内乱罪、その本質と幇助罪との関係（その4）

先日（id:kokekokko:20060218）のつづき。
完成した校正第一案と、それに対する検討をみてみます。

校正第一案
第133条　本朝ヲ顛覆シ又日本管内ニ於テ皇権ヲ拒絶シ又天皇ノ特権ヲ減損シ又皇嗣ノ順序ヲ紊乱スルヲ目的トナシタル重罪ハ其内乱ニ与シタル犯人ノ情状ニ依リ左ノ例ニ照シテ処断ス
　1　内乱ノ教唆者及ヒ其ノ指揮長ハ無期流刑並ニ五百円以上五千円以下ノ罰金ニ処ス
　2　其他ノ指揮ヲ為シタル者及ヒ人ヲ使役スル威権アル職務ヲ為シタル者ハ有期流刑ニ処ス
　3　指揮ヲ為サス又ハ威権アル職務ヲ為サス内乱ニ与シタル者ハ重禁獄ニ処ス
　4　前数項ニ記載シタル犯人内乱ノ終ラサル前自カラ捕ニ就ク時ハ軽禁獄ニ処ス
第134条　（官）院省地方各官署ノ権又ハ其長官ヲ顛覆シ又ハ変更シ又ハ其官署ニ於テ政事上又ハ行政上ニ付処分シタル法度ヲ廃止又ハ中止スルヲ目的トナシ内乱ヲ起シタル者ハ前条ニ記載シタル区別ニ従ヒ各々一等ヲ減ス
第135条　内乱ヲ目的ト為シ左ノ件々ヲ犯シタル者ハ前条ノ例ニ照シ処分ス
　1　陸海軍ノ製造所又ハ兵器弾薬及ヒ軍資兵糧ヲ蔵スル場所ニ於テ掠劫ヲ為シタル者
　2　偽計又ハ威力ヲ以テ陸軍ノ陣営又ハ政府ノ船舶並ニ使用スル船舶ヲ占領シタル者
　3　偽計又ハ威力ヲ以テ内乱ヲ起シタル者ヲ鎮静スル為メ出シタル兵隊ノ集会其他諸般ノ事務ヲ妨ケ又文書命令ノ往復ヲ妨ケタル者
第137条　兵隊ヲ招募シ又ハ編制シ又ハ兵器弾薬其他ノ軍備兵糧ヲ賊徒ニ付与シタル者ハ前数条ノ設備トナシ左ノ例ニ照シテ処分ス
【1項以下略】
第138条　其余設備ノ所為アル者ハ前条ニ記載シタル内乱ト其内乱ニ与ミシタル者ノ区分ニ従ヒ各一等ヲ減ス

133条について、フランス法に従った4類型の規定が判りにくいと日本側から指摘されました。そこで当時のドイツ刑法（81条）を参考にして、「国家顛覆」「邦土僭窃」「其他朝憲蔑如若しくは皇嗣の順序の紊乱」とすることになりました。また第4項については、133条だけでなく内乱の罪全体にかかるべき規定なので、規定位置を変更することとしました。
134条については、「官院地方ノ権」の文言が不明確であるとされました。「朝憲蔑如」との区別もつきにくいので、西郷隆盛のような罪についても134条が適用されてしまうおそれがあるとされ、ここでも文言が変更されました。
また137条では、まずこの規定が正犯についてのものであることが明確にされました。

【鶴田】
此第百三十七条ハ内乱ノ正犯ニテ自ラ兵器弾薬兵糧等ヲ設備シタル者ヲ云フナルベシ然ルニ此文段中ニ賊徒ニ附与シタル者云々ト記スル時ハ其正犯ニテ自ラ之ヲ設備シタル者ヲ云フニアラス正犯ニアラサル他ノ者ヨリ正犯ヘ之ヲ附与シタル者ヲ云フニ似タリ例ハ他ノ者ヨリ西郷隆盛ヘ兵器弾薬兵糧等ヲ仕送リタルコトノ様ニ見誤ラントス
然シ若シ他ノ者ヨリ正犯ヘ之ヲ附与シタル者ト云フ訳ナレハ即真ノ附従ナリ故ニ其附従ヲ一等減ト為スヘキコトハ已ニ第一編ノ総則中ニ記スル所ノ明文ヲ以テ推シ及ホスヘキニ付之ヲ殊更ニ記スルヲ要セサルヘシ
【ボアソナード】
然リ第百三十七条ハ固ヨリ真ノ附従ヲ云フニアラス正犯即巨魁又ハ指揮役等ノ自ラ兵器弾薬等ヲ設備シ之ヲ正犯同志相互ニ支給シタル者ヲ云フ

そのうえで137条は、133条・134条の刑を一等減らすとしました。
　
ほかにも、内乱罪について死刑を法定すべきだという指摘が、日本側委員からありました。

【鶴田】
元来国事犯ト雖之ヲ細カニ論スレハ一般ニ悉ク良心ヨリ出テ犯シタル者而已ニアラサレトモ先ツ其良心ヨリ出テ犯ス者多シト見做シ其多ニ就テ大概ヲ論シ流刑ニ処スル訳ナラン通常一人ノ人ヲ殺シタレトモ謀殺ナレハ必ス死刑ニ処スル訳ナレハ仮令国事犯ト雖数十萬人ヲ殺シタル時ハ其公益ヲ害スルコト太タ大ナリ故ニ其国事犯ヲ死刑ニ処セサルハ軽キニ失セントス
且日本ニテハ従前国事犯ヲ特別ニ重ク罰スル政体ナレハ仮令国事犯ノ戦争中ト雖モ多人数ヲ殺シタル時ハ之ヲ死刑ニ処スル様ニ為スハ如何
【ボアソナード】
国事犯ヲ死刑ニ処セントノコトハ決シテ同意シ難シ現今ハ魯国ノ如キ政体ニテモ国事犯ハ死刑ニ処セサルナリ故ニ日本ニテ之ヲ死刑ニ処スル時ハ開化ヲ退歩セシムル訳ナリ
【鶴田】
然ラハ先ツ其説ニ従ヒ置キ正院ノ公議ニ譲ルヘシ