（資料）責任に関する条文・審議（その22・現行刑法〜第二次大戦-21-）

責任

前回（9/28）のつづきです。初回は6/7。改正治安維持法説明（案）です。

第五十二条
予防拘禁ノ決定ハ本来ノ意味ニ於ケル裁判ニアラズ。従ツテ決定及即時抗告ニ関スル刑事訴訟法ノ規定ハ之ニ対シ当然ニハ適用ナキヲ以テ、特ニ本条ヲ設ケタリ。
決定ニ関スル刑事訴訟法第四十八条第四項乃至第五十条、第五十二条及第五十三条ノ規定ハ本章ノ決定ニ付、即時抗告ニ関スル刑事訴訟法第四百五十九条、第四百六十条、第四百六十二条乃至第四百六十四条、第四百六十六条及第四百六十七条ノ規定ハ本章ノ即時抗告ニ付、夫々準用セラルベキモノトス。

第五十三条
本条ハ予防拘禁ニ付セラレタル者ノ処遇ニ関スル規定ナリ。
予防拘禁ノ目的トスルモノ二アリ。其ノ一ハ隔離ノ目的ニシテ本人ヲ社会ヨリ隔離シ其ノ抱懐スル悪思想ノ伝播ヲ防止スルニ在リ。其ノ二ハ保護ノ目的ニシテ、飽ク迄モ本人ノ思想ヲ矯正シ改悛ヲ促スニ在リ。
本条ニ於テ本人ヲ予防拘禁所ニ収容スベキモノト為シタルハ隔離ノ目的ヲ達セントスルモノニシテ、改悛セシムル為必要ナル処置ヲ為スベキ旨ヲ規定シタルハ本人ヲ保護シ悪思想ヲ矯正セントスル目的ヲ達セントスルモノナリ。予防拘禁所ニ於ケル本人処遇ニ関シテハ別ニ勅令（予防拘禁者処遇令）ヲ以テ其ノ詳細ヲ規定スベキモ、或ハ強制労働ヲ課シ又ハ転向ヲ促進スベキ書物又ハ講演其ノ他各種ノ方法ニ依リ改悛ヲ促サムト欲ス。

第五十四条
予防拘禁ノ本質ハ自由ノ剥奪ニ在リ。剥奪セラルベキ自由ハ住居ノ自由及接見、通信等他人ト連絡交渉スルノ自由ヲ以テ其ノ主タルモノト為ス。然レドモ斯カル自由、殊ニ後者ノ自由ノ如キハ、之ヲ絶対禁止スルトキハ却ツテ予防拘禁ノ目的ヲ達スルニ付支障ヲ生スベキ場合アルベキヲ虞レ、特ニ本条第一項ヲ設ケ、法令ヲ以テ制限セザル限度ニ於テ其ノ自由ヲ認ムベキモノト為シタリ。同項ノ規定ハ勾留セラレタル者ニ関スル刑事訴訟法第百十一条ノ規定ト其ノ趣ヲ等シクス。
予防拘禁ニ依ル法益ノ剥奪ハ素ヨリ其ノ性質上本人ノ所有権又ハ信書ノ秘密ヲ犯サレザル権利等ニ及ブモノニ非ズ。然レドモ予防拘禁ノ目的ヲ達スルニ付テハ、此ノ種法益ニ対シ制限ヲ加フル必要アルコト勿論ナルヲ以テ、本条第二項ハ必要ナル限度ニ於テ之ヲ制限シ得ベキ旨ヲ定メタリ。尚、予防拘禁所内ノ秩序ヲ保チ規律ヲ維持センガ為ニハ、本人逃走、暴行若ハ自殺ノ虞アル場合等ニ於テハ之ニ対シ適当ナル保護ヲ加フル為強制力ヲ施用スル必要アルベク、又紀律ニ違ヒタル場合ニ於テハ本人ニ対シ適当ナル懲戒ヲ加へ其ノ責任ヲ明カニスルト共ニ之ヲ警ムル必要アルベキヲ以テ同項ニ於テ戒護及懲戒ノ為必要ナル処置ヲ講ジ得ベキ旨ヲ規定シタリ。
本章ノ規定ニ依ル勾引状ニ基キ留置セラレタル者及仮収容セラレタル者ニ対シテハ、本法第五十条ノ規定ニ於テ刑事訴訟法第百十一条及第百十二条ノ規定ヲ夫々準用シタル結果、本条第一項ノ如キ規定ヲ侯タズシテ法令ノ範囲内ニ於テ接見等ノ自由ヲ有スルト共ニ裁判
所ハ適当ニ之ヲ制限、禁止シ得ベシト雖モ、予防拘禁所ノ長又ハ監獄ノ長モ亦此等ノ者ニ対シ適当ニ強制力ヲ用フル必要アルベキヲ以テ、本条第二項後段ニ於テ此等ノ者ニ対シ第二項前段ト同様ニ規定シタリ。
本条ノ規定ニ依ル接見其ノ他ノ制限又ハ戒護者ハ懲戒ノ為ニスル自由侵害ノ範囲ハ前条第二項ノ規定ニ基キ発スル勅令ヲ以テ其ノ詳細ヲ定ムルモノトス。

第五十五条
本条ハ予防拘禁ノ期間ヲ定ム。
惟フニ、予防拘禁ハ犯罪者ニ対スル刑罰ニ非ズ、将来再ビ犯罪ヲ犯スノ虞アルコト顕著ナル者ニ対スル一ノ保安処分ナルヲ以テ、其ノ性質上、其ノ自由ヲ拘束スルノ期間ハ可及的ニ之ヲ短縮スルヲ理想トシ、拘禁ノ必要ナキニ至リタルトキハ何時ニテモ之ヲ釈放スベキモノナルト共ニ、其ノ半面ニ於テ拘禁ノ原因消滅スルニ非ザル限リ其ノ拘禁ヲ継続スベキモノトス。故ニ本条ハ其ノ期間ヲ原則的ニハ二年ト定ムルト共ニ、特ニ已ムヲ得ザル場合ニ限リ裁判所ノ決定ニ依リ其ノ期間ヲ更新スルコトヲ得ベキモノト為シ、以テ不必要ナル拘禁ヲ避クルト共ニ必要ナル拘禁ハ無制限ニ之ヲ為シ得ベキモノト定メタリ。而シテ拘禁ノ期間更新セラレタルトキハ自働的ニ二年拘禁シ得ベク、然モ之ヲ無制限ニ反覆シ得ベキモノナルヲ以テ、特ニ更新ノ手続ハ之ヲ慎重ナラシメ恣意ニ依リテ不当ニ拘禁スルガ如キ弊ヲ極力避ケシムルノ要アリト思惟シ、更新手続ニ関シテハ甫メテ検事ノ請求アリタル場合ニ準ジテ取扱ハシムルヲ適当ト認メ、特ニ本条第四項ニ於テ本法第四十条、第四十一条、第四十四条乃至第五十二条ノ規定ヲ更新ノ場合ニ準用スルモノト為シタリ。従ツテ、検事ノミガ裁判所ニ予防拘禁期間ノ更新ヲ請求シ得ベク、此ノ場合検事ハ予メ予防拘禁委員会ノ意見ヲ求ムルニ非ザレバ適法ニ請求ヲ為シ得ザルベク、又請求アリタルトキハ裁判所ハ原則トシテ本人ノ陳述ヲ聴キタル後決定ヲ為スベキモノニシテ、予防拘禁ヲ継続スルノ必要アリト認ムルトキハ拘禁ノ期間ヲ更新スル旨ノ決定ヲ為スベク、然ラザル場合ハ拘禁ノ期間ヲ更新セズトノ決定ヲ為スベキモノトス。更ニ更新ニ関スル決定ニ対シテモ亦検事又ハ本人、輔佐人ハ夫々即時抗告ヲ為スコトヲ得ベシ。
予防拘禁期間ノ更新決定ハ拘禁期間中ニ為サルベキハ当然ニシテ期間満了後ニ期間ノ更新ヲ為スト謂フガ如キハ理論的矛盾ナルコトハ勿論ナレドモ拘禁期間満了前ニ更新ノ決定確立セザル場合アルノミナラズ満了前ニ決定ヲ為スコト能ハザルガ如キ場合ヲ生ズルコトナキヲ保シ難キヲ以テ、本条第二項ニ於テ、期間満了後ト雖モ、満了前更新ノ請求アリタル以上、更新ノ決定ヲ為シ得ル旨ヲ規定セリ。
此ノ場合ニ於ケル更新ノ本質ニ関スル理論的矛盾ヲ避クル為第三項ニ於テ該決定ハ期間満了ノ時確定シタルモノト看做ス旨ヲ規定シタリ。