内乱罪、その本質と幇助罪との関係(その7)

先日(id:kokekokko:20060221)のつづき。
ここで、議論になる点をもういちど提示しておきます。
 
(1)現77条2号「諸般の職務に従事」の意義
漠然とした規定である「諸般の職務」とは、具体的に何をさすのでしょうか。
旧刑法121条3項の「諸般ノ職務ヲ為シタル者」に由来するこの文言は、ボアソナード草案の時点では存在していませんでした。
 
(2)現77条3号「付和随行」と「単に暴動に参加」の関係
「単に」とは、「首謀」「謀議参与」「指揮」「諸般の職務に従事」のいずれも行っていないということです。
これについては、ボアソナード草案では「指揮ヲ為サス又ハ威権アル職務ヲ為サス内乱ニ与シタル者」となっており、旧刑法121条4項では「教唆ニ乗シテ附和随行シ又ハ指揮ヲ受ケテ雑役ニ供シタル者」となっています。「教唆に乗じた」ものが付和随行、「指揮を受けた」ものが単に暴動に参加、ということでしょうか。鶴田の説明では、同朋より檄文を回されてやむなく参加した者が付和随行である、とされています。
 
(3)現79条の幇助罪と総則の幇助犯の関係
「77条の罪を幇助した者は処罰する」とわざわざ規定しなくても、幇助犯は総則(62条)で処罰されるはずです。この点につき、草案とその説明は複雑に変化していました。基本的には、内乱罪独特の事情があるようです。まず、正犯の範囲は狭められることになります。たとえば、農村の一揆の参加者をことごとく内乱の正犯として重罪で処罰してしまうと農村に誰もいなくなってしまうとか、軍上層の内乱行為に参加した忠実な軍人を重罪に科すことは過酷であるなどといった事情が、立法者によって説明されています。
そして、幇助犯の成立範囲も、総則規定に依ることができないということが、再三にわたって説明されてきました。

(1)77条2号「諸般の職務に従事」の意義

旧刑法121条3項の「諸般ノ職務」について井上操は、「軍人に喩えれば下士官の職を行った者」と説明しています。これにつき、旧刑法の規定では「兵器金穀を資給し又は諸般の職務を為したる者は」となっており、物資支給という幇助の性質が強い行為と並べられていました。このため、諸般の職務についての井上の例示も、「機密漏洩」「間諜者の誘導」と、幇助犯を意識したものになっています。
ところが現行77条2号は、「参与者」「指揮者」の規定の後に「その他諸般の職務に従事した者は」としています。となると、現行の規定だけを読むと、諸般の職務とは正犯的な行為を含み、むしろ幇助的な行為のほうを含む理由がない、と解する余地もありそうです。しかも、旧刑法では「兵器金穀の資給」と「諸般の職務を為したる者」との法定刑は同一だったのですが、現行刑法では「兵器、資金若しくは食糧を供給」した者(79条)よりも「諸般の職務に従事した者」の法定刑のほうが重いのです。兵器金穀を供給する行為の当罰性が低くなったとも考えにくいので、私は、77条2号の「諸般の職務」とは、正犯的な行為を含むと思います。
とはいうもののこの考え方には問題点が2つあって、その1つは、現行刑法の理由書や、各草案の審議をみても、77条2号の「諸般の職務」は旧刑法121条3項でのそれと同一の内容であると説明されていることです。もう1つは、具体的な行為態様がなかなか思いつかないことです。