法令題名の小ネタ・覚せい剤取締法から

法令の題名と条文の一部の、「覚せい剤」の「せい」の部分には、傍点がつきます。この点はウィキペディアhttp://ja.wikipedia.org/wiki/%E8%A6%9A%E3%81%9B%E3%81%84%E5%89%A4%E5%8F%96%E7%B7%A0%E6%B3%95)の記述が正しいです。
付記すると、この傍点は、濁点の扱いとは異なり、法制執務上、これをないものとして扱うことはできません。傍点をとるためには法改正することが必要です。現に昭和62年法律第98号(精神衛生法改正)では、『「覚せい剤」を「覚せい剤」に改め』るという条文(傍点の削除)があります。
 
この濁点は、六法なんかではちゃんとついているのですが、論文ではつけられていないことが多いです。
論文といえば、最近でたとある文献(コピーを取っていたのですが、引越しの際に紛失してしまいました。以下うろおぼえです。)では、銃刀法を、「銃砲刀剣類所持等取締法」と「銃砲刀剣類等所持取締法」と区別して記述していました。これは、制定当時の題名が昭和40年法律第47号によって改正されたことによるのですが、当該文献を読んでも、その点で使い分けされているようには読めませんでした*1。「民事訴訟法」と「公示催告手続ニ関スル法律」との表記が混在しているようなものでしょうか。
 
題名の改正といえば、日本法令索引では、改廃法令の表示では廃止直前の法令題名になるというルールがあるようです。ですから、旧民事訴訟法を改正した法律では、ことごとく

改正 . 公示催告手続ニ関スル法律 (明治23年 4月21日法律第29号)

となってしまって、ピンときません。明治23年法律第29号は、公布以来100年にわたって「民事訴訟法」という題名であったのに対して、「公示催告手続ニ関スル法律」という題名だった期間は1年ほどです。ですから、民事訴訟法という題名のほうがはるかにわかりやすいです。
にもかかわらず、
http://hourei.ndl.go.jp/SearchSys/viewKaisei.do?i=%3AAAAG%2B1AADAAAAXFAAH%3A
のように、民事訴訟法を改正する法律なのに民事訴訟法がでてこない、ということになってしまいます。
では、改正する法律の制定当時の題名を使えばいいのかといえば、それはそれで難しいのですが。
 
日本法令索引といえば、明治37年勅令第177号を「外国ニ於テ流通スル硬貨紙幣銀行券帝国官府発行ノ証券ノ偽造変造ニ関スル件」としていますが、上諭から件名をつけるならば「外国ニ於テノミ流通スル・・・」でしょう。
ただ、この手の不一致は、日本法令索引の問題というよりは、件名にまつわる一般的問題だといえるのかもしれません。

なお、外国ニ於テ流通スル・・・といえば、ウィキペディア・外国ニ於テ流通スル貨幣紙幣銀行券証券偽造変造及模造ニ関スル法律では「第七条 廃止」となっていますが、これは監視が刑法施行法第5条によって廃止されただけであって、本法の当該条文自体が改正手続きによって削除されたわけではありません。この点は、本法第1条第1項の「重懲役又ハ軽懲役」が刑法施行法第2条によって有期懲役に変更されたことを本法改正扱いとはしない、というのと同様です(現に、当該ページも、本法第1条第1項を書き換えてはいません。ならば本法第7条*2もそのまま記述したほうが、一貫しているでしょう。)。
 
あと、刑法施行法等による変更点として、「重懲役」等の変更(「「懲役」に改められている。」としていますが、刑法施行法の文言は「有期懲役」です。)と罰金額の引き上げを挙げていますが、そのほかにも未遂犯処罰規定も挙げておくべきでしょう。
でないと、

第6条 前数条ニ規定シタル軽罪ヲ犯サムトシテ未タ遂ケサル者ハ未遂犯罪ノ例ニ照シテ処断ス

によって、重罪の未遂の場合には処断できないことになってしまいます。

刑法施行法32条 他ノ法律ニ定メタル罪ニシテ死刑、無期又ハ短期六年以上ノ懲役若クハ禁錮ニ該ルモノノ未遂罪ハ之ヲ罰ス

*1:また、当該文献には「連合国占領軍に附属し若しくは随伴する者の財産の収受及び所持の禁止に関する政令」という記述がありますが、昭和22年政令第165号は「連合国占領軍、その将兵又は連合国占領軍に附属し・・・」です。「又は」がなく「若しくは」が浮いていれば、すぐ気づくかも。

*2:本法ニ規定シタル罪ヲ犯シ禁錮ノ刑ニ処スル者ハ六月以上二年以下ノ監視ニ付ス