勲章褫奪令

政令ネタが続いているところで、小ネタを一つ。
勲章褫奪令(明治41年勅令第291号)では、いまでも「責付」(旧刑訴第118条)の語があります。

第3条  勲章ヲ有スル者法令ニ因リ拘禁セラレ又ハ労役場ニ留置セラレタルトキハ其ノ期間勲章ヲ佩用シ又ハ之ニ属スル礼遇、特権ヲ享クルコトヲ得ス外国勲章ハ其ノ佩用ヲ停止ス保釈、責付、仮釈放又ハ刑ノ執行猶予ノ期間亦同シ

行刑訴法が制定され責付の文字が削られてから、この勅令は1回だけ改正されています。そこでの改正は、次のようになっています。

刑事施設及び受刑者の処遇等に関する法律の施行に伴う関係政令の整備等に関する政令(平成18年政令第193号)
(勲章褫奪令の一部改正)
第2条 勲章褫奪令(明治41年勅令第291号)の一部を次のように改正する。
 第3条中「仮出獄」を「仮釈放」に改める。

一連の監獄法改正を受けて用語を改めているのですが、しかし責付の文言は改正されていません。おそらく、過去の責付が発覚した時点での処分を規定しておく必要があるために、あえて残しているのでしょう。
しかしそうなると、現行刑訴法第95条で委託されて勾留の執行を停止された者は、勲章を佩用できるのでしょうか。

刑事訴訟法第95条  裁判所は、適当と認めるときは、決定で、勾留されている被告人を親族、保護団体その他の者に委託し、又は被告人の住居を制限して、勾留の執行を停止することができる。

刑事訴訟法第118条 裁判所ハ検事ノ意見ヲ聴キ決定ヲ以テ勾留セラレタル被告人ヲ親族其ノ他ノ者ニ責付シ又ハ被告人ノ住居ヲ制限シテ勾留ノ執行ヲ停止スルコトヲ得

行刑事訴訟法では、委託による勾留の執行停止と住居制限しての勾留執行停止とを区別していませんが(第97条、第98条では「保釈」と「勾留の執行停止」とを並列している)、旧刑事訴訟法では、責付を独立させています(第119条、第121条では「保釈」と「責付」と「勾留ノ執行停止」とを並列している)。そうすると、似たような処分を受けても、現行刑訴のもとでは勲章の佩用を制限されないことになります。
なお、勲章褫奪令施行細則(明治41年閣令第2号)は、現行刑訴制定後に改正はなく、責付は当然に残っています。

第2条 勲章褫奪令第4条ニ掲クル事由生シタルトキハ当該官庁又ハ行政庁ハ第2号書式ニ依ル賞勲局総裁ニ申牒スヘシ但シ勾留後ノ保釈、責付仮出獄ニ付テハ此ノ限ニ在ラス

 
ついでに、旧刑法における刑を科された場合について。
勲章褫奪令制定時には、令第1条で褫奪される場合の刑は「懲役または3年以上の禁錮」とされていました(これは現在も同じ)。ところが、制定時の附則第3項では、なぜか、令第1条の褫奪の場合を「重罪、重禁錮または3年以上の軽禁錮」としていました。流刑・禁獄は重罪(旧刑法第7条)でありながら禁錮刑(刑法施行法第2条)なので、これでは、同一の犯罪行為でありながら、旧刑法で処罰された者が重い褫奪処分を受けることになってしまいます。
その後、この附則第3項は明治42年の勅令により削除されています。

明治42年勅令第120号(刑法施行後施行ノ命令ニ掲ケタル刑法ノ刑名ニ関スル件)
刑法施行後施行ノ命令ニ於テ人ノ資格其ノ他ノ事項ニ関シ掲ケタル刑法ノ刑名ハ特別ノ規定アル場合ヲ除クノ外左ノ例ニ従ヒ対照シタル旧刑法、旧陸軍刑法及旧海軍刑法ノ刑名ヲ包含ス
 
刑法ノ刑  旧刑法、旧陸軍刑法及旧海軍刑法ノ刑
死刑     死刑
懲役     無期徒刑、有期徒刑、重懲役、軽懲役、重禁錮
禁錮     無期流刑、有期流刑、重禁獄、軽禁獄、軽禁錮