精神医療に関する条文・審議(その4)

前回(id:kokekokko:20041102)のつづき。
精神衛生法制定当時の審議です。
なお、予算・運用関係の審議は拾っていけばキリがないので、立法および重要な解釈問題に絞ってアップさせています。ただし今回は制定当時の議論ということで、全文掲載します。

本会議会議録第40号(7参昭和25年04月07日)

○議長(佐藤尚武君) 日程第一、精神衛生法案(中山寿彦君外十四名発議)を議題といたします。先ず委員長の報告を求めます。厚生委員会理事藤森治君。

〔藤森眞治君登壇、拍手〕

○藤森眞治君 只今議題となりました精神衛生法案は、本院厚生委員会全員並びに中山、谷口両議員の提出法案でありまして、一昨五日の厚生委員会におきまして中山寿彦議員より提案の理由及び内容の説明がありました。その審議の経過並びに結果について御報告申上げます。
 先ず本案の提出理由及びその内容の大要について簡単に御説明申上げますると、現在精神衛生に関する法律といたしましては精神病者監護法と精神病院法の二つがあります。精神病者監護法は明治三十三年の制定にかかるものであり、又精神病院は大正八年に作られたものであります。前者につきましては制定されましてから五十一年間、後者につきましては制定後三十三年間、その間まだ一回も改正を見ずして今日に至つておるのであります。当時の精神病者の推定数は十万乃至二十万人と言われておりましたが、今日におきましてはその数が六十四万人に及び、尚今回の法案で、精神障害者として対象といたしました精神薄弱者及び精神病質者をも加えますると実に三百三十四万人乃至四百万人の多数になるのでございます。かようにして精神衛生の面における治療及び保護の対象が増加いたし、又精神医学もその間に急速の進歩をいたして来ましたにも拘わらず、これを規律する法律は未だに明治年間の衣を着たままであつたのであります。精神病者監護法は専ら精神病者の不法監禁を防止することを主たる内容とするものでありまして、題名は監護法でありまするが、実質は精神病者の監置法とも言うべきものであります。即ち精神病者を監置できる者を保護義務者に限つたことがその狙いであつたのでありまして、いわゆる座敷牢の制度を特定の者について合法化したものとも言えるのであります。併しこのような座敷牢制度の制限だけでは精神病者は救われないことは明らかでありまして、それから十七年後に制定された精神病院法は、精神病院を府県に設置し、犯罪傾向のある精神病者、身寄のない精神病者を先ず収容することといたして今日に至つたものでございます。この二つの法律によつて賄われて来ました精神衛生行政の現状を見ますると、現在全国における公立及びこれに代用される精神病院のベツド数は二万床を持つに過ぎません。欧米における施設は人口二百人乃至五百人に対して一ベツドの率で整備いたしておりますが、我が国の現状は人口四千人に対して一ベツドの率でありまするから、これを国際水準に比べますると未だその十分の一を満たすに過ぎないのであります。このベツド数の不足から、現在病院に収容することができず、座敷牢にある者の数は二千六百七十一人に達しておるのが実情でございます。健全な社会の発展のためには、身体に対する衛生と並んで精神衛生が不可欠であることは申すまでもございません。それは恰かも車の両輪とも言うべきものであります。ここに上程されておりまする精神衛生法案は、この立ち遅れ且つ取残されて来た精神衛生行政の車を一刻も早く前進させまして、心身共に健康なバランスのとれた国民社会が達成されることを願つておるものに外ならぬのであります。
 次に本法案の大要について申上げますると、第一に、苟くも正常な社会生活を破壊する危険のある精神障害者全般をこの法案の対象として掴むことにいたしました。即ち従来の狭義の精神病者だけでなく、精神薄弱者及び精神病質者をもこれに加えたのであります。第二は、従来の座敷牢による私宅監置の制度を廃止して、長期に亘つて自由を拘束する必要のある精神障害者は、これは精神病院又は精神病室に収容することを原則といたしましたのであります。これがために精神病院の設置を都道府県の責任とし、又入院を要する者で経済的能力のない者については都道府県において入院措置を講ずることとし、国家はこれらの費用の二分の一を補助することにいたしましたのであります。第三は、医療及び保護の必要な精神障害者については、警察官、検察官、刑務所その他の矯正保護施設の長のように職務上精神障害者を取扱うことの多い者には通報義務を負わせる外、一般人は誰でもその医療保護が必要であるに拘わらず与えられざる者のなきように、国民のすべてが協力する体制を作りたいと考えたのでございます。第四は、人権蹂躙の措置を防止するために、精神病院への収容に当つては真の病気以外の理由が介入しないように注意いたしました。即ち精神衛生鑑定医の制度を新たに設け、その二人以上の鑑定の一致することを病院収容の条件といたしたのであります。第五は、自宅において療養する精神障害者に対して巡回指導の方法を講ずる外、精神衛生相談所を設けまして、誤まつた療養による弊害を防止すると共に、更に進んで精神衛生に関する知識の普及に一段の努力を払うことといたしました。第六は、精神衛生行政の推進と一層の改善を図るため精神衛生審議会を厚生省の附属機関として設置し、関係行政庁及び専門家の協力によつてこの法律の施行の万全を期することといたしました。以上が本法案の大要であります。
 次に、本法案の審議に当りまして政府当局に要望した事項のうち、主なる点の二三について簡単に申上げますと、第一に、精神障害の原因、症状、治療、予防に関する調査及び研究のセンターとなり、併せて精神衛生に従事する職員の訓練を行うための国立精神衛生研究所の設置は予算措置ができるまで延期することになつているので、政府は明二十六年度予算にはこれに要する経費を計上してこの実現に努力されたい。第二には、児童福祉法による精神薄弱児の収容施設は全国にも極めて少く、又不完備であるので、本法によつても行われるよう取扱われたい。第三には、精神病院、指定精神病院等に収容しておりまする患者の処遇については、患者の人権を尊重し、安心して入院できるように十分配慮され、遺憾のないように厳重に監督されたい。以上の要望事項に対しまして、政府当局からは、第一の点については、精神衛生研究所を設置することになれば非常に画期的な発展を見ることになりまするので、政府当局といたしましては、二十六年度には是非予算を確保して本法を完璧なものといたすべく努力するという回答がございました。第二の点につきましては、精神薄弱児については児童福祉法とも関連がありますので極力協力して行きたい。第三の精神病患者の処遇については、従来はよろしくないところもありましたが、最近では段々と改善されておりますが、更に本法の施行によつて今後とも尚一層監督を厳重にして改善に努力したいとの所見の開陳があつたのであります。
 又本法を実施するに当り必要な主たる経費は、精神病院並びに患者の入院に要するものでありまして、昭和二十五年度予算に計上中の一億八百九十三万五千円で凡そ本法の実施は可能なのであります。尚、精神相談所の設置に要する経費は現在特別に計上されてありませんが、これは運用によつて実施することにしてあります。従いまして本法施行に当つては、政府は細心の注意と最大の熱意を以て十分の効果を挙げるよう努力を払われんことを強く希望したのであります。かくいたしまして、質疑を打切り、討論を省略して、直ちに採決に入りましたところ、原案通り全会一致を以て可決することに決定した次第でございます。
 以上御報告申上げます。(拍手)

○議長(佐藤尚武君) 別に御発言もなければ、これより本案の採決をいたします。本案全部を問題に供します。本案に賛成の諸君の起立を求めます。

〔総員起立〕

○議長(佐藤尚武君) 総員起立と認めます。よつて本案は全会一致を以て可決せられました。

厚生委員会議録第24号(7衆昭和25年04月08日)
○松永委員長代理 これより会議を開きます。
 まず精神衛生法案を議題といたします。質疑の通告がありますので、これを許します。青柳一郎君。

○青柳委員 私は昨日の本委員会におきまして、この法案施行に必要な予算のことについてお尋ねしたのでありますが、ただいま手元にいただいた予算の調べを見ますと、来年度の予算におきましては精神病院費補助費といたしまして、公立精神病院並びに代用精神病院の運営に必要な経費のみが計上せられておりまして、その総額は一億百万円ということに相なつております。この現在提案せられております法案を施行いたします際に必要な経費といたしまして、ちよつと考えてみますと、いろいろあるのでありますが、病院、病室の増設もしなければなりません。その運営に必要な経費もなければなりません。また精神鑑定医の制度をしかれたのでありまして、これらの方々に各種の報酬といいますか、手当といいますかを支給するような法文にもなつております。また巡回指導をいたすにいたしましても金がいりますし、精神衛生相談所についても金がいる。また知識を普及するにいたしましても、精神衛生審議会を設けるにいたしましても金がいるのであります。そうなりますと、現在私の一手元にございます予算の調べ一億円で、一方においてはこの予算のねらつておりますように、公立精神病院並びに代用病院に補助を行い、一方においては各種の新しい施設を行うということになりますと、非常にその点につきまして、どういうふうにやつて行かれるかという危惧を持つのであります。そこで私のお尋ねいたしたい点は、政府御当局に対しまして、私が今あげましたように、新しく予算を必要とする事項につきまして、来年度におきましてどのくらいの経費がいるとお見込みになつているかという点をお尋ねいたしたいと存じます。

○小池説明員 お答えいたします。本年度は仰せのように精神病院法によりますわずか一億の経費によりましてやる以外にないという状態になつているのでありますが、来年度におきましては精神衛生相談所、あるいは精神衛生鑑定医、あるいは都道府県の行いますいろいろな精神衛生の一般業務等に相当な経費がいると考えております。もこういう経費につきましては、二十六年度におきましてぜひ要求いたし、かつお認めを願いましてやつて行きたいというふうに思つておりますが、その総額が幾らになるかということにつきましては、まだ確定的な計算をやつておりませんので、いずれ研究いたしまして、実施上遺憾のないようにやつて行きたいと考えております。

○青柳委員 そういたしますと、この一億円というものは、この予算に計上してあります通りに、公立並びに代用の精神病院に使う金であつて、この中からほかに使うということをお考えになつておるのでは、ございませんか。

○小池説明員 お答え申し上げます。私どもといたしましては、大蔵省と協議いたしまして、流用できる範囲においては他に流用をいたしまして、精神衛生鑑定医等の旅費等に流用したいというように思つているのでありますけれども、なかなか事実上実施はむずかしいというふうに考えております。

○青柳委員 大体二十五年度の予算、これは精神病院の補助でもつて、大体一ばいと考えてよいものと思います。従つてそういたしますと、この法律は公布の日から施行するということになつておりますが、二十六年度までは施行するといいましても、精神衛生鑑定医の設置、あるいは精神衛生相談所を設けることができないような事態に相なるかもしれないのでありますが、その点につきましてお考えを承りたい。

○中山参議院議員 この法案を出しますにつきましては、御承知のごとく今年度の予算というものはもうすてにきまつております。予算の更正をするということが、これは大蔵当局とも数次交渉いたしましたが、できがたい現状にあります。それで今年度はとりあえず一億幾らの予算によつて、でき得るだけこの法案の趣旨に沿うて運営をする。しかして明年度におきまして、これも予算の関係でありますから、今ただちに明年度幾らの金を出してどうするということは、ちよつと申し上げにくいのでありますけれども、大蔵当局とも数次交渉をいたしまして、でき得る範囲において、なるべく多額の金を支出して、この法案の目的を達成するように努力をしよう。こういうような話合いで実はこの法案を出したわけであります。今年度からこの予算を増額するということになりますと、この法案の提出ということが非常に困難な事情になりますので、この点はどうかさよう御了承願つておきたいと思います。

○青柳委員 そういたしますと、提案者の御説明によりますと、この法案につきましては全部大蔵省の了解済みであるということは、はつきりいたしておりますか。

○中山参議院議員 この法案を出しますにつきましては、厚生省の方の主管局とも十二分の打合せをいたしておりますし、また大蔵当局の方とも予算の関係で、数回私が交渉をいたして、今申しましたような了解のもとに、この法案を出すことに相なつたものであります。さよう御承知を願つておきたいと思います。

○青柳委員 そういたしますと私は、これは希望でございますが、この精神病院費の補助一億円の使い方について、この中から、精神鑑定医並びに精神衛生相談所の金も、大蔵省の了解を得ながら使いつつ、本年度中に機会を見つけて、全面的にこの精神病院費の補助の方も計画通りに、また新しい施設も、この法文にあるように実施して行かれるというふうになることを、私も大いに希望いたします。その点につきましての御自信のほどを承りたいと存じます。

○中山参議院議員 ただいま青柳委員から御希望を承つたのでありますが、私どもは立案当時よりそういうような希望を持つてこの案を出したのでありますから、御希望に沿うように努力いたしたいと存じます。

○青柳委員 予算の点は私は了解いたしました。
 次にお尋ねいたしたい点でございます。昨日も政府御当局がおられなかつた際でございますが、いろいろお尋ねしたのであります。私はこの法案の適用を受ける、生活保護を要する人について問題を限つて御質問をいたします。この法案によりますと、申請があつた際に鑑定医の診察を受けなくても入院できる人もあるし、またどうしても必要のあるときには受けるということになつておるので、この二種類があるということになると思うのであります。さよう考えてよろしゆうございますか。

○中原参議院法制局参事 法文解釈の上では、ただいまおつしやいました通りでございます。

○青柳委員 そうして診察を受ける必要がある人については、府県知事が強制的に入院させる道を講じてあります。その際に入院に要する経費は都道府県が負担する。そうしてそのうちの半額を国庫が補助する。こういうことに相なつておると解釈してよろしいのでありますか。

○中原参議院法制局参事 ただいま御質問がありました通りの解釈でございます。

○青柳委員 そういたしますと、残つた生活保護を受ける人、それはどういう人かといいますと、鑑定医の診察なくして入院できる人と、鑑定医の診察を受けても強制的でなく入院する人と、その二種類が残ると思うのですが、そう解釈してよろしうございますか。

○中原参議院法制局参事 さようでございます。

○青柳委員 そういたしますと、ただいまのあとで申し上げた人々は、生活保護による医療扶助を受ける者と解釈してよろしうございますか。

○中原参議院法制局参事 その通りでございます。

○青柳委員 そういたしますと、結局こういうことが残るのであります。貧乏な人の家で精神病になつた。その人は鑑定医の審査を必要があつて受けた。そうして強制的に本人並びに保護者の同意なくして都道府県知事が入院させたというときには、国庫から出る入院費は二分の一である。その他の場合には生活保護でありますから、国庫から出る金は八割だ。こういうふうに相なることになりまして、その間に不均衡な点が出て来ると思うのでございますが、この点につきましてお考えなさつたことがあり、どういうふうに結論がついておりますか。こういう点を承りたいと思います。

○中原参議院法制局参事 ただいま御指摘になりました二分の一の補助と、十分の八の補助との差を平均化すると申しますか、差別がつかないように予算的な手当をする必要があつたのでございますが、そういう予算措置につきましてはただいま中山議員から御説明がありましたようないきさつで、増額をすることができなかつたのでございます。そのためにやむを得ず本年度は、ただいま御指摘のような差がつくことになりました。それでこの法案を運用するにあたりまして、生活保護法の適用を受けるような人に対しては、できるだけ二十九条による知事の入院措置は講じないようにしよう。保護義務者を勧奨いたしまして、なるべくなら保護義務者の同意による入院措置、すなわち三十三条による保護義務者の同意による入院措置をとるようにし向けて行こうというような運用によりまして、でき得るだけ生活保護法の適用を受け得る者については、生活保護法の費用でやつて行こうという運用上の方針を一応打合せてございます。

○青柳委員 ただいま論議しておりまするような生活保護を受ける人で、都道府県知事の強制入院を命ぜられる人は、至つて少いのであります。少なければこの人々の入院費に対する国庫の負担を半分から十分の八にすることは、現在の生活保護法はなお余裕があるというような御当局の御説明でありますので、大してむずかしいことはないと私は存じておるのであります。しかしながらその点はいろいろ御当局同士でもお話合いはなつたということでございますので、将来の機会になおお考えおきを願いたいと存じます。
 次に私がお尋ねいたしたいのは、これは政府御当局に対してでありますが、今度のこの法律によりましては、新しくその対象として精神薄弱者及び精神病質者を加えられたのであります。しかしてこれらすべての、いわゆる大きくひつくるめまして精神病者の私宅監置は一年間を限つておるのであります。現在のペッドからいたしまして、ベットの数が非常に少いと思うのでございますが、御当局におかれましてはこの新しい法律によつて、どの程度の増床を必要とお考えになつておりますか。その点を承らしていただきたいと存じます。

○津田説明員 従来の精神病者に加うるに、薄弱者と変質者とを加えまして、その数はラフに見積りまして、従来の数のほぼ五倍に達すると思うのでございますが、現在私宅に監置しておりまする精神障害者精神病者のその内容を分析いたしてみますると、従来言つておりまする精神病者、つまり狭義の精神病者がほとんど大部分で八五%から九〇%を占めておりまして、薄弱者及び変質者は私宅に監置されておるのは非常に少い。こういう現状でございます。それから精神障害者も全部これを収容するわけでなく、強制的に入院せしめたい者は、自身を傷つけ、ないし他人に害を及ぼし、社会公安上害のある者、こういうことになつておりますので、その数はおのずからまた少くなると想像されます。従いまして、私どもといたしましては、ほぼ四百万に近いすべての精神障害者のうちで、どうしても監置、監護ないし保護を必要とする精神障害者の数は、現状におきましては十二万近くいるのではなかろうかということを一応想像しております。しかし現在の状況では、それだけのものをすべて収容するということは不可能な状況でございますが、とりあえず五箇年計画をもちまして四万床、これは人口一万に対して五という数になります。先ほどの十二万は人口万に対して十五という数になつております。ちなみに一九四九年のアメリカにおいては、人口万に対して五十という数になつております。とりあえず五箇年計画をもちまして四万床つくりたい、かように考えております。

○青柳委員 そういたしますと、四万床できれば私宅監置を廃止し得るのに十分であるというふうに考えることはできるのでありますか。

○津田説明員 現在精神病者監護法によりまして、私宅監置をされております者は二千六百名ほどございます。それに対しまして精神病床のあいておりますものは、現在二千三百ほどございます。とにかく新しいものを入れずに今監置されている者だけを収容するとすれば、あと四百ふえるだけでもどうにか収容できることになります。ところで現在の精神病院におきましては、病床の回転率が毎月一〇%になつております。一年間たちますと、ほぼ十二割の患者を完全に回転させることができると想像しておりますが、その辺のことから推察いたしまして、私宅監置の者は、一年の余裕期間で一応は何とか片づくのではなかろうかと想像いたしております。

○青柳委員 精神病院は、他の病院と違つて、一床あたりつくりますのに、大して金がかからぬと思いますが、どのくらいを必要とするものでありますか。

○津田説明員 昭和二十五年度の公共事業費におきまして、精神病院といたしましては、坪一万九千円、こういう単価で八百坪の増床の計画を立てております。精神病院も特殊医療の面が、従来と違つてずいぶん加わりますので、従来考えていたような非常な低額でできるということにも参らぬのではなかろうか。かように想像いたしております。

○青柳委員  一床当りに直すとどのくらいでしようか。

○津田説明員 一床六坪ないし八坪と言うております。

○青柳委員 ただいまのお話を承つておりますと、五箇年計画で四万床、平均一年に八千床というものを計画なさつておるようであります。この予算措置につきましても、提案者の方もわれわれと一緒に十分御努力のほどを切に希望いたします。これをもつて私の質問を終ります。

○松永委員長代理 他に御質疑はございませんか。【以下略】

厚生委員会議録第27号(7衆昭和25年04月14日)

○堀川委員長 それでは次に精神衛生法案を議題といたします。本法案は前会において質疑を打切つておりますので、これより討論に入ることにいたします。丸山委員。

○丸山委員 ただいま議題となりました精神衛生法案につきまして、自由党を代表いたしまして賛成の討論を行わんとするものであります。
 本法案は従来行われておりましたところの精神病院法の不備なる点を補正し、これを強力にし、正しくするがために考えられました法案でありまして、その第一点といたしますことは、私宅監置の制度を廃止したことであります。これは精神病者が従来私宅において監置せられていることについて種種なる弊害のありましたことは、天下周知のことでありまして、これが最も本法案のねらいといたしまして賛成を惜しまない理由の一つであります。さらに精神病院の設置を都道府県の義務といたしましたこと、及びその対象を精神障害者全部にこれを広げまして、変質者にまでも及ぼしたということ、並びに精神衛生鑑定医の制度を新設いたしまして、疾病以外の動機によるところの身体の拘束せらるるようなことを防止すること、及び精神障害の特殊性にかんがみまして仮入院、仮退院の制度をつくりましたこと、あるいは医療保護の必要が緊迫いたしております精神障害者を保護するための国民全体の協力体制を整えること、及び医療保護に関しましては、病院への収容措置のほかに、自宅における精神障害者の指導措置がとられるようになつたこと、遠隔の地においてただちに病院に収容することのできない場合の臨時的措置が講ぜられることになつた等の点において、長足の進歩を遂げたものと考えられます。ただこの法律でやや考えられますことは、本人及び家族の承諾のない場合に、県知事が危険ありと認めた場合においては、それを強制的に収容することを許されておる点であります。これが誤まつて運営せられる場合においては、多少の弊害なきを保しがたいのでありまして、この点の運用に関しては十分なる注意が払わるべきものであり、将来この場合における異議の申立て等に関する措置が講ぜられるような改正が行われるであろうということを期待いたしまして、ただいまの現状といたしましては、この程度でまず可なるものと考え、この法案に賛成する次第であります。
 これをもつて賛成の討論を終ります。

○堀川委員長 討論は終結いたしました。
【略】
○堀川委員長 これより精神衛生法案の採決をいたします。本法案を原案の通り可決するに賛成の諸君の御起立を願います。
〔総員起立〕

○堀川委員長 起立総員。よつて本案は原案通り可決いたしました。
【以下略】

本会議会議録第37号(7衆昭和25年04月15日)
第十六 精神衛生法案(参議員提出)

○副議長(岩本信行君) 日程第十六、精神衛生法案を議題といたします。委員長の報告を求めます。厚生委員長堀川恭平君。
堀川恭平君登壇〕

堀川恭平君 ただいま議題となりました精神衛生法案について、厚生委員会における審議の経過並びに結果の大要を御報告申し上げます。
 現在わが国における精神衛生行政は、精神病者監護法並びに精神病院法に基いて運営せられておるのであります。しかして、精神病者看護法は明治三十三年に制定せられ、精神病者の不法監禁を防止することを主たる内容とし、精神病者を監置できる者を保護義務者に限り、いわゆる座敷牢の制度を特定のものについて合法化したものであり、また精神病院法は大正八年に制定せられ、精神病院を府県に設置して、犯罪傾向のある精神病者あるいは身寄りのない精神病者をまずに収容することにいたしたのでありますが、今日精神医学の進歩等に伴い治療及び保護の対象が増加いたしたにもかかわらず、全国の公立及びこれに代用される精神病院のベツド数は二万床に過ぎない結果、病院に収容することができず、座敷牢にある者の数は二千六百余人に達しており、なお入院治療を必要とし、またはこれを希望しながら多数の精神障害者が入院できず、放置されているような実情であります。かかる情勢にかんがみ、精神障害者全般を対象としてこれに適正なる収容保護及びに治療を加えるとともに、各種の指導保護の措置を講じ、精神衛生行政の推進をはかる等、現行の制度を強化拡充して、健全なる社会の実現を期せんとするのが、本案提案の理由でございます。
 次に本法案の内容のおもなる点を申し上げますれば、第一に、正常なる社会生活を破壊する危険のある精神障害者全般を対象とし、従来の狭義の精神病者だけでなく、精神薄弱者及び精神病質者をも加えたことであります。
 第二に、従来の座敷牢による私宅監置の制度を廃して、長期にわたつて自由を拘束する必要のある精神病者は精神病院または精神病室に収容することを原則としたのであります。これがため、従来のごとく主務大臣の命令がある場合のみに限らず、都道府県に精神病院設置の義務を負わせ、また入院を要する者で、経済的能力のない者については都道府県に置いて入院の措置を講ずることとし、国はこれらの費用の二分の一を補助することにしておるのであります。
 第三に、医療及び保護の必要な精神障害者については、警察官、検察官、刑務所その他の矯正保護施設の長のごとく、職務上精神障害者を取扱うことの多い者に対して通報義務を負わせるとともに、医療保護の必要な精神障害者に対する保護の徹底を期するため、一般人はだれでも精神障害者またはその疑いある者の診察及び保護を都道府県知事に申請することができることといたしたのであります。
 第四は、疾病以外の動機による身体の拘束を防止するため、精神病院への強制収容については新たに精神衛生鑑定医制度を設け、二人以上の一致した鑑定に基くことを必要としたほか、精神障害の特殊性にかんがみまして、仮入院、仮退院の制度を設け、また遠隔地にあつて、ただちに病院へ収容することができない場合の臨時措置として、知事の許可を条件とした保護拘束制度を認めておるのであります。
 第五に、自宅において療養する精神障害者に対して巡回指導の方途を講ずるほか、精神衛生相談所を設けて、誤つた療養による弊害を防止するとともに、さらに進んで精神衛生に関する知識の普及に一段の努力を払うことといたしているのであります。
 第六に、精神衛生行政の推進とその一層の改善をはかるため、精神衛生審議会を厚生省の附属機関として設置し、関係行政庁及び専門家の協力を得ることにしているのであります。
 本法案は、四月一日、予備審査のため本委員会に付託せられ、同五日、提案者参議院議員中山寿彦君より提案理由の説明を聴取したのでありますが、同七日、本付託、七日、八日の本委員会において、委員と提案者並びに関係当局との間に、費用負担、生活保護法との関係、精神鑑定医の指定及びその活動、収容施設、不服申立の方法、予算措置等の諸点についてきわめて熱心な質疑応答が行われた後、質疑を打切り、十四日の本委員会において、自由党を代表して丸山委員より賛成討論があつた後、討論を打切り、採決に入りましたところ、本法案は満場一致をもつて原案通り可決すべきものと決した次第であります。
 以上御報告申し上げます。(拍手)

○副議長(岩本信行君) 討論の通告があります。これを許します。梨木作次郎君。
〔梨木作次郎君登壇〕

○梨木作次郎君 私は、日本共産党を代表いたしまして、ただいま議題になつております精神衛生法案に対しまして反対の討論をいたすものであります。
 ただいまの委員長の御報告の中にもありましたように、現在精神病者の監置は精神病者監護法と精神病院法によつておるのであります。ところが、この二つの法律は旧憲法下の法律でありまして、人権の保障の上においてきわめて不徹底かつ大きな欠陥を持つておるのであります。従いまして、新憲法下におきましては、あくまでも人権保護の制度が確立されるように改正せられることが要請されておつたのであります。
 この旧法律では、精神病者の入院あるいは退院はすべて行政官庁たる都道府県知事にまかされておつたのであります。このために、行政官憲の専断によつて、精神病者でない者が精神病者として監禁され、このために実に痛ましい犠牲者を多数出しておることは、皆さんも御存じのことであると思うのであります。家庭紛争に関しまして、紛争の相手方に気違いだ、精神病者だというレッテルを張つて、これが官憲と結託いたしまして、これらの人々を精神病院に入れて、みずからの所望を達成するの手段に供したことは、これは多々あるのでおります。私の知つておる松島謙三という人は、華族制度の改革を宮内省に上申したということで、十年間松沢病院に入れられておつたという事実があるのであります。従つて、精神病者の監置にあたりましては、人権の一番ということに十分なる配慮がなされるように法律によりて規定がなされなければならないのであります。
 ところが、この今議案になつておる法律においては、この点に関する改正がほとんどなされておらない。たとえば三十三条並びに三十七条を見ますと、精神病院の長あるいは都道府県知事が、精神病院に入れたり、あるいは退院させることができるようになつております。しかしながら、人の自由を拘束する人権の蹂躙が起らないような十分な保障が、これではとうてい望めないのであります。いやしくも人の自由を拘束するには、法律の手続の上におきましても、またこれを扱う機関は、行政機関から独立したところの、たとえば裁判所のような機関によつて扱われることが必要であります。今日いかなる国家におきましても、精神病者の監禁を決定するには裁判所によつて決定するというような法制になつておるのであります。しかるに、本法にはこれがない。これがこの法案の致命的な欠陥であると思うのであります。
 そのほか、人権保障の建前から見まして、非常に多くの欠陥をこれは持つております。特に今度は、精神病者としての対象となつておる者は――精神薄弱者あるいは精神病質者、これは今日の医学から行きましては精神病者には入らないということになつておるのでありますが、こういう広汎な対象をも含めようというのでありますから、ますます人権保障の徹底ということが法律の上において確立されておらなければならないのであります。従いまして、本法がこのまま通過いたしまするならば、精神病者の名によるところの人権の蹂躙が多々引起されるであろうということをわれわれはおそれるがゆえに、本法案に対して絶対に反対するものであります。(拍手)

○副議長(岩本信行君) 丸山直友君。
〔丸山直友君登壇〕

○丸山直友君 私は、ただいま上程せられました精神衛生法案について、自由党を代表して賛成の討論をなさんとするものであります。
 本法案は、旧法がはなはだ不完全でありましたがために、しかもそれが五十一年間そのまますえ置かれた状態でありましたがゆえに、これの画期的な改善を企図したものでありまして、その概略は先ほど委員長の報告せられた通りでありますがゆえに、これを申し上げることを省略いたしまして、ただいま共産党から反対の意見を表明せられました部分につきまして意見を申し上げたいと存ずる次第であります。
 なお私といたしましては、ただいま御指摘には相なりませんでしたが、さらにもう一つ、お考えにならなかつたのではないかと考える点があるのであります。それは本法に、医療保護の必要の緊迫している精神障害者の保護を行うためには、国民の何人といえどもその保ごの申請を行い得るのであります。これは国民総協力の体制を確立するものではありまするが、ややもすると、何人でもこれが保護申請を行い得るがゆえに、他人を陥れるために申請を行うことがあり得ると考えるのであります。また職務上最も取扱う機会の多い警察官も通報の義務を持つております。この点についても、あるいは共産党から御指摘があるであろうと考えておつたのに、その点は、はなはだ御安心であつたと見えて御指摘がないであります。ただ知事または病院長が決定する権限を持つておるということについて御指摘があつたのであります。私が申し上げました点について、これを救い上げますところの方法が二重、三重、五重にこの法案には盛られ、愼重を期しているということを申し上げたいと思つて、その用意をしておつたわけでありますが、御指摘がなかつたから省略いたします。
 知事または病院長が決定することが不都合であるとおつしやるならば、これに対しては訴願の道が開かれているわけであります。〔「そんな訴願では救われないよ」と呼ぶ者あり〕それは旧法によりましたがゆえに十年も入れられたというようなことがあつたのでありまして、それを改善するのが今度の法律の目的なのであります。県知事がこれを行いまする場合においては、拘束の必要ありといたしまするには精神鑑定医の診察が必要であります。しかも、その診察には当該吏員の立ち会いが必要であります。保護の任に当たつている者に、診察の日時、場所を通知しなければなりません。なおその上に、本人の後見人、親権を行う者または配偶者等が立合うことができるのであります。これらのこまかい規定が第二十七条にあるのでありましで、ちやんとごらんくだされば、おわかりになるはずであります。
 この結果、精神障害者であるということがそこで判明いたしましても、まだそれを拘束することはできないのであります。本人自身を傷つけるとか、あるいは他人を害するとかのおそれありと医者が決定しなければならないのであります。この決定がなされても、まだ入院収容はできないのであります。第三の関門として、本人もしくは関係者の同意の有無にかかわらず、なお二人以上の精神衛生鑑定医が診察して、その一致した結果をもたらさなければできないのであります。
 しかも、これらの関係者が全部結託して不法な拘束が行われた、こういうような場合に、なおさらにまた救う道があるのであります。すなわち第一は、第三十二条において、知事の行つた処分に不服のある者は訴願法によつて厚生大臣に訴願することができるのであります。また本人が不服を訴えるの道を阻害するごとき監護人等の不法措置が行われた場合におきましては、三十八条において、県知事は医療または保護に欠くことのできない限度において患者の行動の制限を行つておるかいなかの監査の権限をもつてこれを防止することができるのであります。これらの措置をとつてもなお厚生大臣すらも信ずることができないとするならば、その次にはまた一つの法律があるのであります。人身保護法によりまして、不当なる拘束は裁判によつてこれを解くことができるのであります。この裁判の請求はだれができるか、八千万国民は何人といえどもこれを行い得るのであります。(拍手)
 以上のごとく、万全の対応策がこの法律には盛られておるのでありますがゆえに、何らの不安なきものと信ずる次第であります。これをもつてもなお共産党は、知事たのむべからず、鑑定医怪しむべし、厚生大臣も信ずべからず、裁判所また同様なりと言われ、また八千万の国民中一人もこれを訴うる者がないにもかかわらず、なお本人の言うことが正しいのであると言われるならば、その考え方は、むしろ被害妄想的であると申さなければならぬと思うのであります。(拍手)梨木氏の申されましたことは、旧法によつて行われた例をあげられたのであります。新しい法はこれを防止するものでありまして、かかる慎重万全なるところの対策が講じられた本法案の成立に反対せられますならば、ただいまの理由とは全然反対の方向でありまして、これはむしろ精神衛生法を適用すべき範疇に属せられる方でないかと私は信ずる次第であります。(拍手)
 以上申し述べました理由によりまして、私は本法案に絶対賛成の意を表し、すみやかに可決せられんことを希望する次第であります。

○副議長(岩本信行君) これにて討論は終局いたしました。
 採決いたします。本案の委員長の報告は可決であります。本案を委員長の報告の通り決するに賛成の諸君の起立を求めます。
〔賛成者起立〕

○副議長(岩本信行君) 起立多数。よつて本案は委員長報告の通り可決いたしました。(拍手)
【以下略】