集団強姦致死罪につき、殺意がある場合の処理(1)

今回の刑法改正で、法定刑の変更がありました。ここで扱う問題は、従来の問題を比較的すっきり説明できていた前田説が今回の改正後に不合理な結論にいたる、というものです。
<改正前の状況のおさらい1>
強姦致傷罪につき、傷害の故意がある場合にどのような犯罪が成立するかを、おおまかに書いてみます。
(1)強姦致傷罪のみが成立するという処理(例えば強盗致傷罪につき、傷害の故意があっても240条のみが成立する。それと並行に考える)
(2)強姦致傷罪と傷害罪が成立するという処理(強姦致傷罪は故意による傷害結果を評価しない、という理屈)
(3)強姦罪と傷害罪が成立するという処理(基本的には(2)と同じだが、(2)だと傷害結果を2つの罪名で2重に評価していることになるから)
 
1つの行為で2つの罪名が成立した場合は、観念的競合(54条)として扱われ*1、刑の長期・短期ともに最も重いものによって処断されます。
 
ところが、法定刑の重さのバランスで不都合がでます。
傷害の故意がある強姦致傷では、強姦致傷罪(傷害の故意がない強姦致傷)などよりも法定刑が軽くなってはいけないはずです。改正前の法定刑は以下のようになっていました。
傷害罪=「罰金・科料、または(1月以上)10年以下の有期懲役」(204条)
強姦罪=「2年以上(15年以下)の有期懲役」(177条)
強姦致傷罪=「3年以上(15年以下)の有期懲役または無期懲役」(181条)
 
これにより、強姦致傷罪につき傷害の故意がある場合の処理方法は下のようになります。
(1)強姦致傷罪のみが成立する=「3年以上(15年以下)の有期懲役または無期懲役
(2)強姦致傷罪と傷害罪が成立する=「3年以上(15年以下)の有期懲役または無期懲役
(3)強姦罪と傷害罪が成立する=「2年以上(15年以下)の有期懲役」
こうなると、(3)の処理方法では、傷害の故意がない強姦致傷よりも法定刑が軽くなってしまいます。
 
<改正前の状況のおさらい2>
強姦致死罪につき、殺害の故意がある場合にどのような犯罪が成立するかを、おおまかに書いてみます。
(1)強姦致死罪のみが成立するという処理(例えば強盗致死罪につき、殺害の故意があっても240条のみが成立する。それと並行に考える)
(2)強姦致死罪と殺人罪が成立するという処理(強姦致死罪は故意による死亡結果を評価しない、という理屈)
(3)強姦罪殺人罪が成立するという処理(基本的には(2)と同じだが、(2)だと死亡結果を2つの罪名で評価していることになるから)
 
ところが、同様に、法定刑の重さのバランスで不都合がでます。
殺害の故意がある強姦致死では、殺人罪や強姦致死罪よりも法定刑が軽くなってはいけないはずです。改正前の法定刑は以下のようになっていました。
殺人罪=「3年以上(15年以下)の有期懲役または無期懲役、死刑」(199条)
強姦罪=「2年以上(15年以下)の有期懲役」(177条)
強姦致死罪=「3年以上(15年以下)の有期懲役または無期懲役」(181条)
 
これにより、強姦致死罪につき殺害の故意がある場合の処理方法は下のようになります。
(1)強姦致死罪のみが成立する=「3年以上(15年以下)の有期懲役または無期懲役
(2)強姦致死罪と殺人罪が成立する=「3年以上(15年以下)の有期懲役または無期懲役、死刑」
(3)強姦罪殺人罪が成立する=「3年以上(15年以下)の有期懲役または無期懲役、死刑」
こうなると、こんどは(1)の処理方法で、殺害の故意がない強姦致死よりも法定刑が軽くなってしまいます(死刑が選択できない)。

この不具合を避ける理論構成として、前田説は、「致傷の場合は(1)を、致死の場合は(3)を選択する」とします。傷害の場合と死亡の場合とでなぜ処理方法を分けるかといえば、「傷害結果は強姦行為に通常付随しやすく、行為者も傷害の故意をもちながら強姦行為を行うことはまれではない。しかし、死亡結果は強姦行為に通常付随しにくく、行為者が殺害の故意をもちながら強姦行為を行うことはまれである。」からだとします。
 
<改正後の状況>
さて、今回の刑法改正により法定刑に変更がなされ、また、集団強姦罪が規定されました。ここでは、集団強姦致死罪につき、殺害の故意がある場合にどのような犯罪が成立するかを、おおまかに書いてみます。
(1)集団強姦致死罪のみが成立するという処理(例えば強盗致死罪につき、殺害の故意があっても240条のみが成立する。それと並行に考える)
(2)集団強姦致死罪と殺人罪が成立するという処理(集団強姦致死罪は故意による死亡結果を評価しない、という理屈)
(3)集団強姦罪殺人罪が成立するという処理(基本的には(2)と同じだが、(2)だと死亡結果を2つの罪名で評価していることになるから)
 
ところが、やはり法定刑の重さのバランスで不都合がでます。
殺害の故意がある集団強姦致死では、殺人罪や集団強姦致死罪よりも法定刑が軽くなってはいけないはずです。改正後の法定刑は以下のようになっています。
殺人罪=「5年以上(20年以下)の有期懲役または無期懲役、死刑」(199条)
集団強姦罪=「4年以上(20年以下)の有期懲役」(178条の2)
集団強姦致死罪=「6年以上(20年以下)の有期懲役または無期懲役」(181条)
 
これにより、集団強姦致死罪につき殺害の故意がある場合の処理方法は下のようになります。
(1)集団強姦致死罪のみが成立する=「6年以上(20年以下)の有期懲役または無期懲役
(2)集団強姦致死罪と殺人罪が成立する=「6年以上(20年以下)の有期懲役または無期懲役、死刑」
(3)集団強姦罪殺人罪が成立する=「5年以上(20年以下)の有期懲役または無期懲役、死刑」
こうなると、(1)の処理方法で、殺害の故意がない集団強姦致死よりも法定刑が軽くなってしまいます(死刑が選択できない)。さらに(3)の処理方法でも、殺害の故意がない集団強姦致死よりも法定刑が軽くなってしまいます(下限が短い)。

上で書いたとおり、前田説の理論構成からは(3)を選択することになるはずです。しかしここで(3)を選択すると、法定刑の重さのバランスで不都合がでる、というわけです。
 
http://www.devoting.net/mh/study/criminal.html
でも触れられていますが、殺害の故意がある集団強姦致死の処理方法としては、結果の二重評価であると批判される「結果的加重犯と故意犯との成立」をとらないと苦しいわけです。

*1:観念的競合とはならないとされる事例もありますが、ここで扱う事例では観念的競合が成立するとされます