240条と241条 (4)若干の検討

1.学説の再検討(1)

結果的加重犯は重い結果の故意犯を徹底して含まない、とする見解は、強盗が傷害の故意を持って行為して死亡結果が発生した、いわゆる強盗傷害致死の場合についてはどのように考えるのであろうか。
強盗傷人罪について236条(強盗)と204条(傷害)の観念的競合とすることに対応して考えると、強盗傷害致死罪については236条(強盗)と205条(傷害致死)とが成立するとも考えられる。しかし、この場合には、死亡についての故意はないのだから、240条(強盗致死)として扱うこともできるのではないだろうか。結果的加重犯は「重い結果」の故意犯を徹底して含まない、とするのであるから、死亡結果についての故意はない以上は240条を排除する理由はないのである。
また、この見解からは、強盗強姦傷人罪の場合については241条前(強盗強姦)と204条(傷害)の観念的競合になりうるが、前述のとおり、強盗強姦致傷の場合には「致傷結果については241条前に織込み済みである」と考える立場からは、その致傷結果について故意があったとしても241条前に織込み済みであるとも考えることができる。241条前は結果的加重犯の規定ではないので、致傷結果についての故意犯を排除する理由はないのである。
さらに、強盗強姦傷害致死罪の場合について、241条前(強盗強姦)と205条(傷害致死)が成立するとも考えられ、また殺意がない以上は強盗傷害致死罪の場合と同じく241条後(強盗強姦致死)として扱うこともできると考えられる。
 

2.未遂と立法

盗犯防止法では、240条前につき、未遂犯の存在を前提としている*1

盗犯等ノ防止及処分ニ関スル法律(昭和5年法律第9号)  
第4条 常習トシテ刑法第240条前段ノ罪若ハ第241条前段ノ罪又ハ其ノ未遂罪ヲ犯シタル者ハ無期又ハ十年以上ノ懲役ニ処ス

これにつき、団藤・各論3版は「立法者の誤り」としているが、しかしその後も、同様の立法がある。

戦時刑事特別法(昭和17年法律第64号)
第5条2項 戦時ニ際シ灯火管制中又ハ敵襲ノ危険其ノ他人心ニ動揺ヲ生ゼシムベキ状態アル場合ニ於テ刑法第240条前段若ハ第241条前段ノ罪又ハ此等ニ関スル同法第243条ノ罪ヲ犯シタル者ハ死刑又ハ無期懲役ニ処シ同法第240条後段若ハ第241条後段ノ罪又ハ此等ニ関スル同法第243条ノ罪ヲ犯シタル者ハ死刑ニ処ス

戦時刑事特別法では、240条前につき盗犯防止法と同様の前提を置いているうえ、さらに240条後・241条後についても、未遂犯の存在を前提としていた。
同時期の立法例として改正刑法仮案(昭和15年)があるので、これは立法者の誤りというよりは一貫した考えであるとみたほうが自然ではないだろうか。

3.学説の再検討(2)

重畳適用説は、条文の重畳適用によって、「不法内容を明らかにする」という。たとえば強盗殺人については、240条後のみの適用だと殺意という不法内容が明示されないため、あわせて199条をも成立させて殺意を明示する、というのである。
 
(1)強盗殺人罪: 240条後(強盗殺人)と199条(殺人罪)との観念的競合
(2)強盗強姦殺人: 241条後(強盗強姦殺人)と199条(殺人罪)との観念的競合
(3)強盗強姦致傷: 241条前(強盗強姦)と240条前(強盗致傷罪)との観念的競合、あるいは241条前(強盗強姦)と181条前(強姦致傷罪)との観念的競合
 
ここで検討すると、重畳適用する程度・範囲は、明らかにはなっていないであろう。「不法内容を明示する」というのであれば、傷害罪につき204条のみを適用してしまうと暴行行為が明示されないということになるが(204条は暴行によらない場合も含むため)、しかしここでさらに暴行行為をも明示するのであれば208条と204条の観念的競合ということになり、煩雑に過ぎることになる。また、傷害罪につき204条のみを適用してしまうと傷害の故意が明示されないということになるが(204条は傷害の故意がない暴行致傷の場合も含むため)、しかしここではさらに傷害の故意を明示する方法はない。
また強盗殺人で240条と199条とを重畳適用するというのであれば、強盗が未遂に終わった場合には240条が成立する(強盗未遂でも死亡結果が発生すれば240条は既遂に達する、という通説に従うと)ことになり、強盗既遂殺人との区別がつかなくなる。そうなると強盗既遂殺人の場合には「強盗既遂という不法」を評価しなければならなくなり、さらに236条が必要ということになる。
そうなると、重畳させるのは殺意のみに限る、とするべきではないだろうか。論者自身も、重畳適用させる理由として、死亡結果についての故意犯と過失犯とでは定型が異なる点を挙げている。(論者は強盗強姦致傷についても傷害結果を明示すべきだとするが、それに従うと、強盗結果の明示のために強盗強姦罪で236条を重畳適用しなければならないことになる。)ただ、殺意を明示するためには199条は過剰であるとも考えられる。というのも、明示すべきは殺意であるのに対して199条は殺意のみならず死亡結果をも表しているので、死亡結果の二重評価という批判は免れない。そうであるなら、重畳適用するのは殺人既遂罪ではなく殺人未遂罪とするほうがいいであろう。ただそれに対しては、故意の殺害であるのに殺害行為と死亡結果とが結び付けられていない、という批判があるであろう。
また、強盗傷害致死罪の場合について、240条と205条(傷害致死)との重畳適用とすると、致死結果についての明示が不要となり(240条ですでに示されている)、また240条と204条(傷害)との重畳適用とすると、ここで手段たる傷害を明示することになってしまう(204条に暴行致傷が含まれる以上、これでは傷害の故意の明示にならない)。 
(つづく)

*1:「若ハ」よりも「又ハ」のほうが大きいので、「其ノ未遂罪」は「第240条前段」にも係る。