法律効力(4)

「法律効力」という概念には、形式面と内容面の2種類があります。まず、形式のうえでの法律効力は、その改廃が法律によるべきかどうかというものです。のちに法律で効力を付与されたポツダム命令や、太政官布告の大部分が、形式のうえでの法律効力を認められた規定にあたります。次に、内容のうえでの法律効力は、法律によって制定すべき内容であるかどうかというものです。たとえば、現在では「国民の権利を制限し義務を課す内容」は国会の議決を経た法律によって制定すべきである(法律事項)とされます。
 
形式のうえでの法律効力は、現在では法律で「法律としての効力を認める」と明記されているものもあり、その範囲は比較的明確です。
1.法律
2.法律によって効力を有するとされたポツダム命令
3.承認された緊急勅令
4.太政官布告などのうち、内容のうえでの法律効力をもつもの

このうち4に関していえば、現行憲法以前や旧憲法以前(公文式以前)の法令については、太政官布告の形式をもつものが罰則や権利制限などの内容を持つ場合には、問題なく法律効力を認められています(爆発物取締罰則など)。それ以外の場合にどうなのかというのが問題ですが、今回は、太政官布告における形式・内容の法律効力を考えてみます。
これについて、議論になった例としては、絞罪器械図式明治6年太政官布告第63号)があります。「最高裁によって法律効力が認められた例」として有名な法令です。

この判決(最大判昭和36年7月19日刑集第15巻7号1106ページ)の理由部分では、当該布告が廃止されたか失効したという法的根拠が存在しない点や、死刑執行方法の重要な事項(基本的事項)が現行憲法下でも旧憲法下でも法律事項である点を理由に、この布告に法律効力を認めました。このうち、前者については失効の有無が論点となり、後者については法律効力の有無が論点となって、これら論点についての裁判官の意見・補足意見が付されています。ここでは、後者から先に検討してみます。
「法律によって規定されるべき」という具体的内容は、時代背景や憲法の要請によって変化します。かつては勅令や命令で規定されていた内容が現在では法律で規定されている例は多くみられるところです。今回の判決では、「死刑の方法についての規定」が、「残虐でないことを担保する」ために法律により定めらなければならない点については一致しており、当該布告の内容が「死刑の方法についての規定」か「執行上の細目についての規定」なのかについて見解が分かれました。河村意見は次のように主張します。

死刑の執行方法については、現行の刑法、刑訴法、監獄法等における諸規定をもつて、憲法三一条の要請は充たされており、それ以上の細目は法律によつて定めることを必要としないものと信ずる。従つて明治六年太政官布告六五号の規定は、本来法律を以て規定することを要する法律事項を規定したものとは考えない。

私の信ずるところによれば、明治六年太政官布告六五号に規定するような死刑執行方法の細目は、明治憲法下において法律事項とは認められていなかつたものであり、従つて右の布告は命令として効力を有していたものであつた。

なお藤田裁判官の補足意見においては、右太政官布告中、絞縄解除時間を二分間とした規定が、監獄法によつて五分間と改められたことをもつて、右の布告が法律と同一に取扱われていたと認める一つの理由とされているが、右の意見中にも述べられてあるとおり、この改正は、最初明治二二年勅令九三号をもつて改正された監獄則三七条二項によつてなされたものである。明治二二年は明治憲法施行前であつて、国会の議決を経たか否かによつて法律と命令との区別をすることはできなかつたけれども、近く憲法が施行されることを予想し、憲法上国会の議決を必要とする事項の規定には、「法律」という名称がつけられた時期である。そのような時期に、法律でなくて勅令たる監獄則をもつて所論の改正がなされたことは、むしろそれが立法事項でないと認められていたことの証左となるものではなかろうか。問題は、その事項に関する法規の制定改廃に憲法が国会の議決を必要条件としているか否かであつて、国会の議決を経ることが妥当か否かにあるのではない。国会の議決を経ることが政策上どんなに望ましいことであろうとも、それを憲法が法規成立の必須条件として要請しているのでない限り法律事項ではないことを銘記すべきである。

太政官布告については、法律事項でなければ法律としての効力を認めることはできないことになります。たとえば褒章条例明治14年太政官布告第63号)は、法律事項であるとは考えられておらず、勅令や政令で改正されています。
 
そして次に、形式のうえでの法律効果があるかどうかが検討されることになります。これについて、先の判決での河村意見は次のような見解でした。

若し右の布告が多数説のいうように法律事項を規定したものであるとするならば、右の法律七二号【命令の規定の効力等に関する法律】一条の文理から考えても、その立法精神に照らしてみても、同法律によつて昭和二二年一二月三一日限り失効したものと解するの外なく、論旨は理由あるに帰するであらう。

ただ、法律事項を規定しているとされる太政官布告はいくつか存在し、それらのすべてが昭和22年法律第72号によって失効となったわけではありませんでした。つまり、当該布告の内容が法律事項であったとしても、法律効力が認められれば、法律として有効であるともいえるわけです。