ふろく

今回の刑法改正の審議と、特例法での審議がよく似ている、という話です。どちらも「強姦罪の法定刑引き上げ」に関する審議でした。
 
・治安への不安が高まる中での法定刑の引き上げは国民への宣言であり、一般予防を狙ったものである。

第161回衆議院法務委員会会議録第7号(平成16年11月12日)
○大林政府参考人 やはり、そういう強姦犯罪に対する国民の目の厳しさ、あるいは国民にもそういうものを知っていただきたいという、先ほどおっしゃられた、メッセージという言葉を使われましたけれども、そういうことの認識をしていただきたい、いわゆる一般予防の観点からもありますので、そういう観点から刑を上げさせていただいたということでございます。

第78回貴族院戦時犯罪処罰ノ特例ニ関スル法律案特別委員会議事速記録第1号(昭和16年12月16日)
○政府委員(池田克君)治安の確保の完璧を期したい、かような立場から刑の一般予防の作用に重点をおいたのであります。

同(昭和16年12月16日)
国務大臣岩村通世君) 灯火管制下においてあるいは敵襲を受けたような場合において窃盗をしたならば非常に重くなる、従来は初犯であれば一年以下であったのが、今度は非常に重い、一年以上十年以下の刑罰が科せられることになるのだ、こういうことを一般に知らしめることと云うことが私は大事であろうと思います、その点は今色々工夫を致しまして・・・あるいはこれが通りましたならば、「ラジオ」等でこう云う犯罪は重く罰するのだ、こう云う犯罪は非常に戦時下においては憎むべき犯罪であると云うことを一般に知らしめる方法を採るのが宜しいのではないか、【略】それでこの法律が御協賛を経まして法律となって出る暁において、こう云う犯罪は悪いのだと云うことを、どうしても一般に知らせる方法を採ることが第一であると思います。

・国民が治安の悪化を訴えている、と政治家が主張している。

同(平成16年11月12日)
○南野国務大臣  例えば、内閣府の治安に関する世論調査によれば、治安が悪くなったと思うとする方が、大体、どういうふうに悪くなったかというと、約八〇%以上という結果が出ている。また、自分や身近な人が犯罪に遭うかもしれないという不安、今先生が御指摘されたような、そのような言い回しで言えばわかるかなというところで、不安になるということが多くなったと思う、これは自分が体験し、感じ取るということになってくると思います。そういう人の割合が約八〇%という結論、結果が出ておるということでございますので、このような数字に見られますように、我が国の治安情勢が以前よりも悪くなっているのではないか、自分自身もそのような犯罪の被害に遭うのではないか、そういう不安を持った一般国民の感覚といいますものが体感治安の悪化として理解されているのではないかな、そのように思います。

同(昭和16年12月16日)
○村上恭一君 察する処、どうも裁判所の刑が軽すぎる、司法省の本省で考えるよりも裁判所の刑が軽すぎると云うことであるのじゃなかろうかと思うのでありますが、そのことは詰まり司法本省のご意向ばかりでなく、われわれ世間一般人も同じく左様に感ずる所であります。新聞紙などに喧伝せられまする著名な刑事事件に付きまして一般の心持はもっと重い刑に処せられて然るべしと考えまするのに、裁判所の判決は軽きに過ぎると云う場合が往々あるように思われます。

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あと余談ですが、

同(昭和16年12月16日)
国務大臣岩村通世君) 御承知の通り英米戦の緒戦において非常に輝かしき戦果を収めた訳であります。しかしながらなかなかまだ安心もできないと云うような説明も聴くのであります。仮に敵襲を受けるような不祥事が起こった場合に、かような犯罪が行われると云うことでありましては、政府としては国民に対して誠に相済まぬ、実はこれを理想的に言えば非常に沢山犯罪がありましたけれども、特にこの二つだけは、これだけは用意して置かないと国民に万一の場合相済まない【略】

とありますが、「政府としては国民に対して誠に相済まぬ」と感じるべきは、むしろ、「非常に輝かしき戦果」と称する一週間前の愚行のほうについてじゃないのか、とちょっと思いました。
政府が悪で当時の国民が被害者だった、などという議論には乗りませんけども。