論文を読むことにしました。

最近読んでないな、と思って。
週5日、毎日1本のペースで1か月間を目標にしてみます。
 
■鎌田隆志「危険ドラッグ事犯における故意に関する捜査とその立証」(警察学論集68巻3号42ページ)
<概要>
・危険ドラッグには定義がなく、「規制薬物」(覚せい剤大麻など)と「指定薬物」(旧薬事法*1により、省令で指定される薬物)と、さらに「未規制の危険ドラッグ」がある。
・所持などにおける「指定薬物」の故意には、「規制薬物と同様の幻覚、中枢神経系の興奮・抑制等の作用を有する物質である」という意味の認識が必要。また、「規制薬物とは異なる」との意味の認識が必要。
・故意の認定では、被告人が「売人から合法だと聞いた」旨の弁解をすることが多い。
・しかし、所持の態様(隠している)、挙動、検挙歴や薬物使用歴などから故意を認定できることが多い。検挙歴とは、一度検挙されると「合法ですと売人が言っていたとしても実際には指定薬物であることが多く処罰対象になるということがわかりました。今後は、合法と言われても手を出しません。」という調書を取るので、以後「合法だと聞いた」と供述しても弾劾できるということ。また薬物使用歴とは、意識を失ったり前後不覚になったりする際に家族や病院関係者から薬物の違法性について説明を受けているということ、またそもそも意識を消失する体験をしておきながら当該薬物の違法性の疑いを抱かないことは不自然であるということ。
<読んで>
・気になるのは、重い罪の故意で軽い罪の結果を起こしたときの処断(逆は38条2項)。「規制薬物」(大麻)の故意で「指定薬物」(省令ドラッグ)を所持したときに、いかなる罪が成立するか。本論文46ページでは「軽い指定薬物所持罪の限度で同罪が成立するものと考えられる」とするが、その根拠はどこにあるか。「規制薬物」と「指定薬物」は、客観的にも異なり(医薬品法では「指定薬物」の定義で「規制薬物」を明確に排除している)、主観的にも「「規制薬物とは異なる」との意味の認識が必要」とするならば、なぜ軽い罪が成立するのか。通常この説明で用いられる「構成要件の重なり」にしても、今回は「指定薬物」が省令で逐一指定されており、また「規制薬物」を排除しているとできるのか。さらに、条例で規制される「知事指定薬物」については、条例で規制されるものが「規制薬物」を含んでいるということになり、条例にそのような制定権限があるのか。
・また、覚せい剤の故意の要件として「社会的な意味の認識」を挙げているが(45ページ)、「所持や使用が禁じられ」というのは、違法性の意識であり、「違反すれば処罰され得る」というのは可罰性の認識になってしまうのではないか。あるいは、「指定薬物」の意味が「指定されている」(≒禁じられている)ということであるということを正面から認めるものか。確かに、そうでないと「規制薬物」「指定薬物」「知事指定薬物」「未規制の危険ドラッグ」の各客体は、主観面では区別できないことになろう(薬理作用が類似しているため*2)。
 
■中村邦義「強盗殺人および強盗強姦殺人の擬律」(産大法学48巻1=2号115ページ)
<概要>
・強盗犯人・強盗強姦犯人が殺意を持って被害者を殺害したときの適用条文。
・強盗殺人については、240条不適用説と適用説があり、本論文は適用説を採用する。しかし強盗強姦殺人については、241条不適用説と適用説があるが、本論文は不適用説を採用する。181条2項(強姦致死傷罪)と同様。
・241条不適用説は、その処理により4つに分けられる。(1)強盗強姦罪殺人罪の観念的競合、(2)強盗強姦致死罪と殺人罪の観念的競合、(3)強盗強姦罪と強盗殺人罪の観念的競合、(4)強盗殺人罪強姦罪の観念的競合。本論文は(4)を支持する。理由は、法定刑の均衡、死亡結果の二重評価の回避、強盗の二重評価の回避。
・立法論としては、240条、241条ともに殺意の有無で書き分ける方向が望ましい。
<読んで>
・死亡結果を除外した「強盗」と「強姦」が成立するとして、ここに死亡結果を上乗せするから、「強盗殺人」と「強姦」になる、というように考えると、本論文の構成は確かに合理的ではある。なぜ「強盗」の側に上乗せするかといえば、「殺害行為」と結びつきがより強いのが「強盗」だから。
・傷害結果発生時には「強盗強姦」だけが成立して、そこに傷害結果を上乗せするのに、なぜ死亡結果発生時には「強盗」と「強姦」に分けるのか、という疑問は当然残るであろう(241条適用という前提からは特に)。
・あるいは、(3)の立場からの(1)に対する批判として「強盗がした殺害である以上は199条は適用されない」というものがある。これにならえば、「強盗がした姦淫である以上は177条は適用されない」と言えるのではないか。
・また、243条(241条の未遂)をどう把握するのか。240条の未遂としての243条は「殺意があったが死亡結果が発生しなかった強盗殺人未遂を指す」とし、241条後の未遂としての243条は「殺意があったが死亡結果が発生しなかった強盗強姦殺人未遂を指す」とするのが有力説だが、(4)だとその解釈がとれない。「強盗強姦は殺害と結びつかない」という(私もそう解するが)のが(4)の根本思想なのだがそれだと243条の解釈で苦しむのである。243条でいう「241条」は前段だけを指す、という解釈も可能だが、それは立法例と反する(id:kokekokko:20111102#p2)。

*1:医薬品、医療機器等の品質、有効性及び安全性の確保等に関する法律

*2:そもそも「指定薬物」は薬理作用を「規制薬物」に似せて作られている。