内乱罪、その本質と幇助罪との関係(その2)

先日(id:kokekokko:20060216)のつづき。
前回の草案をもとに、ボアソナードと鶴田との間で検討がなされました。

第134条 国家ヲ顛覆シ又ハ邦土ヲ僭窃シ其他朝憲ヲ蔑如シ若クハ皇嗣ノ順序ヲ紊乱スルコトヲ目的ト為シ内乱ヲ起シタル者ハ左ノ区別ニ従テ処断ス
 1 内乱ノ教唆者及ヒ首謀者ハ無期流刑ニ処シ五百円以上五千円以下ノ罰金ヲ附加ス
 2 内乱ノ与シテ群衆ノ指揮ヲ為シ其外威権アル職務ヲ為シタル者ハ有期流刑ニ処ス
 3 指揮ヲ為サス及ヒ威権アル職務ヲ為ササル者ハ重禁獄ニ処ス

まず、当時のフランス刑法第91条と比較して、天皇に対する罪との分離がはかられました。皇権・皇朝を覆す目的での内乱行為は、天皇に対する罪であるとされ、それ以外のものを内乱罪で扱うこととなりました。

ボアソナード
仏国刑法第九十一条ノ内乱トハ第一章第三条皇権ヲ拒絶スル云々天皇ノ主権ヲ害スル目的ニ出テタル者ニハアラス【略】然シ全国ノ大政ヲ改革センガ為メノ目的ニ出テタル者ハ第一章第三条皇権ヲ拒絶云々ノ罪ニ入レテ論スヘキモノナリ

これにより、「天皇に対する罪(第1章第3条)以外の目的で」という文が挿入されることとなりました。
 
いっぽう、死刑については、フランス刑法の例にならって内乱の法定刑としては死刑を置かないことを主張したボアソナードに対して、鶴田は、日本の内乱のなかには不正を改革するためのものとはいえないような事例も多く、これに死刑を科すことが必要であるとしました。これは結局、内乱時に発生する殺人や放火などで定められている死刑で処断しようということで討論は決着したようです。
というわけで、第一案が確定しました。

第一案
第1条 第1章第3条ニ記載シタル天皇ノ主権ニ対スル重罪ヲ目的トスルニ非サル内乱ヲ起シタル者ハ軽流刑ニ処断ス
政府及各府県ノ官署ノ一個又ハ数個ヲ顛覆シ又ハ其官署ヨリ頒布シタル制令ヲ廃セシメ又ハ之ヲ中止セシムルヲ目的ト為シ兵器ヲ持シテ群集シタル者ハ内乱者ト同シク論ス