内乱罪、その本質と幇助罪との関係(その6)

先日(id:kokekokko:20060220)のつづき。
司法省による明治28年草案での条文をみてみます。

第85条 政府ヲ顛覆シ又ハ邦土ヲ僭窃シ其他朝憲ヲ紊乱スルコトヲ目的トシ暴動ヲ為シタル者ハ左ノ区別ニ従テ処断ス
 1 首魁ハ死刑又ハ無期禁錮ニ処ス
 2 謀議ニ参与シ又ハ群衆ノ指揮ヲ為シタル者ハ無期又ハ五年以上ノ禁錮ニ処シ其他諸般ノ職務ニ従事シタル者ハ十年以下ノ禁錮ニ処ス
 3 附和随行其他単ニ暴動ニ干与シタル者ハ五年以下ノ禁錮ニ処ス
 
第87条 兵器、金穀ヲ資給シ又ハ其他ノ所為ヲ以テ暴動又ハ其予備、陰謀ヲ幇助シタル者ハ七年以下ノ禁錮ニ処ス

この時点で、ほぼ現行刑法と同様の規定になっています。この直前でいったんは、第87条の規定がない案も出されていましたが、最終的には幇助処罰規定が設けられることになりました。
これについて、以下の理由が付されています。

刑法改正審査委員会決議録第59回(明治27年10月2日)
第八十五条ノ一号ニ教唆者ノ文字ヲ削リタルハ総則ニテ支配セシムルヲ得ヘキモノニシテ別ニ明文ヲ要セサルニ因ル而シテ茲ニ所謂教唆者トハ煽動者ノ意義ナリトス又本条各号ノ犯罪ニ付テハ総則ノ従犯及ヒ教唆者等ノ共犯アルハ勿論ナリ

同 第61回(明治27年10月15日)
行刑法第百二十一条ハ一条中ニ正犯従犯ヲ混シテ規定セリ本案ニ於テハ其不当ニ傚ハス正犯ヲ八十五条ニ規定シ其従犯トナルヘキモノニ付キ第八十七条ヲ設ケタリ
前回ニテ本罪ノ教唆者又ハ従犯ノ如キハ特別ノ規定ヲ設ケス総則ニ依リ処分セシムルノ考案ニ対シ更ニ特別罪トシ刑ヲ盛ラントノ説出テ一回ハ其説ニ決シ条文ヲ設クルニ至リタルモ再議ノ末前回ノ説ニ復シ這般ノ罪ハ総則ニ従テ処分スルコトニ決ス
【中略】
行刑法第百二十七条 削除
 本条ハ普通ノ従犯ニテ処分スルヲ以テ足ル

つまり、旧刑法121条のうち、正犯となる部分を85条で規定し、従犯となる部分を87条で規定した、ということです。そのうえで旧刑法127条を削りました。
旧刑法の時点ではいまだ不明確であった正犯と幇助の区別がここで明確にされたといえます。
その後の明治33年草案の理由書にも、以下のように同様の記述があります。

第九十六条ハ現行法第百二十一条ヲ修正シタルモノニシテ其第一号ヨリ教唆者ノ規定ヲ除キタルハ総則ノ規定アレハナリ第二号ノ前半ハ現行法ノ第二号ト同一ニシテ只枢要ノ職務トアルハ意義不明ナルヲ以テ謀議ニ参与シト改ム後半ハ現行法ノ第三号ノ一部ト同一ニシテ第三号ハ現行法ノ第四号ト同一ナリ
 
第九十八条ハ現行法第百二十一条第三号ノ一部及ヒ第百二十七条ヲ合シ概括的ニ一般ノ幇助ヲ罰スル規定ニシテ現行法ハ幇助ヲ罰スル場合狭キニ失スルヲ以テ之ヲ補修シタルモノナリ