臨時法制審議会議事録(1)

大正15年11月に、臨時法制審議会が「刑法改正ノ綱領」を議決答申しました。この議事録では、その後の刑法改正案(予備草案、仮案、準備草案、そして改正刑法草案)に影響を与えた議論が掲載されています。ところが、この議事録は、「秘」扱いのために法務図書館(国会図書館)では閲覧できません。法務図書館では「見せられない」という立場だったようです。

その審議過程は、わが国における刑法改正問題の原点を明らかにする上で、重要な研究対象であるが、法務図書館に所蔵されているその議事録は、現在(すでに七〇年近くを経ているにもかかわらず)なお「秘」扱いとなっている。
(浅田和茂「刑事責任能力の研究(下)」(1999年、成文堂)58ページ)

「秘」扱いの現状に抗議の意を表すると共に、本資料を含めて「秘」解除のルールが早急に確立されることを切望する。
(同59ページ注6)

これについて以前ちょっと書きましたが(id:kokekokko:20041230)、そのあと私も法務図書館に問い合わせてみたら、「その資料は、ないことになっている」という回答でした。「見せられない」という答えよりもさらにひどくなっていますが(「見せられない」のなら「見せろ」と反論できるが、「ないことにした」といわれればどうしようもない)、さいわい私はこれを参照できますので、ここで責任に関する部分を紹介してゆきます。
保安処分として立法者が想定していたものは3種類であり、その後の草案で規定されている予防拘禁はまだ想定されていなかったことがうかがえます。

第七回(大正14年4月29日)
二十一、保安処分トシテ労働嫌忌者、酒精中毒者、精神障礙者等ニ関スル規定ヲ設クルコト。
○委員長(花井卓蔵君)第二十一号ハ保安処分ノ規定ヲ刑法ニ設クルト云フ案テアリマス、労働ヲ嫌忌スル習癖アルモノ、盗ミヲセネハ食ヘナイト云フコトニナル、酒ヲ飲過キル習癖アルモノ、喧嘩ヲシテ人ヲ傷ケルト云フコトノ起リ易キモノテアル、精神ニ障礙ノアルモノ、如何ナル危険ナル罪悪ヲ犯スカモ知レナイ、要スルニ此三ツノモノハ犯罪ヲ誘致シ易キ素質ヲ有スルモノテアル、又其関係ニ在ルモノテアル、其未タ犯罪ヲ為ササル以前於テ適当ニ防遏【ぼうあつ】ノ途ヲ講セヌケレハナラヌ、然レトモ未タ罪ヲ犯ササル場合ニ於テ刑ヲ科スル訳ニハ参リマセヌカラ、保安処分トシテ是等ノ者カ社会ニ害ヲ為サナイヤウナ途ヲ講シタイト云フノカ趣旨テアリマス、立法例ハ一様テハアリマセヌカ、労働嫌忌者ニ付テハ強制労役場或ハ感化院ニ入レル、酒精中毒者ニ対シテハ飲酒治療所ニ留置スル、或ハ又酒店ノ出入ヲ禁スル、精神障害者ニ対シテハ、精神病院ニ入院セシムル、或ハ精神病者監護ノ責任ヲ負フ者ノ保護ニ托スルト云フヤウニナツテ居リマス。
【つづく】