告示をすべきとする省令を挙げればよいのか

地上デジタル放送への移行を定める法律(参議院法制局
http://houseikyoku.sangiin.go.jp/column/column071.htm

電波法は、有限な資源とも言うべき電波の割当てのため、総務大臣が周波数割当計画等の計画を定めることとしています。そして、平成13年の電波法改正法は、(1)総務大臣が一定の要件に該当する周波数割当計画等の変更をする場合に、一定の周波数の使用を10年以内に停止することなどを条件として、無線設備の変更の工事をしようとする者に対して必要な援助を行うこと、(2)(1)の援助の業務を他の機関に行わせられること、(3)(1)の業務に電波利用料を使用できることを定めました。

 しかし、このように説明しても“どこに地上デジタル放送への移行が定められているの?”と思われるのではないでしょうか。確かに、改正後の電波法には、「地上デジタル放送に移行する」ということはもちろん、「地上デジタル放送」を表すような言葉すら出てこないのです。

たしかに、電波法(昭和25年法律第131号)には、「地上デジタル」という文言も、「地上アナログは2011年までに終了する」という規定もありません。ただ、「地上アナログ放送の終了は、法令で定められています。」というアピールをよく目にするのも事実です。

 実は、地上デジタル放送への移行と改正後の電波法との関係を理解するには、ある事実を知っていなければなりません。というのも、法律には書かれていないのですが、行政の側では、上記の(1)の「一定の要件に該当する周波数割当計画等の変更」として、地上デジタル放送への移行を内容とする周波数割当計画等の変更を行うことを予定していました。これを知った上で改めて改正後の電波法を読むと、総務大臣地上デジタル放送への移行を内容とする周波数割当計画等の変更をしたときには、必要な援助、他の機関による実施及び電波利用料の使用といった措置が講じられることが定められており、実質としては地上デジタル放送への移行について定められていることが分かるのです。

ただ、このように説明されても、「行政の側」「実質として」などの言葉に引っかかりを感じてしまうのではないでしょうか。法制局の説明は確かに正確ではあるのですが、すっきりしないものがあるのも事実です。
問題の条文はこれです。

(特定周波数変更対策業務及び特定周波数終了対策業務)
第71条の2 総務大臣は、次に掲げる要件に該当する周波数割当計画又は放送用周波数使用計画(以下「周波数割当計画等」という。)の変更を行う場合において、電波の適正な利用の確保を図るため必要があると認めるときは、予算の範囲内で、第三号に規定する周波数又は空中線電力の変更に係る無線設備の変更の工事をしようとする免許人その他の無線設備の設置者に対して、当該工事に要する費用に充てるための給付金の支給その他の必要な援助(以下「特定周波数変更対策業務」という。)を行うことができる。
一  特定の無線局区分(無線通信の態様、無線局の目的及び無線設備についての第三章に定める技術基準を基準として総務省令で定める無線局の区分をいう。以下同じ。)の周波数の使用に関する条件として周波数割当計画等の変更の公示の日から起算して十年を超えない範囲内で周波数の使用の期限を定めるとともに、当該無線局区分(以下この条において「旧割当区分」という。)に割り当てることが可能である周波数(以下この条において「割当変更周波数」という。)を旧割当区分以外の無線局区分にも割り当てることとするものであること。

これを読んで「ああ、10年で地デジに移行するのだ」とはわからない、というのが出発点です。では簡単に説明しましょう。
1.総務省は、電波の周波数を割り当てる
 ちょうど電電公社が加入権者に対して電話番号を割り当てるのと似ていて(乱暴なたとえですが)、総務省は、電波の周波数を割り当てます。たとえば、日本テレビ放送網が「放送するための電波を使いたい」といえば、郵政省(当時)は「では映像は171.25MHz、音声は175.75MHzを使ってください」といって割り当てるわけです。
2.周波数の割り当ては、公示にて公開される(26条)
 この周波数は、周波数割当計画として公開されます。ネットでも(http://www.tele.soumu.go.jp/search/share/)公開されています。これをみると、170〜222MHzの周波数帯は「放送用」とされています(いわゆるVHF)。ただ、この割り当てた結果自体は、法律に規定されません。割り当てられた電話番号が法律に規定されるわけではない、というのと同様です。でないと、アマチュア無線局の開局ごとに法改正をしないといけないことになります。
3.総務省は、周波数の割り当てを変更することができる(71条)
「公益上必要があれば」総務大臣は周波数を変更することができます。この変更の結果も、法律に規定されるわけではありません。総務省が告示します。170〜222MHzの周波数帯については2011年までにテレビ放送用として使用しない旨が告示されており、先述の周波数割当計画にも、「放送業務(テレビジョン放送に限る。)によるこの周波数帯の使用は、2011年7月24日までに限る。」という脚注がついています。
4.71条の2は、一定の条件を満たした割り当て変更に際して、総務大臣が費用援助などをできることを規定した条文である
というわけで、71条の2をいくらながめても「地デジ」という文言がないわけですし、「地上アナログ放送は終了しなければならない」とも書いていないわけです。
 
さて、この状況で、「地デジへの移行は法令で定められているというが、具体的にどの規定で定められているのだ」との問いに、どう答えますか?