精神医療に関する条文・審議(その5)

前回(id:kokekokko:20041109)のつづき。初回は10/28(id:kokekokko:20041028)。
精神衛生法は昭和25年に制定されたあと、何度か改正されています。大きな改正としては昭和40年や昭和62年などがありますが、小さい改正も多く行われています。昭和20年代に行われた改正は、以下のとおりです。

  • 昭和26年法律第55号 精神衛生法の一部を改正する法律
  • 昭和27年法律第268号 法務府設置法等の一部を改正する法律
  • 昭和28年法律第213号 地方自治法の一部を改正する法律の施行に伴う関係法令の整理に関する法律
  • 昭和29年法律第136号 厚生省関係法令の整理に関する法律
  • 昭和29年法律第163号 警察法の施行に伴う関係法令の整理に関する法律
  • 昭和29年法律第179号 精神衛生法の一部を改正する法律

このそれぞれについて、改正の様子をみてみます。今回は昭和26年法律第55号の改正です。

精神衛生法の一部を改正する法律案
精神衛生法(昭和二十五年法律第百二十三号)の一部を次のように改正する。
第十四条第二項中「委員」を「委員及び臨時委員」に改め、同項を第三項とし、第一項の次に次の一項を加える。
2 精神衛生審議会において、特に必要があると認めるときは、臨時委員を置くことができる。
第二十五条を次のように改める。
(検察官の通報)
第二十五条 検察官は、精神障害のある被疑者について不起訴処分をしたとき、又は精神障害のある被告人について裁判(懲役、禁こ又は拘留の刑を言い渡し執行猶予の言渡をしない裁判を除く。)が確定したときは、すみやかに、その旨を都道府県知事に通報しなければならない。
第四十九条第二項を削る。
 
附則
この法律は、公布の日から施行する。

【20050715:参議院審議は、にわとりショコラへ移転しました。】

厚生委員会会議録第12号(10衆昭和26年3月17日)
○松永委員長 これより会議を開きます。
 まず精神衛生法の一部を改正する法律案を議題とし、審査に入ります。提案者より趣旨の説明をお聞きしたいと存じます。提案者中山参議院議員

○中山参議院議員 精神衛生法は第七国会において皆様の御賛同を得て成立し、昨年の五月一日から施行になつたのでありまするが、施行後約一年間の経過から見まして、多少不便を感じ、また不都合な点も生じて参りましたので、この際その点をさらに整備いたすべく、この一部改正法案を提出することといたしたのでございます。
 まず精神衛生審議会の構成につきまして、現行法における十五名の正式の委員のほかに、他の審議会と同様に、必要がある場合には、臨時委員会をも設けることができることといたしたいと存ずるのであります。
 次に、市町村長が保護義務者になつた場合の医療保護に要する費用の負担関係を改めることにいたしました。現行法におきましては、この場合だけ特に全額を都道府県の負担として、特別な取扱いをいたすようになつておるのでありますが、私人が保護義務者である場合と何等区別をすべき理論上の理由もなく、またこの規定のために、浮浪者の多く集まる大都市を持つ都や府県に対して、不当に負担を多くする結果ともなりまするので、かかる費用負担の帰属を定めている条項を削除することといたしたのでございます。
 またこの際解釈上疑義を生じている向きのある検察官の通報義務に関する規定につきまして誤解を生じないよう、その表現を改めることといたしました。この法案の内容は、以上の三点でございますが、精神衛生法の運用に関しまして、二十六年度予算には、国立の精神衛生研究所設置に要する経費が計上されております。精神衛生研究所は、精神衛生法施行上重要な役割を持つものでありまするが、法体系の上から、これに関する事項は別途厚生省設置法に挿入することといたし、今回の改正案からは除外いたしました。
 以上がこの法案の提案理由でございますが、何とぞ御審議の上、御賛成くださるようお願いいたす次第でございます。

○松永委員長 本案に対する御質疑はありませんか。

苅田委員 これは臨時委員を設ける制度が開かれたわけなんですけれども、これは実情からどういう必要が認められまして臨時委員を置かなければならないというふうに改正になりましたか。それを少しお伺いしたいと思うのであります。

○中原参議院法制局参事 お手元に現在内定いたしております精神衛生審議会委員の名簿が参つておるかと存じますが、現在の精神衛生審議会の委員は十五名でございます。そのうちで主として精神医学方面の方が大体半数を占めております。それから公務員が三分の一を占めております。それからその他は教育関係から一人、社会事業関係から一人でございます。精神衛生の問題は広汎多岐にわたりますので、たとえば問題児に関する事項を論議するにいたしましても、教育関係は初等教育中等教育もすべてにわたることでございまするし、また社会施設事業方面においても、刑務所関係もございましようし、それから一般の社会事業関係もございましようし、そういう広汎多岐にわたる問題をすべて処理できるだけの委員を常に置くといたしまするならば、とても十五名ではまかなえないのでございます。しかしいかなる問題も討議できるだけの委員を常置いたしまして、その出席がなければ審議会は開けないということにいたしますことは、非常に不経済でございます。従いまして、特別な事項を審議する必要が生じた場合には、その方面の人たちに臨時の委員になつていただくというようにいたさなければ、精神衛生審議会の非常に広い所管事項はまかなえないのではないかということが、今度の臨時委員を設けるようにいたした趣旨でございます。

苅田委員 その際に半数を占めておられる医者ですかの人数を減らして、そうしてそうしたぜひ必要な他の方面からの代表を出して、既定の委員数だけでするというような措置はできないわけですか。

○中原参議院法制局参事 ただいま申し上げましたお医者さんといいますのは、臨床関係のお医者さんと、それから主として大学で研究をいたしております学理方面のお医者さんと、それから心理学面のお医者さん、ただ精神医学関係のお医者さんといいましても、非常にそれぞれの専門分野が違いますので、それ以下に減らすということも不可能ではないかと存ずるのであります。それらの各専門分野の方々は、いかなる問題についても常に関係がございますので、非常に多数を占めるような結果になつたのであります。

苅田委員 その委員会の名簿を、こちらにございませんからあとでいただきたいと思います。
 それから委員会についてもう一つお伺いしたいのですが、これはやはり予算的な措置がありまして、委員には幾らかの報酬が出るとかなんとかいうことがあるのでしようか、その点をひとつお伺いいたしたいと思います。

○中原参議院法制局参事 もちろん審議会に要する費用は予算に計上してございます。

苅田委員 委員の報酬は。

○中原参議院法制局参事 委員の報酬は、手当が幾らになりますか、今正確な数字を持つておりませんから、後ほど御返答申し上げたいと思います。

苅田委員 それから次に二十五条が旧法と書きかえられておりますので、私も旧法と対照して読みましたのですが、はつきりどういう点が違つているかわからないのですけれども……。

○中原参議院法制局参事 現在の二十五条で誤解が起きておりますのは前段でございます。この前段は、「検察官は、被疑者又は被告人について精神障害があると認めたときは、当該事件について不起訴処分をし、」そして以下はまたは裁判が確定した後、すみやかに知事に通報してくれ、こう書いたのでございます。二十五条は検察官が扱つた精神障害者をそのまま社会に出してしまうとき、それから後段の方は裁判が確定しても刑務所に収容せずに社会に出してしまうときには通報をしてもらいたい。ただこれだけの意味をもつて書いたのでございます。ところがこの規定の前段に、精神障害があると認めたときには検察官は不起訴処分をし、とそういうふうに書いたことは、刑法の規定と刑事訴訟法の規定を改正する意味まで持つておるのであるということを言つておられる弁護士の方があるのであります。刑法では精神障害者の障害につきまして、それが心身喪失の状態であるならば罰しない、しかし心身耗弱の状態であれば刑を減刑するということになつております。その規定を精神障害があると認めたときには常に公訴を提起しないのだ、不起訴処分にするのだというふうにまず読まれるわけであります。それから刑事訴訟法では起訴便宜主義というのがございまして、犯人の性格とか状況によりまして、検察官が起訴するかしないかを自由に決定できるようになつております。その規定まで改正して精神障害者はすべて不起訴処分にするのだ、こういう権限まで二十五条の前段は持つておるのである。従つて精神障害者の事件について検察官が公訴を提起した場合はこれは違法な公訴であるとして争う、こういうことを議論されておるのであります。で非常に違つた意味に誤解されるおそれがございましたので、誤解されないように書き直したわけでございます。

苅田委員 ただいま委員長から、資料が整つた上でさらに質問を続けてもらいたいという御注意がありましたので、この質問は次の機会に譲りまして、私のきようの質問はこの程度にいたしておきます。

○青柳委員 お尋ねいたしたいしことがあります。今回の改正におきましては、法第四十九条第二項を創られることによつて、市町村長が保護義務者になつておつた場合の医療保護に要する費用を、現行法では都道府県の負担としておつたのを、今度は削るということになると、その負担はだれがやるのでありますか。

○中原参議院法制局参事 四十九条の二項を削除いたしますと、四十九条の一項の原則に返つて来るわけでございます。現行の二項は、一項に対する例外のような規定でございまして、一項に返りますから、精神障害者本人かその扶養義務者が負担することになるわけであります。もし両方とも負担能力がない場合には、これは生活困窮者としまして、生活保護法が発動するわけでございます。現在は、市町村長が保護義務者になるということは、何も権力的な精神衛生法上の規定に基く結果ではないのでありまして、一般私人が保護義務者になつておる場合と理論的に区別をする理由がまつたくなかつたのでありますが、あやまつてこういう規定を置いたのであります。

○青柳委員 この点は先般この法律ができましたときに私が質問いたしまして、その方がいいのだと言つた点と同じ点と思うのでありますが、そういうふうな点どうでしようか。と申しますのは、先般の法律ができました際には、都道府県知事が全額を負担することに相なつておつたのであります。この点を承りたいと思います。

○中原参議院法制局参事 四十九条の二項では、都道府県が全額を負担するということになつております。ただいま青柳委員からお教えありましたような、前回にお出しになりました御意見のようにかえなければならないということが、施行によつてはつきりわかつたわけでございます。

【略】

厚生委員会会議録第14号(10衆昭和26年3月20日
【略】
○松永委員長 次に精神衛生法の一部を改正する法律案を議題とし、前会に引続き質疑を行います。
 精神衛生法の一部を改正する法律案についての御発言はございませんか。――別に御発言もないようでございますが、本案についての質疑は終了せるものと認めて御異議ございませんか。
 〔「異議なし」と呼ぶ者あり〕

○松永委員長 御異議がなければ、本案についての質疑は終了したものと認めます。
 次いで討論に入るのでありますが、別に討論の通告もありませんから、これを省略して、ただちに採決に入ります。本案を原案通り可決するに御異議ございませんか。
 〔「異議なし」と呼ぶ者あり〕

○松永委員長 御異議なしと認め、本案は原案通り可決いたしました。
 なお議長に提出する本案に関する報告書の作成に関しましては、先例により委員長に、御一任願いたいと存じますから、さよう御承認を願います。
【略】

精神衛生法の一部を改正する法律案(参議院提出)に関する報告書(昭和26年3月20日
一 議案の要旨及び目的
本法の円滑なる運営を期するため次のごとき改正を行わんとするのである。
1 精神衛生審議会に十五名の正式委員の外、必要がある場合に臨時委員を設けることができる
2 市町村長が保護義務者になつた場合の医療保護に要する費用は、その全額を都道府県の負担として、特別な取り扱いをするようになつているが、私人が保護義務者である場合となん等区別すべき理由もないので、この費用負担の条項を削除したこと。
3 検察官の通報義務に関する規定につき、誤解を生じないようその表現を改めたこと。
 
二 議案の可決理由
 精神衛生法の円滑なる運営を期するため、時宜に適する措置と認め、本案は可決すべきものと議決した次第である。
 
右報告する
 昭和二十六年三月二十日
 厚生委員長 松永 仏骨
衆議院委員林譲二殿

議院運営委員会議録第29号(10衆昭和26年3月23日)
【略】
○大池事務総長 次の厚生委員会の二法案、これも今のところ討論の通告はございません。

○梨木作次郎君 最初の予防接種法の一部を改正する法律案は賛成、精神衛生法の一部を改正する法律案は反対です。
【略】

本会議会議録第23号(10衆昭和26年3月24日)
【略】
○議長(林譲治君) 日程第八、結核予防法案、日程第九、予防接種法の一部を改正する法律案、日程第十、船員保険法の一部を改正する法律案、日程第十一、精神衛生法の一部を改正する法律案、右四案を一括して議題といたします。委員長の報告を求めます。厚生委員長松永仏骨君。
〔松永仏骨君登壇〕

○松永仏骨君 ただいま議題となりました結核予防法案外三法案の、厚生委員会における審議の経過並びに結果の大要を御報告申し上げます。
【略】
 次に、精神衛生法の一部を改正する法律案について申し上げます。
 本改正案の提案理由並びに内容について申し上げますれば、第一は、精神衛生審議会に、正式委員のほか、必要がある場合臨時委員を設けることができること。第二は、市町村長が保護義務者になつた場合の医療保護に要する費用は、その全額を都道府県の負担とし、特別の取扱いをするようになつておりますが、私人が保護義務者である場合と何ら区別すべき理由もないのでありますから、この費用負担の条項を削除することといたしたのであります。第三は、検察官の通報義務に関する規定につき誤解を生じないよう、その表現を改めたことであります。
 本改正案は、去る十六日、本委員会に付託、翌十七日、提案者参議院議員中山寿彦君よりその提案理由の説明を聴取した後審議に入り、熱心なる質疑応答が行われたのであります。次いで質疑を終了し、討論を省略して採決に入りましたところ、本法案は全員一致をもつて原案通り可決すべきものと決した次第でございます。
 以上御報告申し上げます。
(拍手)
【略】
○議長(林譲治君) これにて討論は終局いたしました。
 まず日程第八及び第十一の両案を一括して採決いたします。両案の委員長の報告はいずれも可決であります。両案を委員長の報告の通り決するに賛成の諸君の起立を求めます。

〔賛成者起立〕

○議長(林譲治君) 起立多数。よつて両案とも委員長報告の通り可決いたしました。(拍手)
【略】

精神衛生法の一部を改正する法律(昭和26年3月30日法律第55号)【全文】
精神衛生法(昭和二十五年法律第百二十三号)の一部を次のように改正する。
第十四条第二項中「委員」を「委員及び臨時委員」に改め、同項を第三項とし、第一項の次に次の一項を加える。
2 精神衛生審議会において、特に必要があると認めるときは、臨時委員を置くことができる。
第二十五条を次のように改める。
(検察官の通報)
第二十五条 検察官は、精神障害のある被疑者について不起訴処分をしたとき、又は精神障害のある被告人について裁判(懲役、禁こ又は拘留の刑を言い渡し執行猶予の言渡をしない裁判を除く。)が確定したときは、すみやかに、その旨を都道府県知事に通報しなければならない。
第四十九条第二項を削る。
 
附則
この法律は、公布の日から施行する。