、規則第十二条第一項ノ予防拘禁所長ノ検事ニ対スル通知ハ予防拘禁ノ期間満了前一月前ニ別紙様式第三号ニ依リ之ヲ為スコト
四、規則第七条ノ検事ノ刑務所長又ハ保護観察所長ニ対スル通知及規則第十二条第三項ノ規定ニ依リ準用セラルル規則第七条ノ規定ニ依ル検事ノ予防拘禁所長ニ対スル通知ハ別紙様式第四号ニ依リ之ヲ為スコト
五、規則第八条ノ出頭命令書ノ送達ハ刑事訴訟法ノ規定ニ依ル送達ノ方法ニ依ルコト
六、規則第二十一条ノ予防拘禁所長ノ朝鮮総督ニ対スル稟議ハ別紙様式第五号ノ一、二ニ依リ之ヲ為スベク又規則第二十二条ノ規定ニ依リ準用セラルル規則第二十一条ノ規定ニ依ル検事ノ朝鮮総督ニ対スル訴訟ハ別紙様式第六号ノ一、二ニ依リ之ヲ為スコト
七、予防拘禁所長本令第二十条ノ規定ニ依リ予防拘禁ニ付セラレタル者ヲ予防拘禁ノ期間満了前退所セシメタルトキ及検事同令第二十一条ノ規定ニ依リ予防拘禁ノ執行ヲ免除シタルトキハ別紙様式第七号ニ依リ其ノ旨ヲ朝鮮総督ニ報告スルコト
八、予防拘禁事件ニ関スル文書及帳簿用紙ノ様式ハ本日附官通牒裁判所及検事局ニ於テ使用スル文書及帳簿用紙ノ様式中改正ニ関スル件ヲ以テ一定シタル処同通牒ニ定メザル其ノ余ノ文書及帳簿用紙ノ様式ハ総テ従前ノ朝鮮総督府裁判所及同検事局文書及帳簿様式中ノ各該当部分ニ準ジ之ヲ作成使用スルコト（例へバ検事ノ本人、参考人ニ対スル呼出状ハ様式第一一七号、検事ノ本人参考人ニ対スル聴取書ハ様式第一二一号、勾引状ハ様式第一五五号、逮捕状ハ様式第二〇一号ニ依ルガ如シ）
九、予防拘禁抗告事件ニ関スル記録ノ送付及返還ハ総テ検事局ヲ経由シテ之ヲ為スコト
一〇、保護観察所長ハ保護観察中ノ者予防拘禁ニ付セラレタルトキハ保護観察処分ノ取消ヲ為シ右該当者ヲ思想犯保護観察月表第四表取消、不良欄ニ掲記シ其ノ旨ヲ備考欄ニ附記スルコト
一一、保護観察所長満期釈放者ニ付刑務所長ヨリ朝鮮思想犯保護観察令施行規則第三条ノ通知ヲ受ケタル場合ハ本人ニ対シ検事予防拘禁ノ請求ヲ為サザル処分ヲ為シ又ハ予防拘禁ニ付セザル旨ノ決定確定後保護観察ニ関スル処分ヲ為シ尚予防拘禁ニ付スル旨ノ決定確定シタルトキハ審査不請求ノ処理ヲ為スコト
（注記）
様式第三号省略（保護教導所長ヨリ検事ニ対スル予防拘禁二関スル件通知）
様式第五号ノ（一）（二）省略（保護教導所長ヨリ総督ニ対スル収容者退所ノ件稟議）
