返信と検討(中編)

前回にひきつづき、みうらさんからいただいたコメントについて考えてみます。
まず、自動車交通事業法は廃止されているが自動車交通事業財団抵当登記取扱手続(司法省令)が廃止されていない、という件についてです。
たしかに自動車交通事業法は廃止されていますが、自動車交通事業財団に関する内容については、同法は現在も効力を有します。

道路運送法(昭和22年法律第191号)【旧法】
附則第2条 自動車交通事業法は、これを廃止する。
附則第5条 自動車運送事業組合及び自動車運送事業組合連合会の清算及び課税、附則第2条の規定施行の際現に存する自動車交通事業財団並びに同条の規定施行前にした行為に対する罰則の適用については、旧法は、同条の規定施行後でも、なおその効力を有する。

道路運送法施行法(昭和26年法律第184号)
(他の法令の改廃)第1条 道路運送法(昭和22年法律第191号。以下「旧法」という。)は、廃止する。
(法施行の際存する自動車交通事業財団)第12条 法施行の際現に存する自動車交通事業財団については、旧法は、法施行後も、なお、その効力を有する。

というわけで、当該司法省令は古い規定ぶりながら生き残っています。特に、国交省法務省というように所轄官庁が異なる場合は、こういう事態がよく起きます。以前書いた感染症予防法(厚労)と、伝染病患者鉄道乗車規程や車両の通行の許可の手続等を定める省令(国交)の場合もこの場合に該当するかもしれません。
 
次に、文化財保護法の改正によって政令が廃止されている例について。
文化財保護法による政令(または勅令)の廃止は、2度行われています。1回目は法律制定の時点(附則)で、2回目は昭和29年改正の時点です。
おそらく、政令・勅令に規定されていた内容を法律で規定したため、当該政令・勅令は「法律の内容を持つ」ものとされたものと思われます。

文化財保護法
第116条3項 管理団体は、その管理する史跡名勝天然記念物につき観覧料を徴収することができる
第117条 管理団体が行う管理又は復旧によつて損失を受けた者に対しては、当該管理団体は、その通常生ずべき損失を補償しなければならない。

史跡名勝天然紀念物保護法施行令
第8条 史跡名勝天然紀念物ノ管理ノ費用ヲ負担スル地方公共団体ハ地方長官ノ許可ヲ受ケ其ノ管理スル史跡名勝天然紀念物ニ付観覧料ヲ徴収スルコトヲ得
第5条第1項 史跡名勝天然紀念物保護法第4条第2項ノ規定ニ依ル補償ハ通常生スヘキ損害ニ限リ之ヲ為ス

この点、昭和29年改正で政令が廃止された件については、文化財保護委員会が通達により、「権利の制限に関する面が強い」という理由で、法律によって政令を廃止したとしています。

文化財保護法の一部改正について(昭和29年6月22日文委企第50号)
従来は、史跡名勝天然記念物を管理すべき団体の指定等に関する政令(昭和28年政令第289号)で規定されていたのであるが、重要文化財について管理団体の制度を規定したこと及び管理団体の制度は権利の制限に関する面が強いことから前記政令を廃止し(改正法附則第5項)、その事項を整備して本法に規定することとした(法第71条の2―第73条の2)。

ところで、法制定の際に廃止された法律(大正8年法律第44号)、勅令(大正8年勅令第499号)は、史跡名勝天然「紀念」物保護法というのが正しい記述ですが、法庫・法令データ提供システム・衆議院はいずれも、
http://www.houko.com/00/01/S25/214.HTM
http://law.e-gov.go.jp/htmldata/S25/S25HO214.html
http://www.shugiin.go.jp/itdb_housei.nsf/html/houritsu/00719500530214.htm?OpenDocument
文化財保護法の附則で、これを史跡名勝天然「記念」物保護法としています。もちろんこれは正確ではないのですが、ひょっとすると、文化財保護法の記述のほうが誤った記述をしているのかもしれません*1。休み明けに官報の確認をしてみます。まあ、法庫の当該法律のページでは、

(復旧に関する命令又は勧告
第122条

という明らかなタイプミス(シフトキーの押し損ない?)をしているので、何とも言えないところではありますが。

*1:追:御署名原本(国立公文書館デジタルアーカイブ)で確認したら、「紀念」物保護法(および施行令)となっていました。となると、官報の誤記か、「紀」と「記」は法制執務上同一の漢字であると扱われているか(「條」と「条」のように)、ということになります。後者は厳しいですが。