集団強姦致死罪につき、殺意がある場合の処理(2)

きのう(id:kokekokko:20041216#p2)のつづき。
さて、立法当時は、この問題をどのように考えていたのでしょうか。
行刑法(明治40年)の理由書をみてみます。

第百七十七条乃至第百八十条ノ罪ヲ犯シ因テ之ヲ死傷ニ致シタルトキハ特ニ刑ヲ設ケ無期又ハ三年以上ノ懲役ニ処スルコトトセリ是通常ノ傷害罪ニ比シ其情状重キモノアルヲ以テナリ

一見したところ、強姦致死傷につき「傷害罪に比べて情状が重いものもある」といっています。つまり、殺害については言及されていません。ですから、理由書の説明は、前田説の考え方と共通している部分があるように見えます。
いっぽう、旧刑法制定時の議論である鶴田文書はどうでしょうか。草案第三百九十一条では、

前数条ノ罪ヲ犯スニ因テ人ヲ死傷ニ致シタル者ハ殴打創傷ノ刑ニ照シ一等ヲ加ヘ重キニ従テ処断ス

となっています。やっぱり、死亡結果に対して傷害罪の刑に照らしているように見えます。
ところがですね、この草案では、「殴打創傷の罪」の中に傷害致死を含めているのです。

第二節 殴打創傷ノ罪【334条から342条まで】
第三百三十四条 故意ヲ以テ人ヲ殴打創傷シ因テ死ニ至シタル者ハ重懲役ニ処ス

これに至るまでの、強姦致死傷の議論はどうなっているかといえば、もともとの第一案をたたき台にして、

第一案第七条
前数条ニ記載シタル所行ニ因テ人ヲ死ニ致シ又第二章ニ記載シタル廃篤疾病ヲ為シタル者前数条ノ刑軽キ時ハ第二章ノ刑ニ因テ処断ス

ボアソナード

此第七条ハ仏国刑法ニ明文ナキコトナレトモ他ノ外国刑法ニハ因テ死ニ致シ又ハ傷病ニ致シタル時ハ如何スヘシトノ明文アリ故ニ其例ニ倣ヒタリ

鶴田

然リ此死ニ致シ云々ノ法ハ必ス置カサルヲ得ス但此「死ニ致シ又第二章ニ記載シタル廃篤疾云々」トハ殴撃創傷中何レノ場合ヲ云フカ蓋シ予メ謀テ殴撃創傷シタル例ニ比照シテ其重キニ従フヘシトノ主意ナラン若シ否ラサレハ権衡ヲ得サルヘシ

ボアソナード

然リ

鶴田

然ラハ其「予メ謀テ殴撃創傷シタル例ニ比照云々」ノ主意ヲ判然ト記スヘシ

ボアソナード

然リ

(日本刑法草案会議筆記第III分冊2052ページ)
となっています。つまり、草案334条は致死結果を含み、そして「謀テ」結果を発生させた場合と比べて刑の均衡を取ろうとしていたのです。