刑事判例

【特別刑法判例研究】いわゆるピッキング防止法四条にいう「業務その他正当な理由による場合」に当たらないとされた事例(法律時報2007年5月号107ページ)

「業務その他正当な理由」や「隠して」という、特殊開錠用具の所持の禁止等に関する法律第4条についての諸問題について、よく整理された非常に参考になる判例評釈です。
気になった点を箇条書きにしてみます。

・本件被告人が廃棄物処理法に違反しているのを前提として、法令違反の例として評釈を展開しているようですが(たとえば109ページ最上段4行目以下、同ページ3段12行目以下)、しかし判決文では、当該行為が廃棄物処理法の「目的を害することになりかねない」としているのみであり(107ページ最下段5行目以下)、これをもって法令違反といえるかは疑問です。たしかに被告人は収集妨害行為を行ってはいるのですが、指定有害廃棄物と異なり一般廃棄物は単に収集しただけでは廃棄物処理法違反にはならないわけであり、あえて言えば国民の責務としての協力義務(第2条の3)に抵触する程度であり、ゆえに判決は、この違法性の程度を「社会通念上当然に許される行為とは言えず」と表現しているわけです。とするならば、「法令違反でなくても正当理由から除外される」とするべきかな、と思います。
・「業務その他正当な理由による場合」との文言は、すでに銃刀法や毒物劇物取締法で使われており、銃刀法の判例はかなりたくさんあるわけですから、それとの対比があったほうがよかったかな、と思います。たとえば銃刀法第22条の4では、所持が禁止されているわけではない模造刀剣類について、その携帯を禁止しており、指定侵入工具と事例は似ています。銃刀法では護身目的での携帯が正当な理由には該当しないとされているところ、なにゆえにピッキング防止法では「法令違反の場合に限定するという方向が妥当であるとする」(107ページ3段目15行目)のか、それがピッキング防止法の予備罪的性質に依るのかそれとも法定刑の軽さに依るのかなど、わからないことが多いです。また、軽犯罪法ですでに類似の規定(第1条3号)があるのですから、それとの比較もなされていればよかったかな、と思います。あるいは、そういう趣旨の研究会なのかも。
・本判決が「放置されたパソコンは盗まれたものである可能性がある以上、その分解は社会通念上当然に許される行為であるとはいい難い」としていることについて、この評釈は、「器物損壊罪成立の可能性がある」ことを「業務その他正当な理由」の判断基準とする点にすることは疑問である、と結論付けています。なるほど、この評釈で提示されている判断基準が「法令違反」であるわけですから、この点では一貫しています。それが住居侵入罪の判決例と対立していて、しかもそのことが評釈本文に書かれていないという点もさることながら、より問題なのは、ここでの「正当な理由」が行為者の主観によるものではなく客観的なものである、ということです。評釈はここで「占有離脱物か所有権放棄物かによって、器物損壊罪の成否が分かれる。ならば器物損壊罪が成立しない可能性がある」としています。ということは、指定侵入工具の所持目的となる犯罪行為が客観面において成立しなかった場合は、本罪における「正当な理由」に該当しないということになり、本罪が想定する典型的な事例、つまり住居侵入窃盗の目的で指定工具を携帯していたがその途中路上で見つかった場合に、まだ住居侵入罪も窃盗罪も成立していない以上は本罪も成立しないという帰結になりそうです。あるいは、違法行為を目的としていれば「正当な理由」に該当しないが、その行為が違法でない可能性があれば「正当な理由」に該当する、とするのでしょうか。なお本件では、被告人はパソコンが「所有者が捨てたものかどうか」について、必ずしも分からないとしています。