集団強姦致死罪につき、殺意がある場合の処理(4)

前回(id:kokekokko:20041221#p1)のつづき。初回は12/16(id:kokekokko:20041216#p2)。
<現行法および改正法について>
現行法では強姦致死と強姦致傷とで法定刑に差異がありません。
改正刑法草案では両者の法定刑に差異がありました。詳細な検討は次回にまわすとして今回は要旨のみを書きますと、致死と致傷とに区別されなかったような結果的加重犯のうち、業務上過失致死傷罪などは草案でも致死と致傷とを同じ法定刑で扱うことにしましたが、強姦については、致死結果の重大性を考慮してこれを致傷と区別することにしました。現行刑法において法定刑の幅が広いことに対して、草案は構成要件を細分化することによって法定刑の幅を比較的狭くしており*1、強姦致死と強姦致傷についても、これに従っているようです。
なお、強姦致死罪について死刑を規定すべきではないかという意見がありましたが、強くありませんでした*2
また、強姦致死傷罪につき殺傷の故意がある場合についての判決は、おおむね結果的加重犯と傷害罪・殺人罪との観念的競合という処理をしています。判決への検討も次回以降にまわすとして、下級審で、強姦罪殺人罪との観念的競合を認めたものがある(札幌地判昭和47年7月19日判例時報619ページ)のが目立つ程度です。
 
さて、今回の改正による集団強姦罪・集団強姦致死傷罪についてみてみます。集団強姦では、致死と死傷とで刑の区別がされていません。これについては、あるいは強姦致死傷罪に合わせたものなのでしょうか。説明は見当たりません。そして、集団強姦致死傷罪の法定刑については、酌量減軽ののちに執行猶予がつけられるという理由で下限が懲役6年となった、という説明があります。

第161回衆議院法務委員会会議録第7号(平成16年11月12日)
○大林政府参考人 今回の改正では、強姦罪の保護法益の重大性に着目しまして、従来二年以上十五年以下の懲役とされていました強姦罪の法定刑を三年以上二十年以下の懲役に引き上げるということ、あるいは、無期または三年以上十五年以下の懲役とされていました強姦致死傷罪の法定刑を五年以上二十年以下の懲役に引き上げる。また、集団により行われる強姦につきましては、その悪質性等にかんがみて、一般の強姦より重い処罰の対象にすべきであるということで、集団強姦罪については四年以上二十年以下の懲役に、または、集団強姦致死傷罪につきましては無期または六年以上二十年以下の懲役に処することができる規定を設けました。また、強姦を複数回犯した者につきましては、有期懲役の場合に二十年までしか処することができなかったものを、今回の改正により懲役三十年にまで処することができるようになります。
 このように、強姦に対する被害法益の重大性に着目してその罰則を強化しておりまして、私どもとして、強姦犯罪を軽んずるという気持ちは全くございません。
 他方、この中で最も重い集団強姦致死傷罪に当たる行為につきましては、集団で行うものですから、いろいろな役割分担がある。その中では、比較的軽微な者、具体的に言いますと、特段の前科もない、それから主導的な者に誘われて現場に行った、実際、被害者に対して姦淫行為までは自分は及んでいないというような人もおります。それで、被害者に対しては最大慰謝の措置を講じて示談が成立している、被害者も、その人については処罰は軽くしてくれというふうに言っているような、特殊な事情がある場合がございます。この場合に、執行猶予にするような道を講じておくことが、被害者感情の尊重という面からも、あるいは行為者の社会復帰という面からも相当と思われます。
 そこで、今回の改正では、このような者について執行猶予ができる、例外的ではありますけれども、そのような者については酌量減軽により執行猶予を付することができるというふうにしますと、二分の一にして三年が限界なものですから、結局、法定刑の下限を六年とせざるを得ない。その関係から、強姦致死傷罪を五年、それよりちょっと軽いといいますか、それから致死傷の結果を伴わない集団強姦罪が四年、一般の強姦罪は三年というふうな形になっているものでございます。

いっぽう、今回の改正では殺人罪の法定刑の下限を5年に引き上げています。その点についても、5年の理由は特に述べられていません。ただ、殺人や強姦についての一般予防、威嚇効果を考慮したものだ、という説明があります。

同会議録
○大林政府参考人 ですから、委員がおっしゃるように、今の量刑がおかしいから五年以上に上げるというものではなくて、やはり、そういう強姦犯罪に対する国民の目の厳しさ、あるいは国民にもそういうものを知っていただきたいという、先ほどおっしゃられた、メッセージという言葉を使われましたけれども、そういうことの認識をしていただきたい、いわゆる一般予防の観点からもありますので、そういう観点から刑を上げさせていただいたということでございます。

殺人罪の法定刑の幅が広いのは、極刑に値するものから酌量の余地のあるものまで、犯罪の性質の幅が広いことに対応しており、いっぽう強姦致死罪の法定刑の幅が狭いのは、酌量の余地のあるものが考えにくい一方で、殺意のない犯罪に死刑を科すことに躊躇があるからだというのが一般的な説明です。
殺人罪と強姦致死罪のこの関係が、殺人罪と集団強姦致死罪との間にも存在するようです。そして、集団強姦については、「集団強制わいせつ罪」のような構成要件がない(強制わいせつ罪の共同正犯として扱われる)ぶんだけ、181条(強姦と強制わいせつを同一に扱っている)よりも法定刑の下限が高いのです。
 
<学説の検討>
ではまず、前田説を再確認してみます。前田説は、学説を4とおりに分類してそれらを検討しています。
(イ)傷害・殺人ともに181条(強姦致死傷罪)のみ
(ロ)傷害は181条(強姦致傷罪)のみ、殺人は181条(強姦致死罪)と199条(殺人罪)の観念的競合
(ハ)傷害は181条(強姦致傷罪)と204条(傷害罪)の観念的競合、殺人は181条(強姦致死罪)と199条(殺人罪)の観念的競合
(ニ)傷害は177条(強姦罪)と204条(傷害罪)の観念的競合、殺人は177条(強姦罪)と199条(殺人罪)の観念的競合

刑のバランス論からは(ロ)説と(ハ)説に合理性があるといえる。しかしその理論的説明の点については、むしろ両説が最も苦しいのである。まず(ロ)説には、致傷と致死の扱いが異なる点、さらに致死の場合に故意のある場合を含む181条と故意犯である199条の競合を含む点に問題が存在する。前者の点はともかく、後者の点、すなわち被告人による意図的な被害者の殺害を二重に評価する点は重大な問題といえよう。また、そもそも強姦の際に殺意の存在する場合は例外であり、立法者がそのような場合も含めて181条を規定したとは思われない。
そして(ハ)説も、強姦致死傷罪は死傷の結果について故意ある場合を含まないとする点と、重い結果に故意がある事案に181条を適用することは両立しえるのであろうか。被害者を一つの行為で、故意的に(199条)、かつ故意的ではなく(181条)殺害したことになる。
4つの説のうち最も問題の少ないものを選ぶとすれば、(ニ)説なのかもしれない。理論的には最も合理的であるし、刑のバランスの点でも、いかに傷害の故意があろうとも強姦致傷で無期懲役が妥当な場合は少なく、(ニ)説の15年の刑でも一応説明可能だからである。
しかし、より合理的な解釈論を探っていくと、致死の場合を完全に説明できる(ニ)説は致傷の場合の説明に困り、逆に致傷の場合を比較的うまく説明できる(イ)説は致死の結論に問題があるという点に気付く。そして181条の犯罪類型を刑事学的に考察した場合、たしかに殺意のある場合は考えられないが、傷害の故意は未必の故意を含めれば、むしろ一般的に伴うものであるとさえいえる。そうだとすると、致死については(ニ)説、致傷については(イ)説を採用するという処理がもっとも合理的である。もちろん、条文上なんら書き分けられていない致死と致傷をこのように別異に扱うのは、行き過ぎた実質的解釈であるとの批判も予想される。しかしこの批判も、従来の学説への批判と比較した場合、必ずしも決定的とはいえないであろう。
(前田・各論2版117ページ、太字引用者)

というわけで、前田説は
(ホ)傷害は181条(強姦致傷罪)のみ、殺人は177条(強姦罪)と199条(殺人罪)の観念的競合
とする説です。
この説については支持が多く、「強姦罪の際に、傷害の未必の故意の付随する類型は、刑事学的に見ても典型的なものであり、殺意の付随する場合が、典型的といえないのとは異なる」(山中・各論I149ページ)、「強姦致傷の場合と異なり、強姦行為と殺人とは密接に関連しているとはいいがたく」(大谷・各論第4版補訂版120ページ)、などとされているとおりです。
いっぽう、死傷結果の故意のある場合における結果的加重犯と殺人罪傷害致死罪との両方の成立を、一貫して否定する見解があります。

行為者が致傷の結果を予見する場合には強姦罪と傷害罪の観念的競合となる(大塚・一〇四頁)。反対説は、傷害との関係で、一八一条の適用を認めないと刑の不均衡が生ずる(一八一条の刑の上限が無期懲役なのに対し、強姦罪の刑の上限は懲役一五年)、とするが(団藤・四九五頁)、一八一条の刑が重いのは結果が致死の場合を考慮したためであって、致傷の結果にとどまる場合は、強姦罪の刑の限度にとどめるべきであろう。
(曽根・各論新版68ページ)

ただしこの説ですと、殺害の故意のある集団強姦致死の処理につき、集団強姦罪殺人罪の観念的競合とすることになります。つまり、殺意があるほうが法定刑の下限が低いことになります*3
 
ここで論点を整理しますと、「致死と致傷とで場合わけすることが適切か」(肯定説として前田・各論2版118ページ、否定説として中山・概説刑法II76ページ)、「強姦致死に殺害の故意がある場合を含むことが適切か」(肯定説として中山、否定説として前田)、「結果的加重犯と故意犯とが両方成立することが適切か」(肯定説として中山、否定説として曽根、前田)といったところです。

*1:改正刑法草案解説296ページ

*2:これについては、準備草案の審議のときにも同様に意見がありました。その理由の一つに「強盗致死罪に死刑が規定されていることとの比較」が挙げられましたが、これについては逆に「強盗致死罪の死刑も削除すべき」という反対意見もありました。

*3:なお、曽根説は殺害の故意のある強盗強姦致死につき、結合犯たる強盗強姦罪故意犯包含説による強盗殺人罪との両方が成立する(曽根・新版136ページ)とするが、これでは「財物強取」という事実を二重に評価していることになるのではないだろうか。強盗強姦罪殺人罪との観念的競合とする説(滝川=竹内)を「刑の不均衡が生ずる」という理由で否定している(同136ページ)のは、傷害の故意がある強姦致傷での処理との統一性を欠くと思う。強盗が2つの罪で評価されることへの批判につき、林・各論226ページ、山中・各論I307ページ。